上 下
188 / 432

188『不敬罪ですよ!』

しおりを挟む
せやさかい

188『不敬罪ですよ!』さくら   

 

 
 留美ちゃんのお母さんは七日間コ□ナと戦った。

 
 自発呼吸もでけへんようになって人工呼吸器。これがお年寄りやったら命が無いとこや。

 せやけど、留美ちゃんのお母さんは、まだ四十代やったんで、命は助かった。

 せやけど、意識が戻ってこーへん。

 主治医の先生は『脳の一部が機能を失ってる、見込みがないわけではないが、時間がかかるかもしれない』と防護服を着てアクリルのバリヤー越しに説明しはったらしい。

「うちに来てもらい!」

 わたしの説明を聞くと、テイ兄ちゃんは一言で結論を出した。

「せやけど……」

「十四歳の女の子が背負うには重すぎる。さいわい、うちは間数だけは多い。文芸部でも使てたし、馴染みやすいやろ」

 そこまで言うと、すぐに家族全員を本堂の阿弥陀さんの前に集めて話を決めてしもた。

「ほんなら、すぐに迎えにいこ」

 あっという間に車を出して、あたしを助手席に座らせた。

「いちおう、とりあえずいうことにしとこ」

「うん」

「いつまでも居てもろてええねんけど、留美ちゃん遠慮するやろ。あ、連絡したか?」

「あ!?」

 慌ててスマホを出してメールを打つ。

「せや」

「お、頼子さんにも打つんか(^▽^)」

「先輩やさかいね……って、すけべな顔せんとって」

「してへんしてへん」

 テイ兄ちゃんは、坊主にしては軽すぎる。本堂裏のうちらの部室にもしょっちゅう顔出すし、なにかっちゅうと、車に乗せてあちこち連れ出される。頼子さんが目当てらしいねんけど、露骨にひいきもでけへんので、うちら文芸部がダシに使われるんやけど、ダシやいう気楽さが、この場合役に立つと思う。

「え、お兄さんまで……」

 テイ兄ちゃんが来るとまではメールに書いてなかったんで、玄関を開けた留美ちゃんはビックリした。

「とりあえず要るもん持ってうちにおいで」

「おいでって……」

 案の定、留美ちゃんは尻込みする。

「遠慮なんかせんとき、留美ちゃんに来てもらわんと、うちのもんは、家の事も寺の事も手につかん。頼子さんかて……」

 テイ兄ちゃんが、そこまで言うと、うちのスマホが鳴った。

「あ、頼子先輩!」

『さくら、わたしも車で向かってるところだから、え? 留美ちゃんちに居るの? ちょっと代わって』

「代わってやて」

『留美ちゃん、さっさと行かなきゃダメよ。わたしが行くまでにさくらんちに行ってること。王女様を待たせたら不敬罪ですよ!』

「は、はい」

 わたしらだけやったら説得に半日かかったかもしれへんけど、プリンセスの一言は圧倒的やった。

 ヨーロッパや日本に王制や皇室が残ってる意味を実感したかも(^_^;)。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ホンモノの自分へ

真冬
ライト文芸
小学生の頃から酷いいじめを受け続けてきた天野樹。 そして、小学生の頃に唯一の味方で親友の死、その後悪化するいじめ。心の扉を固く閉ざした樹は人との関わりを拒絶し続けて生きていくと決めたが、高校2年になり出会った人たちは樹をそうさせててはくれなかった。 彼らと出会って少しずつ樹の心境も変わっていく。 そんな、樹たちの日常と成長を描いた青春ストーリー

乙女先生とゆかいな人たち女神たち

武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
岸和田生まれの乙女先生は希望ヶ丘青春高等学校に転勤を命ぜられた。 校名だけは爽やかだが、内実は……言うも憚られることが多かった。 しかし、持ち前のバイタリティーと歳より若く見えるルックスで乗り切っていくのだ。

フレンドコード▼陰キャなゲーマーだけど、リア充したい

さくら/黒桜
ライト文芸
高校デビューしたら趣味のあう友人を作りたい。ところが新型ウイルス騒ぎで新生活をぶち壊しにされた、拗らせ陰キャのゲームオタク・圭太。 念願かなってゲーム友だちはできたものの、通学電車でしか会わず、名前もクラスも知らない。 なぜかクラスで一番の人気者・滝沢が絡んできたり、取り巻きにねたまれたり、ネッ友の女子に気に入られたり。この世界は理不尽だらけ。 乗り切るために必要なのは――本物の「フレンド」。 令和のマスク社会で生きる高校生たちの、フィルターがかった友情と恋。 ※別サイトにある同タイトル作とは展開が異なる改稿版です。 ※恋愛話は異性愛・同性愛ごちゃまぜ。青春ラブコメ風味。 ※表紙をまんが同人誌版に変更しました。ついでにタイトルも同人誌とあわせました!

雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

谷島修一
ライト文芸
雑司ヶ谷高校1年生の武田純也は、図書室で絡まれた2年生の上杉紗夜に無理やり歴史研究部に入部させられる。 部長の伊達恵梨香などと共に、その部の活動として、なし崩し的に日本100名城をすべて回る破目になってしまう。 水曜、土曜更新予定 ※この小説を読んでも歴史やお城に詳しくなれません(笑) ※数年前の取材の情報も含まれますので、お城などの施設の開・休館などの情報、交通経路および料金は正しくない場合があります。 (表紙&挿絵:長野アキラ 様) (写真:著者撮影)

【完結】君たちへの処方箋

たまこ
ライト文芸
妹が急死した旺也は、彼女の息子を一人で育てることになった。 母親が急にいなくなったことで荒れる甥との暮らしに悪戦苦闘し、日々疲弊していく。 そんな二人の前に現れたのは……。 大事な人を亡くした二人が少しずつ心を癒していくお話です。 ※人の生死に関するお話ですので、苦手な方はご注意ください。 ※不妊に関するお話が一部あります。該当箇所には冒頭に書いておりますので、苦手な方はそこを飛ばして読んでいただけたらと思います。

聖夜のアンティフォナ~君の声は、夜を照らすあかりになる~

雨愁軒経
ライト文芸
ある年の冬。かつて少年ピアニストとして世界を飛び回っていた高校生・天野冬彦は、缶コーヒーを落としたことがきっかけで、聾者の少女・星川あかりと出会う。 冬彦のピアノの音を『聴こえる』と笑ってくれる彼女との、聖夜のささやかな恋物語。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。 ※また、この作品には一般に差別用語とされる言葉が登場しますが、作品の性質によるもので、特定の個人や団体を誹謗中傷する目的は一切ございません。ご了承ください。

僕とピアノ姫のソナタ

麻倉とわ
ライト文芸
 音大でヴァイオリンを専攻しながらも、日々音楽よりも女遊びにいそしむ椎名哲朗。  彼はある合コンで目を奪われるような美人と出会うが、彼女は場の空気をまったく読めず、周囲から浮きまくっていた。実は同じ大学で『ピアノ姫』と呼ばれている音楽バカの天才ピアニスト、真山調だったのだ。  ひょんなことから哲朗は調とホテルに行くことになり、流されて一夜を共にしてしまうが――。

小料理屋はなむらの愛しき日々

山いい奈
ライト文芸
第5回ほっこり・じんわり大賞にて、大賞を!受賞しました!ありがとうございます!( ̄∇ ̄*) 大阪の地、親娘で営む「小料理屋 はなむら」で起こる悲喜こもごも。 お客さま方と繰り広げられる、心がほっこりと暖まったり、どきどきはらはらしたりの日々です。

処理中です...