せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
289 / 432

289『ジョージ・クロイツ中佐』

しおりを挟む
※またアレクシア視点に戻ります。



 朝食の後、再び寝室へ呼ばれた。
 何か用があるのなら、どうせ二人きりだしその場で言ってくれてもいいのにと思った。エリオンの真意が分からず、私は頭の中で首を傾げる。

 エリオンは開け放たれていた窓を締めると、カーテンもぴっちり閉じた。明るい日の光が差し込んでいた寝室が一気に薄暗いものになる。彼がこれから何をするつもりなのか、察しの悪い私でも察してしまった。
 今日、エリオンは休みだ。朝からそういうことをしようと思えば出来る。今日は業者も来ない日だ。

 胸の奥がどくんと跳ねるが、嫌な気持ちではない。それでも。ベッドに薔薇の花びらを散らせとまでは言わないが、もう少しロマンチックな雰囲気で誘ってほしいと思った。しかし、相手は何かと不器用なところのあるエリオンである。こちらの恐怖心を煽るような誘い方しか、彼はできないのかもしれない。心の中で苦笑いした。

 ──今の私は、今までの私じゃないわ。

 男女のことを何も知らなかった私は、この数ヶ月間、程々に経験を積んでいるというヘレナから、閨の事を色々教わっていた。もう受け身でばかりいる私ではない。
 ぎゅっと拳をにぎり、怖気付きそうになる心を奮い立たせる。ここで怯んだらまたレス状態が続いてしまう。そんなのは嫌だ。

 私は振り返ったエリオンに力強くこう言い放った。

「アレク……」
「エリオン様、ズボンを脱がせてもいいでしょうか!」

 私の言葉に、エリオンは凍りついたようにピシリと固まる。そして、絨毯を引き摺るように一歩二歩後ずさると、声を震わせた。

「ず、ズボン……? なぜ?」
「エリオン様の陽根を舐めるためです」

 エリオンは「ひっ」と小さく悲鳴を漏らした。その翡翠の瞳は、信じられないと言わんばかりに見開かれている。

 ──やっぱり。

 エリオンの反応を見て確信した。枢機院で働きはじめた彼は精神疲労のせいで不能気味になっていたのだろう。
 爺専のヘレナは独り者の枢機官数名と付き合った事があるらしいが、その誰もが雄を直接刺激しないと勃ちあがらない状態であったらしい。
 枢機院はこの国の中枢だ。選りすぐりのエリートが集まる苛烈な競争社会。派閥争いが絶えずあり、皆が皆、精神的に疲れていた。
 ヘレナは言った。エリオンは精神疲労が原因で、性的に不能気味だから私と交われないのだろうと。
 ヘレナ曰く、軽度の勃起障害ぐらいなら、こちらが口や手で刺激してやればなんとかなるものらしい。私はヘレナに聞いた男を悦ばせるコツをメモし、こっそり毎日読んでいたのだ。

「……あら?」

 固まっているエリオンの目の前に膝をつくと、すでに彼の股間には布地をくっと押し上げるものがあった。エリオンは今、タイトなズボンを履いているからか、肉棒の形がくっきり浮き出ている。ズボンの上から、股間に触れるとそこはじんわり温かかった。
 頭上から、動揺しきったエリオンの声が降ってくる。

「そ、そんなところ……! さっ、触ってはダメだ……!」
「え? どうしてですか? これから交合をするのでしょう?」
「えっ、それはその」
「わざわざ寝室に呼んで、カーテンも閉めて。私と閨のことをするためですよね?」

 少々あけすけすぎるが、ここで周りくどい言い方をするのもまどろっこしい。私の問いに、エリオンは喉を鳴らすと、顔をこれでもかと赤らめて頷いた。

「では、失礼しますね」

 私はエリオンのベルトに手をかけた。私には少し歳の離れた弟がいて、小さな頃は着替えを手伝ったこともある。実は人の脱ぎ着を手伝うのは慣れていた。あっさりベルトを外し、ズボンの留め具に手をかける。すでにエリオンの雄はがちがちに勃ちあがっていて非常に窮屈そうだった。早くここから出してあげなくては。頭上からエリオンの浅い息遣いが聞こえてくる。
 なんとかボタンを外し、ズボンをずり下げる頃には、エリオンの下着は先走りの液で濡れていた。

 ──……不能じゃないのかしら?

 むしろこの状況は健康すぎるぐらいだろう。
 エリオンは脱がされるだけで、これだけ興奮できているのだから。

「アレクシア……。俺のことが気持ち悪いんじゃ無いのか?」

 切羽詰まったようなエリオンの言葉。私は数回瞬きした。

「どうしてですか? 私はあなたのこと、好きですけど?」

 好きでなきゃ、さすがに復縁は出来ない。それにこの三ヶ月の間に私から閨の誘いをしたこともある。気持ち悪いと思っていたら、そもそも一緒に暮せない。

「す、すき……?」
「はい! 大好きです!」

 またエリオンはぴしりと固まった。その隙に下着を脱がせる。ぶるんと勢いよく出てきた彼の雄は天を仰ぎ、亀の頭のような先が張り出している。約一年半ぶりに目にした肉棒。彼に襲われた事自体はあまり良い思い出ではないが、コレには随分気持ちよくして貰った。

 ──どうしよう……。

 ヘレナからは、柔らかい雄をなんとか奮い勃たせる方法は教わったが、すでに目の前にあるものは臨戦態勢だ。でもまあ、勃ちあがっていても触れば気持ちよく感じて貰えるかもしれない。そう思い、手を伸ばそうとしたら。
 逆にエリオンから手首を掴まれてしまった。

「エリオン様?」
「君に触らせている余裕がない」
「えっ、え」

 腕を引っ張られると、そのままベッドに押し倒された。視界がぐるりと回る。腰や背に手を回されると、ドレスを固定していた紐をしゅるんと解かれる。襲うように着ていたものを乱暴に剥がされ、私は慌てた。

「ドレスが皺になります!」
「また買ってやる」

 性急な手つきで剥き出しになった乳房を握りこまれ、もう片方の手で顎を上向かされた。抵抗する間もなく、唇を重ねられ、口内に滑る舌をねじ込まれた。
 こんなに切羽詰まるまで我慢するのなら、私が誘った時に普通に抱いていればいいのに、エリオンはどうしてもラブラブな雰囲気で楽しい交接が出来ない人らしい。そして襲われている私も、この状況を少し悦んでしまっている。

 ──割れ鍋に綴蓋ね……。

 また心の中で苦笑いしながら、エリオンの舌に自分の舌を絡めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

天気雨の庭

鹿野 秋乃
ライト文芸
 人間の生きる世界は、人間の集合認識によって成り立っている。超能力者たちは、異常な超認識でそれを塗り替える。「普通」の青年アルネは、常識を脅かす超能力者たちの事件に関わり、その真相を解き明かして行く―――。

【完結】カワイイ子猫のつくり方

龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。 無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

処理中です...