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203『非常事態宣言の中のうちら』
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203『非常事態宣言の中のうちら』さくら
わたしたちバカになるかも……
安西さんの最後の言葉がリフレインする。
安西さんいうのは、学年で一番と言われてる才女でベッピンさんのクラスメート。頼子さんが卒業してからは、この安西さんが才色兼備のミス安泰中学!
クラスメートいうても、教室で一緒やったんは三週間ほど。
学年はじめなんで、席は『あいうえお順』で、苗字が酒井のわたしの横。サ行のわたしは『あいうえお順』の席やとア行の人がくることが多い。
頼子さんで耐性の付いたうちは、わりと平気で才色兼備の安西さんと話ができた。
その安西さんが「わたしたちバカになるかも……」と呟いた。
ペコちゃん先生が「オンライン授業になります」と宣言したから。
ペコちゃん先生は学校の決定を伝えただけやから罪は無い。
学校も教育委員会の決定に従っただけやから罪は無い。
教育委員会も日本国政府の非常事態宣言に忠実に従っただけやさかい罪は無い。
日本国政府もコ□ナの蔓延のために止む無く出した宣言やから罪は無い。
悪いのはコ□ナやさかい……ああ、もう! 考えると行き止まりになる!
パンピーのうちは「ああ、もう!」と言うしかないねんけど、才色兼備さんは「わたしたちバカになるかも……」と、一歩進んだ予想を立てる。
オンライン授業では、やっぱり授業になれへん。
先生も生徒もモニターの画面越しでは普通の授業の半分ほどしか入ってこーへん。質的にも量的にもね。
ペコちゃん先生は二日に一回くらいの割で生徒の家を訪れる。
プリント配るのと回収するため。
その出で立ちは、ごっついマスクにサバゲー用のゴーグル。カバンの中に入れた携帯用の消毒スプレーを手に吹きかけてからプリントを渡すという念の入れよう。
それで、きちんと90センチのディスタンスを守って、それでもTwitter二回分くらいのコミニケーションをとっていかはる。一件につき2分くらいやと思う。
――先生も大変なんだ、頭が下がります――
先生の訪問を受けた安西さんは、わたしにメールをくれる。
家の人に撮ってもろたんやろ、ペコちゃん先生とツーショットの写真付き。
――いつか、笑って、この写真を見れる日が来るよ。その時の為に面白写真いろいろ残します。酒井さんも面白いの撮れたら送ってください――
ほんまに行き届いたひとです。
その安西さんはオンライン家庭教師を付けた。
――先生も熱心にやってくださるけど、やっぱり学校のオンラインてアリバイでしかないんだよね。もう十カ月もしたら受験だし、ちょっとがんばります(^▽^)!――
いやはや、頭が下がります(^_^;)。
うちらの問題は部活。
部活禁止令が出てしもたさかいね。
「去年も夏ごろまでは、こんなだったね」
コタツを挟んで留美ちゃんとわたし。
文芸部の本拠地は本堂裏のお座敷。ここは、直接には日が差さへん部屋なんで、四月の末やいうのに、まだコタツが出してあるんです。
部活禁止やから二年の夏目銀之助は来られへん。ちょっと可哀そうやけどね。
オンライン授業は、ここで受ける。
自分の部屋で受けてもええねんけど、オンラインでも授業は授業、部屋を変えた方が切り替えがききます。
部室いうことは学校の一部いうことやし、気が散るようなものは置いてないしね。
なんちゅうても、同居人でありクラスメートである留美ちゃんといっしょに授業受けられるいうのんは、このご時世、ちょっと贅沢をしてるみたいで、ポテンシャルが上がります。
銀之助の発案で、アニメ化されたラノベを読んでます。
アニメはネットフリックスとAMAZONプライムビデオがあるねんけど、画質はAMAZONプライムの方がええさかい。AMAZONで見てます。AMAZONプライムはテイ兄ちゃんが入ってるんで、部室のテレビでも観られるようにしてもろてやってます。
けいおん 氷菓 輝けユーホニアム たまこまーけっと 甘城ブリリアントパーク 中二病でも恋がしたい
四月に入って、原作を読んでアニメを観たものをざっと挙げるとこんな感じ。
すでに観たことがあるものもあるけど、文芸部であらためて観たり読んだりすると感慨ひとしおやったりします。
『先輩、なにか気が付きました?』
モニターの向こうで銀之助が得意そうな顔で聞いてきよる。
「え、まあ、ほとんどあんたが推薦したもんやけど、なかなか面白かったよ」
ラノベもアニメも「ウフフ」「アハハ」「なるほど」「魅せますなあ」という作品ばっかりやった。
「フフ、わたし分かったよ(ΦωΦ)」
留美ちゃんが得意そうな猫顔になる。
「え、なになに?」
うち、一人分からへん。
「アニメは全部、京アニの作品だよね?」
「え、ほんま?」
『え、酒井先輩は気が付かなかったんですか?』
「え、あ、あ、ああ、そう言えば……(^_^;)」
アハハハハ
「わ、笑うな! ええもんはええと分かってんねんやさかい!」
「ごめんごめん、そんなつもりじゃないんだよ、わたしも夏目君も」
『そうですよ、先輩のそういう反応、可愛いですよ(^▽^)/』
「年下の癖にかわいい言うなあ!」
『ハハハ、すみません。じゃ、今週の夏目の推薦はこれです……』
あらかじめ仕込んであったんやろ、パソコンの画面はアニメのPVに変わった。
なんや、ぶっとんだロボゲーいう感じのアニメ。
「ガンダム……ちゃうなあ」
「あ、これは」
「留美ちゃん、言うたらあかんで……う~ん……エヴァンゲリオン……でもないなあ……」
悩んでるうちにタイトルが出てきた。
『フルメタルパニック』
「ロボット戦隊ものか……」
こういうジャンルのには、ちょっと弱い。それに、見慣れた京アニやないし。
「ううん、これも京アニだよ」
「え、このロボゲーが!?」
心の声を読んだのか、留美ちゃんが嬉しそうに注釈。
う、う、う、京アニ恐るべし……
二人にアハハと笑われてると、スマホの着信音。留美ちゃんのスマホや。
「えと……え…………ええ!?」
メールを読んだ留美ちゃんの顔色がみるみる青ざめていった……。
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