上 下
245 / 432

245『ウルトラマン』

しおりを挟む
せやさかい

245『ウルトラマン』さくら      




 それって、お好み焼き?


 言うたとたんに『こいつはアホか』いうような顔された。

 遠慮なく『こいつはアホか』いう顔したんはテイ兄ちゃん。

 言われたんはあたし。

 向こうのキッチンで留美ちゃんと詩(ことは)ちゃんが笑ってる。


 日曜の朝から、純情なうちがスカタン言うて『アホか』いうような顔されたのは、ウルトラマンのブルーレイディスクのパッケージが原因。


 最初はテイ兄ちゃん。

「やっぱり北米版は安いなあ」

 テレビの前にパッケージが置いてあるのを手にしたテイ兄ちゃんがネットで検索した。

 ネット通販で3200円と出てる。

「日本のんやったら3万とか5万とかするなあ」

 同じブル-レイでも、日本のんは十倍近い。

「なんかちゃうのん?」

「ほとんどいっしょや。仕様が違うから、日本のデッキでは再生でけへんのあるけど、プレステ4とかやったら問題なしやし、まあ、字幕があったりするかなあ」

「プレステで見れるんやったらノープロブレムやんか、それだけ?」

「日本は、メディアミックスやからなあ」


 このメディアミックスで「それって、お好み焼き?」のスカタンになったわけ。

 お好み焼きとか焼きそばのデラックスにナンチャラミックスてあるしねえ。

 ここのとこ、キャベツ焼きやらお好み焼きやら粉もんに凝ってるんで、つい、ミックス焼きを連想してしもたんです。


「委員会方式のことですね?」

 留美ちゃんと詩ちゃんが人数分のお茶を持ってきてくれる。

「委員会?」

 委員会と言うと学校の『保健委員会』とかが思い浮かんで、ますます分からへん。

「ほら、アニメのエンドロールに出てくるじゃない『鬼滅の刃制作委員会』とか」

「あ、ああ……」

 思い出した。スタッフロールの最後に出てくるやつや。

「せやけど、あれて、なにかのシャレちゃうのん?」

 スタッフとかがイチビって、そういう子どもめいたグループ名付けてんのんかと思てた。

「ちゃうちゃう。出版社とかアニメ制作会社とか放送局とかオモチャ会社とかが一緒になって、作品を管理するやりかたや。そうやって、著作権とかそれぞれの利益を管理するわけや。つまり、それ以外は作品に関するグッズ制作とか販売とかができんようになるから、値段が高くなる傾向がある」

「へえ、そうなんやあ」

 返事はしとくけど、意味は、よう分かってへん。

「ウルトラマンて、ついこないだもリメイクされてましたよね」
「ああ『シン ウルトラマン』だったっけ?」

 留美ちゃんも詩ちゃんも情報通や(^_^;)

「ちょっと、観てみよか……あ、もう入ってるわ」

 というので、テイ兄ちゃんがプレステのコントローラーを持つ。

「おお、4:3のアナログサイズや!」

 テイ兄ちゃんは感動するけど、両端がちょん切れた画面は、なんや損した気になる。

 なんか、捩じれたマーブル模様がグニグニと回って、出てきたタイトルは『ウルトラQ』……え?

 言うてるうちにテーマ曲。


 光の国からぼ~くらの街へ き~たぞ我らの ウル~トラマン(^^♪

 ふ、古い(^_^;)


 で、なんちゅうか……ショボイ。

 ウルトラマンも怪獣も子どもの粘土細工かいうくらいグレードが低い。

 ウルトラマンの着ぐるみはウエットスーツぽくて、あちこちに皴が寄る。

 家やら飛行機やらが壊されても、いかにもミニチュア壊しましたいう感じ。

「もう五十年以上も前の作品やさかいなあ……」

 え、50年!?

「正確には、55年前です」

 留美ちゃんはすかさずスマホで検索してた。

 55年前て……お母さんも生まれてへん昔。

「なんで買ったの、ネトフリとかでも見られるでしょ?」

 詩ちゃんもテイ兄ちゃんには遠慮が無い。

「え、おれのんとちゃうで」

「「「え?」」」

 ビックリしてると、お祖父ちゃんがやってきた。

「なんや、みんなで観てたんか」

 お祖父ちゃんの手ぇにはソフビのウルトラマンが握られてる。

「「「「ひょっとして?」」」」

 みんなの声が揃った。

「え、ああ、ちょっと懐かしいんで中古のブルーレイ買うたんや」

「お祖父ちゃん、ひょっとして、昔みてたん?」

「うん、中二やったかなあ」

「そのウルトラマンは(´艸`)」

 詩ちゃんが笑いをこらえながら聞く。

「ああ、婆さんがくれた奴や。懐かしなって、押し入れから出してきた。よっこらしょっと……」

 そう言うと、ウルトラマンをテーブルに立たせて、プレステを点けた。

「自分らが観ても、あんまり面白なかったやろ」

「うん」

「ハハ、さくらはハッキリしてるなあ」

「あ、でも、役者さんとか、風景とか懐かしいですよね。さっき、横浜の氷川丸映ってましたけど、船体の色が若草色で、あれって『コクリコ坂から』の時といっしょで、時代が出てました」

「留美ちゃんは、よう見てるなあ」

「あ、いえ。コクリコ坂好きだったんで……」

「ウルトラマンの前には『ウルトラQ』いうのんやっててなあ、ワシは、そっちの方が好きやった」

「あ、タイトルロゴがウルトラQやった!」

「うん、最初はウルトラQの新シリーズいう感じやったなあ。そのうち、もとのウルトラQに戻るやろと思てたら、いつまでたってもウルトラマンでなあ。で、婆さんとケンカしたんや」

「え、お祖母ちゃんと?」

「うん、まだ、セーラー服もダブダブの中学生やったけどなあ……ぜったい、ウルトラマンの方が面白い言うて、くれたんが、このソフビのんや……」

 そうなんや……。

 ちょっとシミジミ。


 ジョワ!!


 ビックリした! 画面で主役がウルトラマンに変身するとこで、お祖父ちゃんもウルトラマン握ってポーズをとった!

「婆さんと勝負して、負けたら変身ポーズやれて言われてなあ(^_^;)」

 勝負?

 なんの勝負やろ?

 聞きたかったけど、子どもみたいに画面に集中したお祖父ちゃんには聞けませんでした。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フルーツサンド 2人の女の子に恋をした。だから、挟まりたい。

Raychell
ライト文芸
【完結しました】  ある夏の日、俺は2人の女の子に恋をした。  たぶん、ユリだと思うから、それに挟まれたい。  外道中の外道と言われても、禁断の果実はきっと甘い……はず。

乙女先生とゆかいな人たち女神たち

武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
岸和田生まれの乙女先生は希望ヶ丘青春高等学校に転勤を命ぜられた。 校名だけは爽やかだが、内実は……言うも憚られることが多かった。 しかし、持ち前のバイタリティーと歳より若く見えるルックスで乗り切っていくのだ。

一よさく華 -嵐の予兆-

八幡トカゲ
ライト文芸
暮れ六つ過ぎ。 十日ごとに遊郭に現れる青年がいる。 柚月一華(ゆづき いちげ)。 元人斬り。 今は、かつて敵であった宰相、雪原麟太郎(ゆきはら りんたろう)の小姓だ。 人々の好奇の目も気に留めず、柚月は「白玉屋」の花魁、白峯(しらみね)の元を訪れる。 遊ぶためではない。 主の雪原から申し渡された任務のためだ。 隣国「蘆(あし)」の謀反の気配。 それを探る報告書を受け取るのが、柚月の今回の任務だ。 そんな中、柚月にじわりじわりと迫ってくる、人斬りだったことへの罪の意識。 「自分を大事にしないのは、自分のことを大事にしてくれている人を、大事にしていない」 謎の言葉が、柚月の中に引っかかって離れない。 「自分を大事にって、どういうことですか?」 柚月の真直ぐな問いに、雪原は答える。 「考えなさい。その答えは、自分で見つけなさい」 そう言って、父のように優しく柚月の頭を撫でた。 一つよに咲く華となれ。

回転木馬が止まるとき

関谷俊博
ライト文芸
ぼくは寂しかった。栞も寂しかった。だけど、寂しさを持ち寄ると、ほんの少しだけ心が温かくなるみたいだ。

The Color of The Fruit Is Red of Blood

羽上帆樽
ライト文芸
仕事の依頼を受けて、山の頂きに建つ美術館にやって来た二人。美術品の説明を翻訳する作業をする内に、彼らはある一枚の絵画を見つける。そこに描かれていた奇妙な果物と、少女が見つけたもう一つのそれ。絵画の作者は何を伝えたかったのか、彼らはそれぞれ考察を述べることになるが……。

三年で人ができること

桃青
ライト文芸
もし三年後に死ぬとしたら。占いで自分にもう三年しか生きられないと告げられた男は、死を感じながら、平凡な日常を行き尽くそうとする。壮大でもなく、特別でもなく、ささやかに生きることを、残された時間で模索する、ささやかな話です。

かさなる、かさねる

ユウキ カノ
現代文学
ふたりの高校生・明とシュウが、自分と向きあい、相手と対話する。ただそれだけの物語です。 ※作中に自傷行為の描写があります。

ベスティエン ――強面巨漢×美少女の〝美女と野獣〟な青春恋愛物語

花閂
ライト文芸
人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鬼と怖れられモンスターだと自覚しながらも、恋して焦がれて愛さずにはいられない。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女・禮と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて最悪の不良校に入学。女子生徒数はわずか1%という特異な環境のなか、入学早々にクラスの不良に目をつけられたり暴走族にさらわれたり、学園生活は前途多難。 周囲に鬼や暴君やと恐れられる強面の彼氏は禮を溺愛して守ろうとするが、心配が絶えない。

処理中です...