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281『三月三日うたた寝の夢』
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せやさかい
281『三月三日うたた寝の夢』
さくらは~ん……さくらは~ん……
はんなりと呼ぶ声に目を開けると、机の上にお雛さん。
「ほほほ、春眠暁を覚えず……どすなあ」
手で隠した口の上には、眉を剃ってへの字にした目が笑ってる。
白の着物に緋の袴、笑い収めて手を下ろすと、微笑んだ口は真っ黒け。
初対面やったら、お雛さんのお化けやと思うところやろけど、うちは思い出した。
「あ……さんぽうさん!?」
そう、段飾りのお雛さんやったらお内裏さんの下に三人で並んでる三人官女のセンター。唯一の既婚者のさんぽうさんや。
「さいどす、さんぽうどすえ。こなたさんとは二年ぶりどすなあ」
せや、さんぽうさんは、お母さんの段飾りの中に居てたんやけど、結婚した前後にお父さんに預けて、それ以来行方不明。
一昨年、学校からの帰り、角曲がったら家やいう道端で会うたんや。
「前は等身大やったのに、なんや、1/6のフィギュアのサイズになってしもて……」
「ちょと遠いとこにおりますよってに、ライフサイズで出る力がおへんのどす。まあ、これが雛人形としての普通サイズでごわりますよって、堪忍しておくれやす」
「あ……ひょっとして、雛飾りしてないから!?」
「いえいえ、それはかましまへんのどす。お寺も忙しみたいどすし……それに、家の女の子が無事に成長おしやしたら、自然と飾られへんようになるのが、雛人形の運命どす」
「あ、まあ、そうなんやろけど……去年も今年も忘れてしもて、ほんまに……」
ごめんなさいを言おうと思って体を起こそうとしたけど、全然からだが動かへん。
「どうぞ、そのまんまで。今は、夢とうつつの境にあらっしゃいますよって、無理に動ことなさいますと、障りにならっしゃいますえ」
「そ、そうなんだ(^_^;)」
「じつは……」
「なに?」
「そーれ(^▽^)」
軽くジャンプしたかと思うと、さんぽうさんは、枕もとまでフワリと飛んできた。
「歌さんのことどす」
「お母さん?」
平静を装って穏やかに聞き返すけど、内心は心臓が飛び出すんちゃうかいうくらい動揺してる。
「不憫やなあ、さくらはんは……」
さんぽうさんは優しい目ぇになって、1/6の小さな手ぇで、うちの頬っぺたを――いい子いい子――いう感じで撫でてくれる。
ウ……ウ……
「お泣きやしてもええんどすえ……日ごろは、意識にも上らんくらいに、堪えておいやしたんやさかい、ここにさんぽうがおります、どうぞどうぞ、お泣きやす……」
「だ、だいじょうぶ……なんか話があるさかいに来たんやろ?」
「歌さんは、ウクライナにいてはるのんどすえ」
「ウクライナ?」
「ほら、そない『う、暗いなあ』いうような顔するくらいならお泣きやす」
「『う……暗いなあ』って、ギャグ?」
「おほほ、ちょっとてんご言うてみたい気分どしたんや」
「さんぽうさん……」
「歌さんは、大事な御用で世界中を飛び回っておいやすんどす。歌さんもこなたさんの事を気に掛けておいやすんえ」
「ほんま? お母さん、うちのこと思てくれてるん?」
「はい、三日に一回くらいは思い出してため息ついておいやすえ」
「三日に一回……」
「気ぃ落としたらあきまへんえ、それだけ忙しいて…………大事なお仕事どすのんえ……」
「いま、危ないって言おうとした『…………』のとこ?」
「聡いお子やなあ……せやさかいに、さんぽうが付いてますんえ」
「そうなんや、安心しててええねんね?」
「はい……雛人形は、お子が大きゅうなったら、しまい込まれて出すのんも忘れられますけどな、歌さんのことは、心のどこかに写真たてでも置いて、思い出しておくれやす……」
「う、うん……」
「それから、留美ちゃんのお母さんも無事に……つつがのうおわしますよって」
「ほんま?」
「はい……」
「留美ちゃんには言うたげへんのん?」
「うちの姿は、こなたさんにしか見えまへんどっさかいなあ」
「そうなんや……」
「あ、留美ちゃん、お風呂あがらはります……ほな、これにて……さいならあ……」
「さんぽうさん……さん……さ……」
さくら、ちょっと、さくら……
留美ちゃんがシャンプーの匂いさせながら起こしてくれる。
「うたたねしてたら、風邪ひいちゃうよ」
「え……あ……うん」
「なんか、悪い夢みてた?」
「え……なんで?」
「ちょっと、うなされてたよ」
「ああ、うん……」
「どんな?」
「えと……お雛さんの夢的な」
「ああ、そういや、今日はひな祭りだったんだ……なんか、高校生になると忘れちゃうね」
「うん、せやね、うちら高校生やねんな」
「さ、早くお風呂入っといで!」
バシ!
「イタイなあ、お尻割れるやんかあ!」
しばかれたお尻の痛みに留美ちゃんの気負いと、ほんまもんみたいな姉妹の感じしながらお風呂に向かう。
えと……ほんまに、どんな夢みたんやったっけ……。
281『三月三日うたた寝の夢』
さくらは~ん……さくらは~ん……
はんなりと呼ぶ声に目を開けると、机の上にお雛さん。
「ほほほ、春眠暁を覚えず……どすなあ」
手で隠した口の上には、眉を剃ってへの字にした目が笑ってる。
白の着物に緋の袴、笑い収めて手を下ろすと、微笑んだ口は真っ黒け。
初対面やったら、お雛さんのお化けやと思うところやろけど、うちは思い出した。
「あ……さんぽうさん!?」
そう、段飾りのお雛さんやったらお内裏さんの下に三人で並んでる三人官女のセンター。唯一の既婚者のさんぽうさんや。
「さいどす、さんぽうどすえ。こなたさんとは二年ぶりどすなあ」
せや、さんぽうさんは、お母さんの段飾りの中に居てたんやけど、結婚した前後にお父さんに預けて、それ以来行方不明。
一昨年、学校からの帰り、角曲がったら家やいう道端で会うたんや。
「前は等身大やったのに、なんや、1/6のフィギュアのサイズになってしもて……」
「ちょと遠いとこにおりますよってに、ライフサイズで出る力がおへんのどす。まあ、これが雛人形としての普通サイズでごわりますよって、堪忍しておくれやす」
「あ……ひょっとして、雛飾りしてないから!?」
「いえいえ、それはかましまへんのどす。お寺も忙しみたいどすし……それに、家の女の子が無事に成長おしやしたら、自然と飾られへんようになるのが、雛人形の運命どす」
「あ、まあ、そうなんやろけど……去年も今年も忘れてしもて、ほんまに……」
ごめんなさいを言おうと思って体を起こそうとしたけど、全然からだが動かへん。
「どうぞ、そのまんまで。今は、夢とうつつの境にあらっしゃいますよって、無理に動ことなさいますと、障りにならっしゃいますえ」
「そ、そうなんだ(^_^;)」
「じつは……」
「なに?」
「そーれ(^▽^)」
軽くジャンプしたかと思うと、さんぽうさんは、枕もとまでフワリと飛んできた。
「歌さんのことどす」
「お母さん?」
平静を装って穏やかに聞き返すけど、内心は心臓が飛び出すんちゃうかいうくらい動揺してる。
「不憫やなあ、さくらはんは……」
さんぽうさんは優しい目ぇになって、1/6の小さな手ぇで、うちの頬っぺたを――いい子いい子――いう感じで撫でてくれる。
ウ……ウ……
「お泣きやしてもええんどすえ……日ごろは、意識にも上らんくらいに、堪えておいやしたんやさかい、ここにさんぽうがおります、どうぞどうぞ、お泣きやす……」
「だ、だいじょうぶ……なんか話があるさかいに来たんやろ?」
「歌さんは、ウクライナにいてはるのんどすえ」
「ウクライナ?」
「ほら、そない『う、暗いなあ』いうような顔するくらいならお泣きやす」
「『う……暗いなあ』って、ギャグ?」
「おほほ、ちょっとてんご言うてみたい気分どしたんや」
「さんぽうさん……」
「歌さんは、大事な御用で世界中を飛び回っておいやすんどす。歌さんもこなたさんの事を気に掛けておいやすんえ」
「ほんま? お母さん、うちのこと思てくれてるん?」
「はい、三日に一回くらいは思い出してため息ついておいやすえ」
「三日に一回……」
「気ぃ落としたらあきまへんえ、それだけ忙しいて…………大事なお仕事どすのんえ……」
「いま、危ないって言おうとした『…………』のとこ?」
「聡いお子やなあ……せやさかいに、さんぽうが付いてますんえ」
「そうなんや、安心しててええねんね?」
「はい……雛人形は、お子が大きゅうなったら、しまい込まれて出すのんも忘れられますけどな、歌さんのことは、心のどこかに写真たてでも置いて、思い出しておくれやす……」
「う、うん……」
「それから、留美ちゃんのお母さんも無事に……つつがのうおわしますよって」
「ほんま?」
「はい……」
「留美ちゃんには言うたげへんのん?」
「うちの姿は、こなたさんにしか見えまへんどっさかいなあ」
「そうなんや……」
「あ、留美ちゃん、お風呂あがらはります……ほな、これにて……さいならあ……」
「さんぽうさん……さん……さ……」
さくら、ちょっと、さくら……
留美ちゃんがシャンプーの匂いさせながら起こしてくれる。
「うたたねしてたら、風邪ひいちゃうよ」
「え……あ……うん」
「なんか、悪い夢みてた?」
「え……なんで?」
「ちょっと、うなされてたよ」
「ああ、うん……」
「どんな?」
「えと……お雛さんの夢的な」
「ああ、そういや、今日はひな祭りだったんだ……なんか、高校生になると忘れちゃうね」
「うん、せやね、うちら高校生やねんな」
「さ、早くお風呂入っといで!」
バシ!
「イタイなあ、お尻割れるやんかあ!」
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