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285『「恋するマネキン」を観る』

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せやさかい

285『「恋するマネキン」を観る』   




 灰燼に帰した新首都は見る影もなく、荒涼たる瓦礫の上を気の早い北風が吹きすさぶばかり。

 ガサリ ガサガサ ガサガサ……

 元は何のパーツか分からない砕けが瓦礫の山から転がり落ちる、長引いた内戦に気力も体力も失った者には風のいたずらに見えたかもしれない。

 ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン

 転がり落ちる途中で砕けに火花が散って、砕けは微細な破片になって転がり、瓦礫の山を半分も下らないうちにさらに微細な埃になってしまい、北風に吹きさらわれてしまった。

 チ

 ネキンは、もう何回目になるか分からない舌打ちをすると、やっと、銃身の焼けたパルスレーザを下ろした。

「ネキン殿、まだまだ先は長い、熱くなってはもたな……」

 副長の忠告は尻切れトンボになった。この三日、ネキンの手綱を締めっぱなし。さすがに疲れたか……

 振り返ると、副長の頭には野球ボールほどの風穴が空いている。

 ドサ

 ネキンの身じろぎが伝わったのか、副長はネキンの驚愕と同時に倒れて、デブリの埃を舞いあげた。

 ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン ピシュン

 パルスレーザーを乱射しながら跳躍。

 着地したネキンの鼻先には赤いパルスレーザーのポインターが当たっている。

「動いたら撃つ!」

 意外の至近距離にマネキ。パルス狙撃銃のトリガーは半分まで絞られている。ネキンの能力でも切り抜けられる確率は二割も無い。

「マネキ、右脚を失ったのか?」

「そうよ、だから、ここにおびき寄せるまでは手が出せなかった……ネキンをおびき寄せるのに五人も命を落とした。その五人のためにも、ここで仕留める!」

「さっさと撃てばいいのに、副長を仕留めた腕なら造作もないだろ」

「ダメ、副長は、自分が死んだという自覚もないままに逝ってしまった。ネキンには自覚して逝ってもらう」

 ピシュン

「ウッ」

 マネキは、瞬間で照準を変えて、ネキンの右脚を吹き飛ばした。

「あんたにも、同じ痛みを味わってもらわなきゃね」

「くそ……」

「次は仕留める……」

 シュビーーン

 パルスレーザーよりも重い銃声がしたかと思うと、二人の銃のバレルが消し飛んだ。

「「!?」」


「そこまでです!」


 声のする方を向くと、瓦礫の斜面から一メートルほど浮いてブロンドの美少女が実体化している。

「「ノルンの女神……」」

「他の時空に手間取っているうちに、ここまでこじれてしまったのね……」

「あんたは、任せると言ったんじゃないのか」

「言いました。とても仲良しの二人だったし、あなたたちに任せれば、この時空世界はうまくいくと思いました。だから、マネキにはソドム。ネキンにはゴモラの国を任せたのです。対立するのではなく競い合い励まし合って、それぞれの国を発展させてくれるだろうと……二人とも、お互いの夢を尊重し、尊敬していましたね。人の心は移ろうもの、夕べ白であったものが、今朝には黒になるのが世の習い。しかし、マネキとネキンの二人ならば、その習いを覆し、この地上にヴァルハラの如き美しく堅固な国を作るであろうと思いました」

「作ったよ、ここにあったよ! 新生ソドムが!」

「わたしも、新生ゴモラを栄えさせた!」

「「でも!」」

「お黙りなさい!」

「二人は、夢の実現、二つの国の弥栄のため、二人の関係を兄妹にしてくれと言いました」

「「え?」」

「兄妹ならば、齢(よわい)を重ねても、尊重し合いながら、冷静に見ながら国造りに励めるだろうと」

「他人同士だった?」

「なんてこと!?」

「道理で似てないわけよね」

「合わないわけだ!」

「お黙りなさい!」

「「…………」」

「あなたたちは、将来を約束した恋人同士でした」

「「えええ!?」」

「しばらくは、二人の未来も棚上げにして、ソドムとゴモラの国と人々に尽くそうと、わたしに頼んだのですよ『二つの国を平和で豊かな国にするため、わたしたちを兄妹にしてください』と」

「「…………」」

「いま一度、あなたたちを……」

「「無理です!」」

「他人同士に戻します、そして、治める国も入れ替えます。いま一度やりなおしなさい」

 そう言うと、ノルンは両手でハートの形を作り、それを分けるような仕草をする……すると、二人は白く光り出し、瞬くうちに無数のポリゴンのように分解し、それまでとは逆の国の空に流れて消えてしまった。

 それぞれの空を一瞥すると、ノルンは、静かな足どりで瓦礫の街を歩み始める。

 ノルンが歩いた跡には、一叢ずつ草花が萌えはじめ、エンドロールがテーマ曲と共に流れ始めた。



  恋するマネキン 第一期 完



テイ兄ちゃん:「……で、どれが頼子さんやったんや?」

 テイ兄ちゃんが間抜けなことを言う。

さくら:「出てるやろが……」

留美:「エンドロールに……」

詩(ことは):「あ、ノルンだったんだ……」

おっちゃん:「いやあ、声もベッピンさんや……」

おばちゃん:「緊急事態も、いよいよ解除ねえ」

ダミア:「ニャーー(また会いたいなあ)」



 夕べは人気深夜アニメ『恋するマネキン』の最終回。

 如来寺では家族みんながリビングに集まって80インチのテレビで鑑賞しました。

 主役のマネキとネキンは人気声優の百武真鈴さんで、じつは真理愛学院に通う生徒会役員の現役女子高生。

 その百武さんが、卒業式の送辞を頼子さんに頼んだんやけど、ガードのソフィーが「その代わりにヨリッチ(頼子さんの学校での愛称)を『恋するマネキン』に出してください」と粘って実現した夢の交換条件。

 ちなみに、エンドロールの名前は正式なもんでした。

 ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン

 むろん横文字で……ちなみに、これはお祖母さまの女王陛下の注文やったんやそうです(^_^;)。
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