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206『ネットで着付け大会』
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せやさかい
206『ネットで着付け大会』頼子
『テイ兄さん』には笑った。
いかにも留美ちゃんという感じが好ましい。
留美ちゃんは敬語がデフォルトだ。
大人からすると、かなり好ましい子だろうね。
お行儀もいいし、心地よい敬語で接してくれて、成績も良くって、控え目だけど、頼んだことや決まったことは真面目にやり遂げる。
いわゆる委員長タイプだ。
でも、こういうタイプは、知らないうちに人と垣根が出来てしまって、友だちができにくく、孤立したまま三年間の学校生活を終えてしまう。
眼鏡を取ったら、けっこう美人なことも承知している。
何を隠そう、二年前、さくらと留美ちゃんを文芸部に引き込もうと策略を練った。
その甲斐あって、中三の一年間は退屈せずに過ごせたし、私自身、大げさに言うと人生の勉強にもなった。
看護師のお母さんがコ□ナに感染して重症化。留美ちゃんは、ほとんど会うこともできずに、先日転院されてしまった。お父さんが手配されたようだけど、複雑な家庭事情があるようで、留美ちゃんには転院先も教えられていない。
なにか手を差し伸べなければと気をもんだけど、さくらの働きとテイ兄ちゃんをはじめとする如来寺の人たちのお気遣いで、家族同様に暮らすことができるようになった。
小さな心配は人との垣根だ。
如来寺の人たちは、けして人に無理強いするということが無い。
留美ちゃんの敬語は、なかなか直らないだろうなあと心配していた。
それが、お寺の手伝いをしている間に、ごく自然に「テイ……」まで出たんだ。いきなり「テイ兄ちゃん」は敷居が高いというか「テイ……」まで口に出て、戸惑いやら恥ずかしさが出てきてしまい、留美ちゃんは「テイ兄さん」と締めくくった。
でもいいよ。
留美ちゃんにしたら大進歩だし、『テイ兄さん』と呼ぶ距離感が新鮮だ。
こういう微妙なところに留美ちゃんを落ち着かせたのは、間違いなくさくらの性格だ。
でも、そんなこと言ったら、留美ちゃんもさくらも意識してしまって身動きが取れなくなってしまう。
だから、そんなことはおくびにも出さずに60インチのモニターの前で浴衣の着付け大会をやっている。
「そんなんじゃ、お茶子さんなんかできないわよ( ´艸`)」
お寺の子のくせに、さくらは着物がさまにならない。
『そんなことないですもん!』
「はい、じゃあ、今度は裾さばきに気を付けて、階段を下りてみる」
カメラが階段の下に切り替わる。カメラはテイ兄ちゃんだ。カメラが微妙に揺れているのは、きっと笑いをこらえているから。
『ほんなら、いきまーす!』
まるで、スタートラインに着く陸上選手のように手を挙げるさくら。
もう、これだけで可笑しくって、カメラもブレてるんだけど、さくらの後ろで控えている留美ちゃんは奥女中のように真面目な顔で控えている。この対照も面白い。
ミシ ミシ…………
階段を踏みしめて、さくらの姿が大写しになる。
あ、
キャーー(;'∀')!!
ドンガラガッシャーーン!!
大音響と共に画面がブレまくり、ピントが合わなくなった。
プ(* ´艸`)
わたしの後ろでソフィーが吹きだす。ソフィーも着付け大会に参加してくれている。
この、護衛係り兼・学友のソフィーもだいぶ慣れてきて、語尾に「です」を付ける癖も直って、今では、十年も前から日本に住んでる感じになっている。
「さくらぁ、その階段は勾配が急だから、手すりに掴まりながら、ちょっと体を横にしないとね、裾が絡んで、おっこちゃうのよ」
文芸部の校外部室のある如来寺は、わたしにとっても自宅同様なのだ。
『そういうことは、最初に……』
「言ったよ、最初にさ。ね、さくらってさ、ゲームやってもマニュアル読まない子だよね?」
『そ、それは……』
図星だ。
「じゃ、今度は留美ちゃん!」
『はい』
留美ちゃんは、指摘した通り、楚々と階段を下りてくる。
「わあ、もう、このまま旅館の若女将が務まりそうだあ」
『いえ、そんな……』
「照れる留美ちゃんも、可愛いよ(^▽^)」
『て、照れます(#'∀'#)』
照れる後ろで「アハハハ」とさくらがノドチンコむき出しで笑っている。
『さくらだけではありません』
テイ兄ちゃんの声がして、カメラがパン。
すると、リビングに通じる廊下に如来寺のみなさんが出ていて、ウフフ アハハと笑っている。
なんだか、とっても懐かしく、許されるなら、このままジョン・スミスに車を出してもらって如来寺に直行したい気持ちになって、不覚にも鼻の奥がツンとしてくる。
「では、わたしも、修業の成果をお見せしたいと思います」
背後で、ソフィーが立ち上がる。
ジョン・スミスがカメラに切り替えてくれて、モニターの上1/6がソフィーを追う画面になる。
「ちょっと、どこまで行くの?」
カメラは、領事館の中庭に出るソフィーを追いかけている。
わたしも、裾を気にしながら中庭に。
「では、ソフィア参ります……」
そう言うと、ソフィーは中庭の築山の上に……
セイ!
掛け声をかけたかと思うと、裾もみださずにジャンプ! 空中で一回転したかと思うと……
ドスドスドス!
どこから取り出したのか、回転しながら手裏剣を投げ、中庭で一番大きい楡の木に三本とも命中させた(^_^;)
コ□ナの非常事態宣言真っ最中の大阪だけど、有意義に過ごしているわたし達でした。
206『ネットで着付け大会』頼子
『テイ兄さん』には笑った。
いかにも留美ちゃんという感じが好ましい。
留美ちゃんは敬語がデフォルトだ。
大人からすると、かなり好ましい子だろうね。
お行儀もいいし、心地よい敬語で接してくれて、成績も良くって、控え目だけど、頼んだことや決まったことは真面目にやり遂げる。
いわゆる委員長タイプだ。
でも、こういうタイプは、知らないうちに人と垣根が出来てしまって、友だちができにくく、孤立したまま三年間の学校生活を終えてしまう。
眼鏡を取ったら、けっこう美人なことも承知している。
何を隠そう、二年前、さくらと留美ちゃんを文芸部に引き込もうと策略を練った。
その甲斐あって、中三の一年間は退屈せずに過ごせたし、私自身、大げさに言うと人生の勉強にもなった。
看護師のお母さんがコ□ナに感染して重症化。留美ちゃんは、ほとんど会うこともできずに、先日転院されてしまった。お父さんが手配されたようだけど、複雑な家庭事情があるようで、留美ちゃんには転院先も教えられていない。
なにか手を差し伸べなければと気をもんだけど、さくらの働きとテイ兄ちゃんをはじめとする如来寺の人たちのお気遣いで、家族同様に暮らすことができるようになった。
小さな心配は人との垣根だ。
如来寺の人たちは、けして人に無理強いするということが無い。
留美ちゃんの敬語は、なかなか直らないだろうなあと心配していた。
それが、お寺の手伝いをしている間に、ごく自然に「テイ……」まで出たんだ。いきなり「テイ兄ちゃん」は敷居が高いというか「テイ……」まで口に出て、戸惑いやら恥ずかしさが出てきてしまい、留美ちゃんは「テイ兄さん」と締めくくった。
でもいいよ。
留美ちゃんにしたら大進歩だし、『テイ兄さん』と呼ぶ距離感が新鮮だ。
こういう微妙なところに留美ちゃんを落ち着かせたのは、間違いなくさくらの性格だ。
でも、そんなこと言ったら、留美ちゃんもさくらも意識してしまって身動きが取れなくなってしまう。
だから、そんなことはおくびにも出さずに60インチのモニターの前で浴衣の着付け大会をやっている。
「そんなんじゃ、お茶子さんなんかできないわよ( ´艸`)」
お寺の子のくせに、さくらは着物がさまにならない。
『そんなことないですもん!』
「はい、じゃあ、今度は裾さばきに気を付けて、階段を下りてみる」
カメラが階段の下に切り替わる。カメラはテイ兄ちゃんだ。カメラが微妙に揺れているのは、きっと笑いをこらえているから。
『ほんなら、いきまーす!』
まるで、スタートラインに着く陸上選手のように手を挙げるさくら。
もう、これだけで可笑しくって、カメラもブレてるんだけど、さくらの後ろで控えている留美ちゃんは奥女中のように真面目な顔で控えている。この対照も面白い。
ミシ ミシ…………
階段を踏みしめて、さくらの姿が大写しになる。
あ、
キャーー(;'∀')!!
ドンガラガッシャーーン!!
大音響と共に画面がブレまくり、ピントが合わなくなった。
プ(* ´艸`)
わたしの後ろでソフィーが吹きだす。ソフィーも着付け大会に参加してくれている。
この、護衛係り兼・学友のソフィーもだいぶ慣れてきて、語尾に「です」を付ける癖も直って、今では、十年も前から日本に住んでる感じになっている。
「さくらぁ、その階段は勾配が急だから、手すりに掴まりながら、ちょっと体を横にしないとね、裾が絡んで、おっこちゃうのよ」
文芸部の校外部室のある如来寺は、わたしにとっても自宅同様なのだ。
『そういうことは、最初に……』
「言ったよ、最初にさ。ね、さくらってさ、ゲームやってもマニュアル読まない子だよね?」
『そ、それは……』
図星だ。
「じゃ、今度は留美ちゃん!」
『はい』
留美ちゃんは、指摘した通り、楚々と階段を下りてくる。
「わあ、もう、このまま旅館の若女将が務まりそうだあ」
『いえ、そんな……』
「照れる留美ちゃんも、可愛いよ(^▽^)」
『て、照れます(#'∀'#)』
照れる後ろで「アハハハ」とさくらがノドチンコむき出しで笑っている。
『さくらだけではありません』
テイ兄ちゃんの声がして、カメラがパン。
すると、リビングに通じる廊下に如来寺のみなさんが出ていて、ウフフ アハハと笑っている。
なんだか、とっても懐かしく、許されるなら、このままジョン・スミスに車を出してもらって如来寺に直行したい気持ちになって、不覚にも鼻の奥がツンとしてくる。
「では、わたしも、修業の成果をお見せしたいと思います」
背後で、ソフィーが立ち上がる。
ジョン・スミスがカメラに切り替えてくれて、モニターの上1/6がソフィーを追う画面になる。
「ちょっと、どこまで行くの?」
カメラは、領事館の中庭に出るソフィーを追いかけている。
わたしも、裾を気にしながら中庭に。
「では、ソフィア参ります……」
そう言うと、ソフィーは中庭の築山の上に……
セイ!
掛け声をかけたかと思うと、裾もみださずにジャンプ! 空中で一回転したかと思うと……
ドスドスドス!
どこから取り出したのか、回転しながら手裏剣を投げ、中庭で一番大きい楡の木に三本とも命中させた(^_^;)
コ□ナの非常事態宣言真っ最中の大阪だけど、有意義に過ごしているわたし達でした。
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