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258『女王陛下の間接話法』

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せやさかい

258『女王陛下の間接話法』頼子       





 お祖母ちゃんとのコミニケーション手段は三種類。


 第一は、直接顔を突き合わせて話すこと。

 ただし、お祖母ちゃんが女王陛下という立場なので、いつもというわけにはいかない。日本とヤマセンブルグに離れているしね。

 まして、コ□ナが猛威を振るっている今日、気軽に行き来するわけにもいかない。

 だから、直に会ったのは、今上陛下の御即位の時が最後だったりする。


 第二は、パソコンのスカイプで。

 これは、もう、しょっちゅうで、一週間に八回くらい(日に二回というのもある)

 スカイプだから、部屋着とかでいいんだけど、だらしないのはダメ。

 お風呂上がりにタンクトップ、タオルで頭を拭きながら話したら怒られちゃった。


 第三は、メール。

 時間が無くて、取りあえず伝えておきたいことがあるとき。たいていは『○○時にスカイプするから待機しておくように』的な予告。

 あるいは、きちんと伝えなければならない時よ。画面で顔見ながらだと、つい、余計なこと喋ったり、身だしなみとか態度とかで文句が出る(文句言うのは99%お祖母ちゃんだけどね)。

 もうひとつはね、きちんと伝えたいとき。感情とか交えずに、必要なことを伝えたいときよ。

 メールだから、記録が残るから『言った言ってない』で揉めることや『その言い方は無い』ということもない。


 お祖母ちゃんが、その第三の方法で、こんなことを伝えてきた。


 日本の新総領事が着任して信任状を持ってきてくれて、いい話をしてくれたの(注釈:新しい大使や総領事が着任した時は、所属国の信任状を国家元首に提出する。日本に着任した大使とかは、天皇陛下に信任状を渡すのよ)

 総領事は、昔、高校の先生をやってらしてね、そのころのお話。

 悪たれの男子生徒が居てね、学校ではいろいろ問題を起こしては叱られて、当人も、いろいろ学校や先生に悪態をついていたの。

 その子がね、三年になって大学進学のために面接に行ったのよ。

 その面接でね、その子は大失敗をやらかした。

 大学は、その子の高校の近くにあって、大学の関係者は、日ごろから高校のアレコレをよく知っていたのね。

「君の学校は、いろいろあるよね」

「はあ」

「登下校では、道いっぱいに広がって交通の邪魔だし、注意したら突っかかって来るし。こないだなんか、うちの学生の自転車ひっくり返したり、幼稚園児を突き飛ばしたり、ひとの庭をショートカットに使ったり、駐車場に入り込んでタバコ喫ったり……」

 事実なんだけど、学校の悪口を言われて、その子は頭にきたのね。

「こんな悪口ばかり言う大学は、こっちから願い下げだ!」

 椅子を蹴飛ばして面接会場を飛び出してきちゃった。

 その帰り道、その子は後悔してね、その足で学校に戻って先生に謝ったのよ。

「ごめん、悪口ばかり言われて、カッときてしまって、取り返しのつかないことやってしまった」てね。

 高校の先生は真っ青になって大学にお詫びの電話をいれたわ。

「申し訳ありません、うちの生徒が……」

 受話器を持ったまま平身低頭して謝ったらね、大学の先生が、こう言うの。

「いえいえ、今どき珍しいほどピュアな愛校心を持った生徒さんです!」

 絶賛されてね、結局は合格になったんだって。

 ちょっと、いい話でしょ。

 わたしの孫としても、ヤマセンブルグの王女としても伝えておきたいお話だと思ってメールしました(^0^)。


 分かってるよ、お祖母ちゃん。

 発信時刻は、ちょうど、あの元内親王さまが、ニューヨークの空港に着いた時間だもん。


 めちゃくちゃ間接話法なんだけど、愛情と感謝の気持ちが大事だということを言ってる。

 でもって、ぐるっと回って、お祖母ちゃんなりに元内親王さまを批判している。

 日本の総領事もなかなか、そういうやり方で遺憾の意を表しているんだよね、あの新婚夫婦に。


 そして、なにより、わたしをお祖母ちゃんなりに教育してくれてるんだよね(^_^;)


 ハ~~~~~~~~~


 いろんな意味でため息が出る。


 ん?

 ちょ、ソフィー、なにニヤニヤ笑って! いつから、そこに居るのよ!?
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