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235『しゃれこうべ』

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せやさかい

235『しゃれこうべ』頼子     




 空気清浄機を真ん中にさくらと留美ちゃん。


 テイ兄ちゃんが檀家さんからもらったのを、相談した結果、さくらと留美ちゃんの部屋に置くことに決まった。

 その記念写真。

 あれ?

 留美ちゃんはニコニコしてるんだけど、さくらが微妙な(^_^;)顔をしている。

 気のせいかなあ……とりあえず『よかったね(^▽^)/』と返事を打っておく。


 ピコピコ ピコピコ


 着信のシグナルが鳴って、現れたのはお祖母ちゃんのメール。

 これも写真付き。写真は二枚。

 ただし、空気清浄機ではない。

 大きな輸送機の中に、ぱっと見でも500人は居るだろうという人たちが膝を抱えて、不安な、でも、ちょっと安心したようにひしめき合っている。

 もう一枚は、滑走し始めた輸送機を大勢の人が追いかけ、何人かは、輸送機の機体に張り付いたりしがみ付いたり。

 人々の服装から……これはアフガニスタンだ。

 大統領も逃げだして、残った大使館の人たちも軍の輸送機で脱出。それを聞きつけたカブール市民の人たちが輸送機に殺到したんだ。

 知ってるよ、お祖母ちゃん。

 わたしもネットニュースで見たもん。

 がんばった人は、なんとか機体に取りついたけど、輸送機が離陸すると、振り落とされて何人か落ちて亡くなったんだ。

―― 国民を、こんな目にあわせないために国家があります ――

 賢明なクソババアは、それ以上の事は書かない。

 書かないけど、分かってる。

 分かってるよ。わたしにとっての国は、日本とヤマセンブルグ。

 日本は、わたしがいなくても微動だにしない。国民も政府もしっかりしているし、世界一の皇室もある。

 ヤマセンブルグにも王室があって、女王陛下が一人で支えていらっしゃる。

 面倒なことに、この女王陛下は、わたしのお祖母ちゃん。

 わたしは、お祖母ちゃんの、ただ一人の跡継ぎ。

 23歳までに決心しなければならない。わたしが日本を選んでしまったら、五代遡った遠い親類から国王を招くことになる。


 しゃれこうべ


 なんの脈絡もなく『しゃれこうべ』という言葉が浮かんでくる。

 ウフ……ウフ、ウハハハハハ アハハハハハ

「殿下、どうなさいました?」

 ソフイーが文庫本から目を上げて、わたしを見る。

「ごめん、なんか思い出しちゃって……プ、プハハハハハハハ」

「なにか悪いものをお食べに……」

「ち、ちがうちがう、アハハハハ……」

 半年前、留美ちゃんが悩んでいた時に、三人でさくらの部屋に泊まった。

 豆電球だけ付けて、やがて沈黙が訪れて、沈黙が重くって、さくらが呟いたんだ。

 しゃれこうべ

 なんだか可笑しくなって、笑い出したら止まらなくなって。

 それが、脈絡もなく蘇ってきた。

 笑いすぎて涙が出てきた。

 如来寺に行きたい。

 三人で寝て、さくらがバカをやって、留美ちゃんがキョトンとして、三人でアハハと笑っていたい。

 でも、大阪には緊急事態宣言が出ている。

 ああ、コ□ナが恨めしい!

 わたしも罹っちゃったけど、もう直ったんだよ。

 並のインフルエンザなら、もうOKなのにね。

 もうちょっとの我慢……て、いつから言ってるのか忘れちゃったよ、もう!

 
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