上 下
276 / 432

276『さくらと留美のお受験』

しおりを挟む
せやさかい

276『さくらと留美のお受験』     




 いやあ、よう落ちてるなあ!


 取り入れた洗濯物の作務衣を見てテイ兄ちゃんが感動する。

「これ!」

「あ、しもた!」

 おばちゃんに怒られて、いつになくビビるテイ兄ちゃん。

 おっちゃん、お祖父ちゃん、詩(ことは)ちゃんから、いっせいに怖い顔で睨まれとる。

「アハ、大丈夫ですよ、それは洗濯物だし、あたしたち専願だし」

 韻を踏んだ留美ちゃんのフォロー。

「「「「「「アハハハハハハ」」」」」」


 昨日のことを思い出して、足取りも軽く家を出たのが40分前。

 駅に着くと、いっしょに試験を受ける中学生が、粛々と聖真理愛学院の校門を目指す。

 令和4年2月10日の朝。

 ちょっと薄曇りやったけど、昨日までの寒さは緩んで、今朝の天気予報では「午後、多くの私立高校の入試が終わるころには晴れ間が見られるでしょう」と言ってた。

「スカートの後ろ、ヒダ大丈夫?」

「え、あ、うんOK」

 留美ちゃんが心配するのは、前を歩いてる子のヒダが乱れてるから。たぶんアイロンあてるのに失敗したんや。

「大丈夫だよね、あんなに確認したんだから(;'∀')」

 持ち物やら時程やら、電車のダイヤまで、何回もチェックした。

 間違いはないはずやねんけど、やっぱり、いろいろ気になってしまう。

 いまさら、夕べのテイ兄ちゃんのスカタンが蘇る。


 うちも留美ちゃんも専願やさかいに、落ちたら後が無い。

「まあ、公立の二次募集、ギリで間に合うところはあるからね」

 もう姉妹同然の留美ちゃんやから、読まれてます。

「けど、公立の二次募集て……」

 定員割れのちょっとしんどい学校しかない。

「ウソウソ、冗談。がんばろうね」

 ウウ、留美ちゃんも言うようになった。


 角を曲がって、正門が見えてくる。


 先生らしい人が三人立ってて、受験票の確認とかやってる。

 前を歩いてる子らが慌てて(慌てることもないんやけど)書類を出してる。

「あ、うちらも」

 我ながらあがってしもてて、カバンのチャックが……なかなか開けへん。

「大丈夫だよ、ああやって、何度もチェックすることで万全を期してるんだよ。ここで不備が分かったら、まだ余裕で対応できるしね」

「あ、そかそか(^_^;)」

「あ、あの車?」

「え?」

 今まさに、学校の前の道に入ってきて、正門の横に見覚えのある黒のワゴンが停まった。

「頼子さんだ!」

 小さく叫ぶと、留美ちゃんは、左右に手を振るかいらしいモーションで車に寄っていく。

「顔だけでも見ておこうと思ってね」

 マスクをしてても明瞭な発音。さすがです。

「頼子さん、ちゃんと制服なんですね!」

 留美ちゃんが感動。

「ソフィーは?」

「どこかでガードしてくれてると思う」

「ありがとうございます、内心ガチガチやさかい、頼子さん見て勇気百倍です!」

「そう、来た甲斐があったわ(^▽^)。なにも困ったことは無いわね?」

「はい、オッケーです!」

「よし、じゃあ、頑張ってね!」

 グータッチをすると、車は、そのまま正門前を通って走り去っていった。


 正門で、受験票やらのチェックを受けて、ピロティーへ。

 学校ごとにまとまってる受験生。

 学校によっては中学校の先生も来ていて、顔を見ながら生徒をチェックしてる。

 安泰中学からは、うちら二人だけやから、来てくれてる先生はいてへん。

「おはよ」

「「え?」」

 振り返ると、ビックリした!

 担任のペコちゃん先生が、不二家のトレードマークそのままの顔で立ってるやおまへんか!?

「先生、なんで?」

「うん、うちの近所だしね。もう一校回るし……よしよし、大丈夫みたいね」

「「はい、ありがとうございます!」」

「ふふ、あんたたち、なんだか双子みたいになってきたね」

「「え、あ、アハハ」」

「あ、じゃあ、先生、次の学校行くね。がんばれ、文芸部!」

「「はい!」」

 先生は、マスクからはみ出しそうなペコちゃんスマイルを残して正門を出て行った。

 出しなに腕時計見てたんは、やっぱり時間が押してるんやと思う。

 さあ、いよいよ本番。

 スイヘーリーベーボクノフネ……

 あ、あかん。周期律表のスイヘーリーベーが突然湧いて来て、これはループしそうや。

 みんなの暖かい励ましやら気配りにホッコリして、さくらと留美のお受験が始まった!

 スイヘーリーベーボクノフネ……スイヘーリーベーボクノフネ……あかん、止まらへん(;'∀')

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

春の記憶

宮永レン
ライト文芸
結婚式を目前に控えている星野美和には、一つだけ心残りがあった。 それは、遠距離恋愛の果てに別れてしまった元恋人――宝井悠樹の存在だ。 十年ぶりに彼と会うことになった彼女の決断の行方は……

君が大地(フィールド)に立てるなら〜白血病患者の為に、ドナーの思いを〜

長岡更紗
ライト文芸
独身の頃、なんとなくやってみた骨髄のドナー登録。 それから六年。結婚して所帯を持った今、適合通知がやってくる。 骨髄を提供する気満々の主人公晃と、晃の体を心配して反対する妻の美乃梨。 ドナー登録ってどんなのだろう? ドナーってどんなことをするんだろう? どんなリスクがあるんだろう? 少しでも興味がある方は、是非、覗いてみてください。 小説家になろうにも投稿予定です。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ポテチ ポリポリ ダイエット それでも痩せちゃった

ma-no
エッセイ・ノンフィクション
 この話は、筆者が毎夜、寝る前にボテチを食べながらもダイエットを成功させた話である。  まだ目標体重には届いていませんが、予想より早く体重が減っていっているので調子に乗って、その方法を書き記しています。  お腹ぽっこり大賞……もとい! 「第2回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしています。  是非ともあなたの一票を、お願い致します。

「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。 会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。 (霊など、ファンタジー要素を含みます) 安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き 相沢 悠斗 心春の幼馴染 上宮 伊織 神社の息子  テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。 最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*) 

星渦のエンコーダー

山森むむむ
ライト文芸
繭(コクーン)というコックピットのような機械に入ることにより、体に埋め込まれたチップで精神を電脳世界に移行させることができる時代。世界は平和の中、現実ベースの身体能力とアバターの固有能力、そして電脳世界のありえない物理法則を利用して戦うレースゲーム、「ネオトラバース」が人気となっている。プロデビューし連戦連勝の戦績を誇る少年・東雲柳は、周囲からは順風満帆の人生を送っているかのように見えた。その心の断片を知る幼馴染の桐崎クリスタル(クリス)は彼を想う恋心に振り回される日々。しかしある日、試合中の柳が突然、激痛とフラッシュバックに襲われ倒れる。搬送先の病院で受けた治療のセッションは、彼を意のままに操ろうとする陰謀に繋がっていた。柳が競技から離れてしまうことを危惧して、クリスは自身もネオトラバース選手の道を志願する。 二人は名門・未来ノ島学園付属高専ネオトラバース部に入部するが、その青春は部活動だけでは終わらなかった。サスペンスとバーチャルリアリティスポーツバトル、学校生活の裏で繰り広げられる戦い、そしてクリスの一途な恋心。柳の抱える過去と大きな傷跡。数々の事件と彼らの心の動きが交錯する中、未来ノ島の日々は一体どう変わるのか?

昼と夜の間の女

たみやえる
ライト文芸
 林 颯人は、整った甘い顔立ちのイケメン。モテる割に浮いた話もないので女性社員から〈白馬の王子様〉と目されているが、本人はいわゆる熟女しか好きになれない自分の嗜好に悩んでいる。親友の結婚話に落ち込んだその日、密かに交際していた歳上の恋人からも別れを告げられて……。

処理中です...