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201『女王陛下からの電話』
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201『女王陛下からの電話』頼子
からマヨ丼……A定食……ラーメンライス……サンドイッチとスタミナうどんの組み合わせも捨てがたいなあ……
わたしの頭はニ十分後にやってくる昼食メニューでいっぱいだった。
むろん、目の前で展開されている数二Bの板書を写すことに怠りは無い。無いどころか、理論先行で、もう一つ面白みに欠ける先生の説明にも姿勢を正し、ほどよく微笑んで聞いている……聞いているふり。
からマヨ丼とスタミナうどんというワイルドな組み合わせに心が傾斜して、その傾斜を視覚化したように教室の前の方のドアが開いた。
対数関数の説明が佳境に入ってきたところなので、授業の腰を折られて、ちょっと狂暴な顔つきで先生はドアを睨んだ。
ドアの隙間から見えたのは、日直日誌を取りに行った時ぐらいしか姿を観ない教頭先生だ。
教頭先生だと知れると、スイッチを切り替えたように柔和な目になって――なんでしょうか?――という表情になる。
ドアの所で教頭先生に一言二言告げられると、先生の視線は、あやまたずわたしに突き刺さってきた。
「夕陽丘さん、職員室にお電話がかかってきているそうです。直ぐに職員室へ行ってください」
「は、はい」
スックと立ち上がると、できるだけ授業の邪魔にならないように後ろのドアから出ていく。
むろん、礼儀として先生の方に黙礼することも忘れない。
コト
かそけき音だけ残してドアを閉めると、教頭先生が傍に寄って来て耳打ちされる。
「ヤマセンブルグからの国際電話です」
「あ、はい。わざわざありがとうございます」
教頭先生の神妙な様子と、わざわざ授業中の取次ということで、公使館あたりから緊急で人がきたか、電話があったかだろうと思っていたけど、地球の裏側のヤマセンブルグからというので、ちょっと緊張。
職員室の前まで行くと校長先生が首から下げたロザリオをに手を当てながら寄ってこられた。
「電話は、校長室に回しておきました……女王陛下からです」
「え、あ、はい」
お祖母ちゃんが学校に電話してくるなんて、よっぽどのことだ。
校長室に入ると、私以外に人は居なくて、校長先生も遠慮されている。
校長先生の机の上には受話器の送話口がこちらに向けて置いてあり、保留のオルゴールのメロディーがお伽話めいて流れている。
「はい、お電話代わりました。頼子です」
『ちょっと声紋確認するわね……』
「お祖母ちゃん……」
声紋確認……ただごとじゃない。
『オーケー、確認できたわ。ヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセンブルグ』
お祖母ちゃんは、めったに使わない真名でわたしのことを呼んだ。
「はい、なんでしょうか女王陛下」
わたしも、めったに使わない敬称でお祖母ちゃんに返事。
『実はね……イギリスのフィリップ殿下が亡くなられました』
「え……フィリップ殿下が!?」
フィリップ殿下というのは、エリザベス女王の夫君でチャールズ皇太子の実父。
イギリス王家で、女王の次の位のお方だ。
「詳しいことは、あとで電話するけれど、ヨリコ……事の重要性は分かっているわね」
「はい」
「ヤマセンブルグは親類筋に当ります。いずれ、ご葬儀のお話などが来ることになるでしょう。頼子に足を運んでもらわなければならないとも限らない。どうか、身を慎んで待って頂戴ね。それから……」
お昼のメニューは吹っ飛んでしまった。
電話を切って廊下に出ると、ソフィーが畏まって控えている。
学友であり警護役であるソフィーには別ルートで情報がきているんだろう。
「とりあえず、早退して領事館に戻って頂きます」
そう言うと、いつの間に用意したのか早退届の用紙を渡してくれる。
早退理由は『家庭都合』ということになっていた。
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