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179『代理でお見舞い・2』

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せやさかい

179『代理でお見舞い・2』さくら   

 

 専念寺のゴエンサンとは五十分も話してしもた。

 
 病人さんのお見舞いとしては喋り過ぎやと思う。

 ゴエンサンは、たった今まで口喧嘩してた孫娘(たしか鸞ちゃん)のことは一言も喋らんと、お祖父ちゃんとの昔話やらお寺の面白いお話やらしてくれはって、かえってうちが楽しんでしもた。

 五十分言うのは授業一回分の時間や。

 日ごろ五十分いうのに慣れてるから、五十分で一区切りいう顔をしてたんかもしれへん。

 帰ってからお祖父ちゃんに聞いたら、専念寺さんは学校の先生をやってはったらしくて、それで五十分やったんかもしれへん。

 まあ、無事にお役目を果たせたんで、病室のドアを閉めた時には正直ホッとした。

 廊下をエレベーターの方に歩いて行くと、ナースステーションの前の休憩コーナーに鸞ちゃんが座ってた。

 改めて見ると、どこかのアイドルグル-プのセンター張れそうなくらいのベッピンさん。

 一瞬目が合う。

 ペコリと頭を下げるんやけど、返ってきたのは敵意剥き出しの目ぇ。

 ベッピンさんやさかいに睨んでくる目ぇが、よけいにキツイ。

 頭の中でフラッシュバック。小さいころにお母さんにこんな目ぇで睨まれた。

 そうや、鸞ちゃんの怖い顔は、あの時のお母さんにソックリや。

 なんか見てはいけないものを見てしもた感じ。

 そんな顔せんでもええやんか! と、思う。

 反発した心もいっしょや。

 エレベーターで降りながらも鸞ちゃんの目ぇが離れへん。

 
 気分転換せんと家につくまで引きずりそう……待合の自販機でコーンポタージュを買ってベンチで休む。

 
 診察の順番の掲示板が八人分進んだところで飲み終えて「よし!」と気合を入れて外に出る。

 うちは、用事を済ませただけや。あの子に睨まれる筋合いは無いっちゅーねん!

 思たら空き缶持ったままなんで、その場から投げると、見事にストライクでゴミ箱に収まる。

 よし!

 気を取り直して、病院の敷地を出る。

 病院を出てちょっと行ったところに、さっきお見舞いの花を買った花屋さん。

 その店先に鸞ちゃんの後姿が、棚の花瓶を指さしてる。

 あ、そうや。病室には花瓶が無かった(-_-;)。

 うちが持ってきた花を活けるために、お爺さんが言うたんか花瓶を買うことになったんや。

 ちょっと申し訳ない気持ちになる。

 お祖父ちゃんは「花瓶が無いようなら、ナースセンターで借りたらええさかい」と言うてたのを忘れてたあ。

 
 もう、さっさと行こ!

 向けた目の先にネコ。

 道路を渡ろとして、キョロキョロしてるとこに睨まれて、ネコは固まってしまう。

 後ろに子ネコが付いてる、おそらく親子や。

 子ネコが居てるさかいに、普段よりも慎重に道路事情を見極めてるんや。

 邪魔したらあかん(^_^;)、サッと目をそらして歩き出す。

 
 ドン

 
 鈍い音がして、わたしの横をバイクが走り去っていく。

 ハッとして振り返ると、たった今目ぇが合うたネコが、捩じれてアスファルトの路面に叩きつけられてる!

 道の端っこでは、子ネコが目をいっぱいに見開いてガタガタ震えてる。

 花屋さんやら通行人の人らが――ショック!――という顔で口を押えたり立ち止まったり。

 え、え? うちのせい?

 うちは、二三歩後ずさりして、速足で、その場を離れてしもた……。 

 
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