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271『スイヘーリーベー』
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せやさかい
271『スイヘーリーベー』さくら
スイヘーリーベー ボクノフネ ナモアル シップスクール……
「また間違った」
「え、そうなん?」
「ナモアルじゃなくて ナマガルだよ」
「七曲がる?」
「う……ま、いいか。Na Mg Al Si P だから」
「えと……」
「ナトリウム マグネシウム アルミニウム ケイ素 リン だから」
「アハハ アルミニウムまではなんとなくなんやけど、Siがケイ素とかPがリンとかは……」
「そこが分かってないと、いくら語呂合わせ憶えても意味ないよ」
「あははは……」
一年の時に憶えた周期律表が間違っていたのが、今日の理科の授業で分かってしまった。
それで、帰り道、留美ちゃんに付き合ってもらって憶え直しているところ。
あたしはね、こういう風に憶えてた。
『水兵リーベー 僕のふね 名もある シップスクール』
ほんとは(ここでメモを見る)
『水兵リーベー 僕のふね ナマガル シップス クラークカ』
正確に覚えんと、元素記号に変換するときに失敗するらしい。
「らしいじゃなくて、できないの!」
「あはは……」
いつになく、留美ちゃんが怖い(^_^;)
「もう、入試までいくらもないんだよ」
はいそうです。
「ナマガルは『七曲がる』と憶えても、元素記号さえ頭に入ってたら変換できるからね」
「はい、七曲がる!」
で、角を曲がったところで、山門から懐かしい人が出てくるのが見えた。
「あ、米国さん!」
「米国産?」
今度は、留美ちゃんがトンチンカン。
「おお、さくらやんか!」
ヒ
小さく悲鳴を上げて留美ちゃんがビビる。
無理もない、アメセコの迷彩服にレイバンのグラサンかけて、鼻から下はごっつい黒のマスク。
それが、ノシノシと親し気に近づいてきよる。
「ああ、えと……如来寺で落語会やらせてもろてた桂米国です」
グラサンだけ外して、留美ちゃんに微笑みかける。
「あ、ああ……」
「思い出してもらえた?」
「はい、落語会の時は、着物を着ていらっしゃったから……」
「ごめんね、普段は、こんなんです」
「しかし、米国さん、ミリタリーもよう似合うねえ」
「アハハ、むかし海兵隊に居ったからね(^_^;)」
「え、ほんまのミリタリーやったん? てっきり、ペットショップかブリーダーの息子やと思てた!」
「ああ、メインクーンの時に!」
「メイクイン?」
「それは、ジャガイモ。メインクーンいうて……」
「あ、思い出した! ダミアの種類が分からない時に、教えてもらった!」
「はい、そうですがな」
「落語家さんだったんですよね?」
「過去形ちごて、現在進行形です(^_^;)」
「あ、ああ、ごめんなさい!」
「で、また落語会?」
「……のはずやったんやけどね」
「こんども……」
「はいな、諦一さんと相談して、たったいま決めたとこ。流行り病には勝てません」
「残念やけど、しゃあないねえ」
「おっと、さくらと喋ってたら、つい距離が近くなるわ。ほんなら、これで失礼します」
「うん、バイバイ」
あたしは大きく、留美ちゃんは小さく手を振って見送った。
米国さんが帰っていく通りの向こうにコンモリとごりょうさんの緑が見える。
アメリカ人の落語家さんが、奇しき縁で姉妹のように暮らしてる中学生に見送られて、それを千五百年前の仁徳さんが見守って、その横っちょの家が、鎌倉以来九百年の歴史のある浄土真宗のお寺。
なんか、とってもゆかしい気分になってきた。
「よし、入試に向けて頑張ろうね!」
ゆかしい気持ちは、留美ちゃんのリアリズムで、パチンと消えてしまう。
「はいはい、水兵リーベー ぼくの船 名もある……」
「ナマガル!」
へいへい、ナナマガリ……
271『スイヘーリーベー』さくら
スイヘーリーベー ボクノフネ ナモアル シップスクール……
「また間違った」
「え、そうなん?」
「ナモアルじゃなくて ナマガルだよ」
「七曲がる?」
「う……ま、いいか。Na Mg Al Si P だから」
「えと……」
「ナトリウム マグネシウム アルミニウム ケイ素 リン だから」
「アハハ アルミニウムまではなんとなくなんやけど、Siがケイ素とかPがリンとかは……」
「そこが分かってないと、いくら語呂合わせ憶えても意味ないよ」
「あははは……」
一年の時に憶えた周期律表が間違っていたのが、今日の理科の授業で分かってしまった。
それで、帰り道、留美ちゃんに付き合ってもらって憶え直しているところ。
あたしはね、こういう風に憶えてた。
『水兵リーベー 僕のふね 名もある シップスクール』
ほんとは(ここでメモを見る)
『水兵リーベー 僕のふね ナマガル シップス クラークカ』
正確に覚えんと、元素記号に変換するときに失敗するらしい。
「らしいじゃなくて、できないの!」
「あはは……」
いつになく、留美ちゃんが怖い(^_^;)
「もう、入試までいくらもないんだよ」
はいそうです。
「ナマガルは『七曲がる』と憶えても、元素記号さえ頭に入ってたら変換できるからね」
「はい、七曲がる!」
で、角を曲がったところで、山門から懐かしい人が出てくるのが見えた。
「あ、米国さん!」
「米国産?」
今度は、留美ちゃんがトンチンカン。
「おお、さくらやんか!」
ヒ
小さく悲鳴を上げて留美ちゃんがビビる。
無理もない、アメセコの迷彩服にレイバンのグラサンかけて、鼻から下はごっつい黒のマスク。
それが、ノシノシと親し気に近づいてきよる。
「ああ、えと……如来寺で落語会やらせてもろてた桂米国です」
グラサンだけ外して、留美ちゃんに微笑みかける。
「あ、ああ……」
「思い出してもらえた?」
「はい、落語会の時は、着物を着ていらっしゃったから……」
「ごめんね、普段は、こんなんです」
「しかし、米国さん、ミリタリーもよう似合うねえ」
「アハハ、むかし海兵隊に居ったからね(^_^;)」
「え、ほんまのミリタリーやったん? てっきり、ペットショップかブリーダーの息子やと思てた!」
「ああ、メインクーンの時に!」
「メイクイン?」
「それは、ジャガイモ。メインクーンいうて……」
「あ、思い出した! ダミアの種類が分からない時に、教えてもらった!」
「はい、そうですがな」
「落語家さんだったんですよね?」
「過去形ちごて、現在進行形です(^_^;)」
「あ、ああ、ごめんなさい!」
「で、また落語会?」
「……のはずやったんやけどね」
「こんども……」
「はいな、諦一さんと相談して、たったいま決めたとこ。流行り病には勝てません」
「残念やけど、しゃあないねえ」
「おっと、さくらと喋ってたら、つい距離が近くなるわ。ほんなら、これで失礼します」
「うん、バイバイ」
あたしは大きく、留美ちゃんは小さく手を振って見送った。
米国さんが帰っていく通りの向こうにコンモリとごりょうさんの緑が見える。
アメリカ人の落語家さんが、奇しき縁で姉妹のように暮らしてる中学生に見送られて、それを千五百年前の仁徳さんが見守って、その横っちょの家が、鎌倉以来九百年の歴史のある浄土真宗のお寺。
なんか、とってもゆかしい気分になってきた。
「よし、入試に向けて頑張ろうね!」
ゆかしい気持ちは、留美ちゃんのリアリズムで、パチンと消えてしまう。
「はいはい、水兵リーベー ぼくの船 名もある……」
「ナマガル!」
へいへい、ナナマガリ……
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