上 下
252 / 432

252『頼子のあれこれ』

しおりを挟む
せやさかい

252『頼子のあれこれ』ヨリコ      




 ほら、紙袋は一つです。


 ソフィーが巻き戻した動画を停めた。

「ほんとだ、入って行くときは二つだったよね……」

「これが意味するものは……」

 のしかかるようにして後ろに立っていたジョン・スミスが謎をかける。


 秋〇宮邸を訪れたKはポニテもばっさり切って、スーツ姿で白い紙袋二個を持って門の内に消えた。

 そして3時間30分後に出てきた時は、紙袋は一個になっていた。


「これは、何を意味していると思いますか?」

 ソフィーは、もう一度Kが出てくるところをスローで再生する。

「たぶん……お土産だろうね」

「一つ残ってるということは……受け取りを拒否された?」

「おそらくは……M子さまはお受け取りになられたけれど、ご両親殿下は拒否されたんでしょうねえ」

「ご明察だと思います」

「………………」

「ソフィーもヨリコ殿下も成長しましたね」

 一言のこすと、ジョン・スミスは三人分のティーカップをトレーに載せた。

「あ、わたしがやります」

「いいよ、ソフィーは殿下のお相手を……」

 近ごろ、ジョン・スミスはソフィーが正面に出るようにしている節がある。

 職制の上では、ジョン・スミスが部長で、ソフィーは領事館に五人いる平の警備係りの一人。

 でも、お祖母ちゃんもジョン・スミスも、将来はソフィーをわたしのブレーンにしようとしている。少しずつだけど、仕事を移譲しているんだと思う。

「昨日は、神奈川県警も捜査に乗り出すという情報がありました。間に合うかどうかはともかく、多くの日本人がM子妃とKを見る目が厳しくなっていることの表れだと思います」

「そうね……これが、イギリスだったら、バッキンガム宮殿にデモをかけているでしょうね」

「イギリスは、王室の方々にも支持率調査をされますからね」

 知ってる。ダイアナ妃が亡くなった時、エリザベス女王は哀悼の意を表さなかったので、支持率は最低に落ち込んで、王室廃止論が多数になったんだ。

「女王は、ただちにユニオンジャックを半旗にして、世界中にダイアナ哀悼のメッセージを出されました」

 う……口にしなくても察しているわよ。ソフィー恐るべし。

 もう、ほとんどヤマセンブルグの国籍をとると決めているんだけど、それは同時にお祖母ちゃんの後を継いで、いずれは女王になるってことで、秋〇宮M子内親王さまの逆の意味で重い選択。

 自信と覚悟を付けるための試練がいっぱいある。

 一つ一つ片づけていかなくっちゃ。

「沖縄には行けそうかしら?」

「コ□ナ次第なんですが、ハローウィンの頃には結論が出そうです」

「うまくいくといいわね」

「しかし、これで、国の内外に殿下の決意を示すことに……」

「いいのよ、もう、式典で着る制服とかできてるんでしょ?」

「え、あ……いつの間に」

「領事の執務室に行ったら見えちゃった。窓際の鏡に領事のデスクトップが映ってて、仕立て上がった制服が映ってたし」

「え、そうなんですか!?」

「あの鏡、領事の誕生日にソフィーたちが送ったものでしょ? 置き場所決めたのもソフィー……かな?」

「いいえ、たまたまですよ、たまたま。では、下がって学校の宿題にかかります」

「あ、できたら見せてね」

「嫌です、ヨリコ」

「ウ、切り替えたなあ」

「では」


 あらためてパソコンを開いて日程を確認。

 12月1日の『ヤマセンブルグ練習艦遭難100周年慰霊式典』の日程に既決のしるしを入れた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺たちバグジー親衛隊

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家
ライト文芸
本当に馬鹿げている事ってめちゃめちゃ楽しいんですよ!人生って結構楽しいですよ! ということを紹介するコメディ作品です。 基本的に1話完結で、1話3分ほどで気軽に読めるので、さらっと読んでみてください! 「エルチー32丁はえぐいってぇえええ!!」「なあ、エル復してくれ」など、初聞では全くわからない会話をしたり、小学校の鯉を捕まえてPTAの人の足音に体を震わせたり、街行く人々に「さーせん」と声をかけ、似合う髪型を聞いて回ったり、電車内で謎のおっさんにタコ殴りにされたり。 本当に馬鹿げている事を、全力で実行した高校生たちの物語は、読むと「っふぅわっ」とした気分になり、人生が楽しくなるはずです。現代社会に送る唯一無二の「喜劇」ぜひ一読してみてください! 【あらすじ】 門限は18時、ガリガリ君の60円さえ、「なんでこんな高いねん~」 そんな冴えない高校1年生のとっしーが本作の主人公です。 「おもしろければ何でもいい」という考えのボブとキャプテンは、そんな冴えない主人公を煽りに煽りました。 彼らの無茶振りに戸惑い、泣き喚きながらも、持ち前の行動力を発揮していく主人公は、数々のイベントをこなして、見事高校デビューを果たします。 行動力はあるがおバカなとっしー。 アイデアは浮かぶが行動はしないボブ。 冷静沈着でキレ者だが、行動はしないキャプテン。 その3人のコンビネーションは些細な日常に小さな奇跡を起こしていきます。 ノリで告白してあっさり2度振られたヒロイン「あさっぴ」との恋の行方も気になるところですが、 主人公たち3人が、放課後毎日、22時頃まで共に過ごすというホモ集団になっている点にも注目です。 そんな蜜月のぼくたちを待ち受けるのは、次々と起こる謎イベント... 電車で謎のおっさんに殴られる。 学校創立以来の大事件を起こす。 迷子の末、線路を爆走。  死を覚悟するほどの事件さえを乗り越えた先に待つものとは?

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

The Color of The Fruit Is Red of Blood

羽上帆樽
ライト文芸
仕事の依頼を受けて、山の頂きに建つ美術館にやって来た二人。美術品の説明を翻訳する作業をする内に、彼らはある一枚の絵画を見つける。そこに描かれていた奇妙な果物と、少女が見つけたもう一つのそれ。絵画の作者は何を伝えたかったのか、彼らはそれぞれ考察を述べることになるが……。

紡ぐ言の葉

千里
ライト文芸
あるところにひとりぼっちの少女が二人いました。 一人の少女は幼い頃に親を悲惨な事故に遭い、搬送先の病院からの裏切り、引き取られた先での酷い扱い。様々なことがあって、彼女からは心因性のもので表情と感情が消えてしまった。しかし、一人のヒーローのような人に会ってから生きていく上で必要最低限必要な感情と、ほんの少しだけ、表情が戻った。それでも又、失うのが怖くてどこか心を閉ざしていた。 そんな中無理矢理にでも扉をこじ開けて心の中にすとんと入ってきた2人の人がいた。少女はそんな2人のことを好きになった。 一人は幼い頃からの産みの家族からの酷い扱い、そんな事情があって暖かく迎えてくれた、新しい家族の母親の早すぎる死。心が壊れるには十分すぎたのだった。人に固執せず、浅い付き合いでなるべく自分か消えても何も残らないように生きていようとしていた。 そんな中、何度も何度も手を伸ばして救い出してくれたのは一人の少年の存在で、死のうとしているといつも怒る一人の少女の姿があった。 これはそんな2人が紡いでいく一つの波乱万丈な人生のお話────。

回転木馬が止まるとき

関谷俊博
ライト文芸
ぼくは寂しかった。栞も寂しかった。だけど、寂しさを持ち寄ると、ほんの少しだけ心が温かくなるみたいだ。

小料理屋はなむらの愛しき日々

山いい奈
ライト文芸
第5回ほっこり・じんわり大賞にて、大賞を!受賞しました!ありがとうございます!( ̄∇ ̄*) 大阪の地、親娘で営む「小料理屋 はなむら」で起こる悲喜こもごも。 お客さま方と繰り広げられる、心がほっこりと暖まったり、どきどきはらはらしたりの日々です。

ベスティエン ――強面巨漢×美少女の〝美女と野獣〟な青春恋愛物語

花閂
ライト文芸
人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鬼と怖れられモンスターだと自覚しながらも、恋して焦がれて愛さずにはいられない。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女・禮と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて最悪の不良校に入学。女子生徒数はわずか1%という特異な環境のなか、入学早々にクラスの不良に目をつけられたり暴走族にさらわれたり、学園生活は前途多難。 周囲に鬼や暴君やと恐れられる強面の彼氏は禮を溺愛して守ろうとするが、心配が絶えない。

三年で人ができること

桃青
ライト文芸
もし三年後に死ぬとしたら。占いで自分にもう三年しか生きられないと告げられた男は、死を感じながら、平凡な日常を行き尽くそうとする。壮大でもなく、特別でもなく、ささやかに生きることを、残された時間で模索する、ささやかな話です。

処理中です...