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180『代理でお見舞い・3』

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せやさかい

180『代理でお見舞い・3』さくら   

 

 
 信号を渡ったら駅のロータリーというとこで足が停まってしまう。

 
 追い抜いていくオバチャンが――なんや、この子は!?――いう顔して信号を渡っていく。

 うちの直ぐ後ろに居てはったんやろね、青になっても横断歩道を渡らへんうちが、ちょっと迷惑やったんや。

 阿弥陀さんの思し召し、回れ右して道を戻る。

 頭の中は車にはねられた母ネコと、道路の端っこで震えてる子ネコがバグった動画みたいにフラッシュバックしてる。

 うちが目ぇ合わさへんかったら、母ネコはたじろぐこともなく道路を渡ってた。子ネコはチョコチョコっこと母ネコのあとを付いて、母子ネコの平和な一日が続いていたやろ。

 うちは、剣呑な顔をしてたんや。

 お見舞いに来たはずが、逆に入院してる専念寺のゴエンサンに気ぃ遣わしてしもて、花束を持って行ったのに花瓶にまで気ぃ回れへんで、鸞ちゃんの手ぇを煩わせてしもた。

 母ネコは、あらぬ角度にねじ曲がってしもて、血反吐を吐いて……九割九分死んでる。

 人間やったら、なにはさておいても救急車やけど、ネコはどないしたらええねんやろ?

 動物の死骸は保健所に連絡……回覧板で読んだような気がする。

 せやけど、ここは大阪市、やり方が違うかもしれへん。

 せや、花屋さんにでも聞こ。

 それよりも子ネコ。

 まだ、生後一か月くらい、まだ母ネコのお乳飲んでるんちゃうやろか。

 ダミアの事が思い出される。子ネコはお乳飲んだとはゲップさせならあかんし……トイレかて濡れティッシュとかで刺激してやらんと、自分ではでけへん。

 せや、子ネコは引き取ろ。

 ダミアは大人しいから、子ネコが来ても馴染んでくれるやろし……けど、うちは如来寺では居候のようなもんやし、まだ中学二年やし……子ネコ一匹飼うのんも、けっこうお金がかかる。

 ミルク、離乳食、餌代、動物病院にも連れていかならあかんやろし……一年前のダミアのことが頭に浮かんで来る。けっこうな費用や。

 連れて帰るにしてもケージとかいるし……花屋さんで段ボール箱でももらうか……。

 中学生でもできるアルバイトないやろか……頭の中をいろんなことがグルグル回る。

 
 事故現場に戻ると、道の真ん中は水を流した跡がある。

 誰かが始末して掃除したんや。

 子ネコの姿は……?

 キョロキョロしてたら声をかけられる。

 
「ネコを探してるのん?」

 
 アッと思って振り返ると花屋のオバチャン。

「は、はい、どないなりました?」

「母ネコは商店会で片づけはったわよ」

 片づけるという言葉に――死んでしもた――という響きがある。

「子ネコはね、さっき花瓶買うてくれはった女の子が引き取っていったわ」

「え、そうなんですか( ゜Д゜)!」

「これも縁です言うてはった、母ネコにも手ぇ合わせて『ナマンダブナマンダブ……』って、なんや、お寺さんの娘さんて言うてたよ。うちに古いケージがあったんで間に合わせてね……」

「よかった……」

「ひょっとして、気にしてた?」

「はい、ちょっとばかし。母ネコが跳ねられる寸前に目が合ってしもて……」

「そう……そら、気持ち悪いやろけど、原因は当て逃げした車やさかい、気にせんとき」

「は、はい」

 ちょっとホッとしてる自分が胸の中におって自己嫌悪。

 小さく手を合わせてナマンダブを唱えて家に帰りました。

 

 

 
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