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210『お祖母ちゃんの話』

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せやさかい

210『お祖母ちゃんの話』頼子    




 オリンピックをやって欲しい!


 賛成派が反対派を追い越したのは三日前の世論調査。

 マスコミと野党は、相変わらず『反対』を叫んでいる。

 どうするんだろう、野党もマスコミも。

 オリンピックが成功裏に終わったら、日本国民は野党もマスコミも見放してしまうと思う。

 野党第一党は支持率5%に落ちてるし、マスコミは、テレビも新聞も軒並みの赤字。

 かと言って、わたしは与党支持でもない。

 お祖母ちゃんとドッコイドッコイの年齢の幹事長が「内閣不信任案が出たら、ただちに解散総選挙!」と野良猫の親分のように息巻いている。

 衆議院の解散は総理大臣の専権事項だということを、いい年をした老幹事長が知らないはずはない。

 もう、歳なんだろに。ネコの首に鈴をつける者も与党にはいない。


 普通の女子高生なら、こんな政治的な感想は持ったりしないでしょう。


 わたしは、日本国籍を選択しない限り、選挙権も被選挙権もない。

 だけど、父方の国籍を取ることに傾斜し始めている現在、政治的なことにも知識と関心を持っていなければならない。

『君臨するためには、知識と関心は必須!』

 お祖母ちゃんの御託宣。

 
 お祖母ちゃんは、エリザベス女王の大ファンだ。

 単にファンと言うだけではなく、人生の大先輩として尊敬している。

 実際、イギリスの王室は親類。

 お祖母ちゃんが、わたしくらいの歳にはイギリスに留学していて、エリザベス女王からは、実の妹のように可愛がられていた。

 エリザベス女王の娘のアン王女からは、逆に姉のように慕われて、この二人はいまでも実の姉妹のよう。


 こんなエピソードがある。


「聞いてよマリア(お祖母ちゃんのファーストネーム)議会が、わたしのお小遣いを減らすって言うのよ!」

 ある晩、アン王女が鼻息を荒くして、お祖母ちゃんの寄宿舎にやってきた。

 当時のイギリスは、アメリカにはとっくに引き離され、日本とドイツが、イギリスの上にのし上がろうとしていた1960年代。経費削減は王室も例外ではない。

「ママ、なんとかしてよ!?」

 アン王女は、最初にエリザベス女王に泣きついた。

「もう、大人なんだから、自分でなんとかしなさい」

 と、ニベもないので、王女は総理大臣に掛け合うけど、ノラリクラリと躱されてしまう。

「ハロルドなんて、チャーチルに比べたら屁みたいなものじゃない。その、ハロルドにもいいようにあしらわれて!」

「総理大臣が、王女のアンに?」

「こっちからダウニング街の官邸に行ったのよ、アポなしでね」

「アポなしで、ドアをノックしたの? あんたもやるう」

「ううん、いくらなんでも。直前に電話を入れたわ。すると、『来月ならお会い出来ますが……』と、やんわり断られた」

「でしょうね、普通の応対だわ」

「だからね、『官邸の前の公衆電話から掛けてるの、いま、夕食終わってくつろいでいるところでしょ。三十分でいいから会ってちょうだい』とかましたの。ハロルドのスケジュールは把握してたから」

「やるわね」

「それで、十五分で手を打って会えることになったんだけどね……居間に通されて、ソファーを勧められて、腰を下ろしたの」

「ブーブークッションでも仕掛けられてた?」

「それ以上よ」

「ん、なに!?」

「わたしが座ってから、ハロルドは、自分の椅子に腰かける。するとね……」

「すると?」

「パリって音がしたの」

「パリ? ロンドンなのに?」

「もう、茶化さないでよ。パリっていったのはハロルドのズボン」

「え、それって?」

「見事にお尻が破れてしまって、水玉のパンツが丸見え」

「プ(#´艸`#)」

「『これは、みっともないところを……なんせ、首相の給与も削減で小遣いも減らされまして、いやはや、年内いっぱいは、このズボンでいけると思ったんですが……』って」

「アハハハ」

「それで、『もうしわけりません、部屋着は一張羅でして、ズボンの修理をしながらのお話で構いませんでしょうか?』って言いながらズボンを脱ぐのよ!」

「アハハ、ああ、可笑しい((´∀`))」

「それで、マリア、あなたに相談に来たわけよ」

「なるほど……」

 お祖母ちゃんは、親友のために六法全集を出すと、王室財政に関する条文を光速で読み始めて、三十分後には解決法を編み出した!

「いいこと、マリア、くれぐれも、わたしのアイデアだって言わないでよね。バレたら国際問題になって、イギリスとヤマセンブルグの王室の友好にひびが入るからね」

「うん、アンとマリアの友情に掛けて!」

 この時の誓いを、二人は『アンマリの誓い』って名付けて、二年前に情報公開されるまで秘密にしていた。

 お祖母ちゃんのアイデアで、アン王女がやったのはね、自分の自動車のボディーに広告を出すこと!

 ボンネットとドアにデカデカと○○カンパニーとかの広告が載るのよ。

 むろん、車のナンバーは王室のそれだし、イギリス王室の小旗をはためかしているし、効果は満点で、翌月には議会で、王女経費の増額が爆笑と共に認められたって。

 えと……

 他の話を、自分に関することを話そうと思ったんだけど。

 またにします。

 コ□ナも終焉が近くなってきて、これからは、ちょっと楽しいことも考えましょう。

 テルテル坊主の効果はてきめんで、このところ「梅雨はどこに行ったんだ?」って晴天続き。

 今日は、午後からワクチン注射をしてもらいます。

 ほんとうは、学校の集団接種でやりたいんだけど、仕方がありません。

 
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