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187『留美ちゃん、ちょっと!』
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187『留美ちゃん、ちょっと!』さくら
留美ちゃんのお母さんは大和川を超えた大阪市内の病院に勤めてはる。
病院は、去年の春から指定感染症、つまりコ□ナ患者を収容する病院になって、もう目の回るような忙しさ。
こないだお見舞いに行った専念寺さんが入院してる病院は普通の病院で、外来は例年の半分ちょっと。
患者さんらはコ□ナになったらあかんので、お医者さんやら病院に行くのは控えてる。
コ□ナ以来、マスクや手洗いを徹底するようになったんで、風邪やらインフルエンザに罹る人は劇的に減ったいうこともあんねんけど、一部のコ□ナ病院は医療崩壊も心配されるほどのてんてこ舞い、その他の病院は倒産が噂されるほど暇らしい。
留美ちゃんは、忙しいお母さんに代わって、家事一般はなんでもこなす。
せやから、心配はないと思うねんけど、夕べの電話は、今までの留美ちゃんと違う。
『お母さんが……お母さんが……コ□ナに罹っちゃったああ……』
言葉の尻尾は、もうほとんど泣き声やった。
けど、人にみっともないとこは見せられへんいう気持ちやねんやろか……最後に、グッと息をのみ込むと、電話でも分かるくらいに息を整えて、こう言うた。
「でも、さくらちゃんに言ったら、落ち着いた。どうもありがと……うん、大丈夫、ずっと家の事はやってきたし、ヘッチャラだよ。じゃ、明日は元気に学校いくね(^▽^)」
なにか言ったげなあかん!
気持ちは焦んねんけど、なんにも言われへんままで電話は終わってしもた。
留美ちゃんの不安な気持ちが伝染ってしもて、その夜はダミアをダッコして寝てしもた。
おっちゃんに相談しよとも思たけど、うちも、居候の身。なかなか、相談の口火を切られへん。
ちょ、留美ちゃん!?
学校で顔を合わせてビックリした。
けしてオシャレをするような子ぉやないねんけど、いっつも清潔な身なりをしてて、好感度の高い子ぉやった。
それが、制服はシワクチャやし、髪は梳かした形跡もないボサボサ頭。
「留美ちゃん、ちょっと!」
廊下で見かけた留美ちゃんの手を取って、文芸部のもともとの部室に連れて行く。
部活は、ほとんどうちの本堂裏の座敷でやってんねんけど、正規の部室は図書室の分室。
机の向かい同士に置いてある椅子を、この時ばかりは横に並べて、留美ちゃんの肩を抱いたまま座る。
「留美ちゃん、なんでも言うて!」
コ□ナに罹らはったんやから、たとえ娘でも面会謝絶ぐらいにはなってると思て、腹を据えて聞く態勢になる。
「着替えとか……当面必要なものを持って、病院に行った……」
「うん……それで?」
「病院の中にも入れなかったよ……二時間待って、やっと知り合いの看護師さんと……受付の窓越しに話が……」
「うん、話はできてんね」
「自発呼吸……できなくて人工呼吸になってて……」
さすがはベテラン看護師の娘で、うちの知らん用語やら数値がでてくる。知らん用語やから覚えようもないねんけど、留美ちゃんがいっぱいいっぱいいうのんだけは分かる。
うちも留美ちゃんも、入学以来初めて授業をサボってしもた……。
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