せやさかい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
196 / 432

196『留美ちゃんと朝のナマンダブ』

しおりを挟む
せやさかい

196『留美ちゃんと朝のナマンダブ』さくら     

 

 
 うちの親もたいがいやけど、留美ちゃんとこもけったいや。

 
 うちは、お父さんが七年以上も行方不明で一昨年失踪宣告になって、法律上は死亡になって、お母さんの実家に母子ともども戻ってきた。ケジメにお父さんのお葬式を出したあとに、今度はお母さんが失踪。

 留美ちゃんは看護師やってるお母さんがコ□ナに院内感染、日ごろの無理が祟ったのか重症化して、娘の留美ちゃんでも面会でけへん事態に。それで、うちに引き取っていっしょに住むことにしたんやけど、今度は、留美ちゃんが小さいころに離婚したお父さんが学校と、うちの家に現れて、経済的には困らんようにいろいろ手を打って行った。

 せやけど、このお父さんがけったい。

 うちらが後をつけて行ってた同じ時間に、うちのお寺にも現れて、留美ちゃん名義の通帳を預けて行った。

 うちの親と同様に、留美ちゃんのお父さんのことも深追いせん方がええという感じ。

 うちのお寺、如来寺は、うちと留美ちゃんを引き受けてくれるだけの、いろんな意味での大きさがある。

 
 ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ

 
 登校前には本堂の阿弥陀さんに手を合わせる。

 ナマンダブのお念仏は三回だけ。特に決まりがあるわけやないねんけど、一回じゃそっけない、二回でも頼りない。四回は多すぎる感じで、三回に落ち着いてる。

 こないだまでは詩(ことは)ちゃんと一緒やったけど、大学生になった詩ちゃんとは時間が合わへんので別々。

 その代わりというわけでも無いねんけど、留美ちゃんがいっしょに手を合わせてくれる。

「なんか、留美ちゃんまで習慣になってしもたねえ」

「うん、最初は真似して手を合わせるだけだったけどね」

 ナマンダブのお念仏は簡単やけども、慣れてへんと口に出すのは抵抗があるかもしれへん。なんか、お念仏唱えると、ほんまもんの門徒(信者)になるみたいで抵抗がある。

「単なる挨拶だったんだよね」

「うん、ナマンダブは『南無阿弥陀仏』で、南無は「もしもし」の呼びかけ」

「サンスクリット語の『ナーム』なんだよね」

 留美ちゃんは賢いからサンスクリット語いうとこに値打ちを感じてるみたい。

「うん、呼びかけにもなるし、気分次第で『おはよう』『ただいま』『ありがとう』『ごめんなさい』『おやすみ』、なんでもありの万能語」

「フフ」

 小さく笑っただけやけど、留美ちゃんの気持ちが落ち着いてることの現れやさかい、うちも嬉しい。

 で、登校前になにをグズグズしてんのかというと、今日は登校時間が二時間遅い。

 電気設備の修理で始業が十時半になったから。

 安泰中学がいかにボロかということやねんけど、堺市で、うちの学校だけがゆっくりやいうのんは、得した気ぃになる。

「阿弥陀さんだけじゃないんだよね」

「ちょっと、見てみる?」

「え、いいの?」

 お寺の本堂いうのは、内陣と外陣(げじん)で出来てる。

 外陣は檀家さんやらが手を合わさはるとこ。内陣はご本尊の阿弥陀さんらの須弥壇があるとこで、外陣よりも一段高くなってる。時代劇で言うたら、お殿様がお小姓とか侍らせて座ってはるとこ。

「お小姓みたいなものなの?」

 留美ちゃんはご本尊の両脇に興味が湧く。

「ええとね、こっちが聖徳太子」

「え、聖徳太子? なんで?」

「え……なんでやろ?」

 見慣れてるから不思議にも思えへんかったんやけど、なんで、お寺に聖徳太子?

「アハハ、また気いとくわ(*´ω`*)」

「こっちは?」

「あ、ここの歴代住職」

「立派なお坊様だったのねえ」

「いや、それほどでも……」

 一種の系図みたいなもんやねんけど、初代から数えて十二人の坊主の名前が肖像付きで掛け軸になってる。見かけは大名の家系図(社会の資料集とかに載ってるやつ)みたいやけど、お寺では普通にある。

 
 お早うございます!

 
 急に声が掛かって、留美ちゃんともどもビックリする。

「あ、銀之介!」

「本堂のほうだって、聞いたもんですから」

「あがって、あがって、荷物はこっちのほうやから」

「はい」

 唯一の一年生部員夏目銀之助。

 ここのとこ部活どころやなかったんで、みなさんにはご無沙汰やった子ぉです。

 学校の部室も充実させならあかんので、急きょ荷物の一部を学校に持っていくことになったんです。

 本格的な春を目前に、わたしらの周囲は少しずつ変化し始めてるみたいです。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私とコンビニ吸血鬼

とらんぽりんまる
ライト文芸
5月28日完結しました。ありがとうございました! 高校生の少女は、いつもコンビニへ行く。 そのコンビニでは吸血鬼が働いている。 普通の青年と変わらず一生懸命働いている吸血鬼と少女の、ちょっとコミカルでちょっと切ない青春ドラマ。 短編連作の予定です。 是非お気に入り登録お願いします。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

北野坂パレット

うにおいくら
ライト文芸
 舞台は神戸・異人館の街北野町。この物語はほっこり仕様になっております。 青春の真っただ中の子供達と青春の残像の中でうごめいている大人たちの物語です。 『高校生になった記念にどうだ?』という酒豪の母・雪乃の訳のわからん理由によって、両親の離婚により生き別れになっていた父・一平に生まれて初めて会う事になったピアノ好きの高校生亮平。   気が付いたら高校生になっていた……というような何も考えずにのほほんと生きてきた亮平が、父親やその周りの大人たちに感化されて成長していく物語。  ある日父親が若い頃は『ピアニストを目指していた』という事を知った亮平は『何故その夢を父親が諦めたのか?』という理由を知ろうとする。  それは亮平にも係わる藤崎家の因縁が原因だった。 それを知った亮平は自らもピアニストを目指すことを決意するが、流石に16年間も無駄飯を食ってきた高校生だけあって考えがヌルイ。脇がアマイ。なかなか前に進めない。   幼馴染の冴子や宏美などに振り回されながら、自分の道を模索する高校生活が始まる。 ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・オーケストラそしてスコッチウィスキーや酒がやたらと出てくる小説でもある。主人公がヌルイだけあってなかなか音楽の話までたどり着けないが、8話あたりからそれなりに出てくる模様。若干ファンタージ要素もある模様だが、だからと言って異世界に転生したりすることは間違ってもないと思われる。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

そして俺は召喚士に

ふぃる
ファンタジー
新生活で待ち受けていたものは、ファンタジーだった。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...