上 下
151 / 432

151『学校で流行ってる』

しおりを挟む

せやさかい

151『学校で流行ってる』さくら        

 

 
 学校で「きた?」が流行ってる。

 
 たまに「きた!」とか「きたあ!!」と、テンション高く言うこともある。

「きた!」はマスクで、「きたあ!」は十万円。

 ほら、アベノマスクと特別給付金の十万円ですわ。

 
「気持ち分かるんだけど、特別給付金では、あまり言わない方がいいと、先生思います」

 
 ペコちゃん先生がたしなめる。

 ペコちゃん先生というのは、わが二年三組の担任、月島さやか先生。

 笑顔がペコちゃんみたいなんで、自然と『ペコちゃん先生』が定着しかけてる。

「そういうところからイザコザになることもあるからね」

 イザコザ、なんで?

 伝わったのか、先生は言いにくそうに付け加えた。

「えと、中にはさ『金が入ったんなら奢ってくれよ』とか『貸してくれよ』なんてタカるやつもいるからね」

「けど、みんなに来るから、ええんちゃうん」

「早いか遅いかだけやし」

 この要らんこと言いは、瀬田と田中。二年になっても同じクラス。

 ま、ええけど、留美ちゃんも同じクラスやし。

「給付金もらってもさ、みんなが自由に使えるわけじゃないでしょ。保護者の方が管理するお家もあるでしょ。お店だったら、家族全員の給付金が回転資金になるお家もあるだろうし。うん、先生は、もし君らぐらいの子どもがいたとしたらよ『お前の金だ、好きに使え』とは言わないよ。他府県じゃ、たかられたって事件んも起こってるしね。ま、とりあえず、学校の外では、あんまりはしゃがないようにね。じゃ、十五日から平常授業になる件について説明しまーす」

 やっと十五日から平常授業。

 ソーシャルディスタンスのとり方と、部活は、まだしばらくは休止という話を丁寧に説明してくれはった。

 
 文芸部もしばらくは自粛だね。

 
 三時間目が終わって、校門を出たところで留美ちゃんが切り出す。

「せやね、文芸部はうちの本堂やから問題は無いねんやろけど、他の部活は休んでるやもんね」

「一つ心配なんだけどね」

「うん?」

「頼子さん卒業してしまって、文芸部って、わたしとさくらちゃんだけでしょ」

「せやねえ」

「部活の成立要件て、三人だったよ……」

「あ…………」


 思い出した。


 去年の春、文芸部は頼子さん一人っきりで、わたしらが入って、頼子さんはむちゃくちゃ喜んでた。

 そうなんや、部員が二人いうのは、ちょっとヤバいんや。

「平常授業になったら、新入部員獲得せならね!」

「うん……」

「どないかした?」

「わたし、今までのがいい。頼子さんとさくらちゃんと三人の文芸部がいい」

「あ……うん、せやね」

 留美ちゃんは人間関係が苦手。

 留美ちゃんにとって、文芸部の一年間は奇跡的に楽しかった思い出なんや。

 それだけ、あたしや頼子さんに心を許して、たぶん自分でも我がままやと思いながらでも言うてるんや。

 給付金のこととちごて、学校を出たからこそ言えることやねんわ。

 ほんまは、一年の新入部員に入ってもらいたい気持ち満々やねんけど、ここは留美ちゃんに寄り添っておくことにする。

「実はね……」

「うん?」

「アベノマスクは来たんだよ」

 そう言うと留美ちゃんはポケットからアベノマスクを掛けて見せてくれる。

「ああ、ほんまや!」

「学校じゃ、着ける勇気出なくって」

「ねえ、写真撮らせてよ! マスクデビューや! 撮って頼子さんに送ったげよ!」

「や、やだよ。ちょっと見せただけなんだからあ!」

「よいではないか、よいではないか、しゃし~ん!」

 
 分かれ道まで、ハシャギまくった文芸部でした……(⋈◍>◡<◍)。✧♡

 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

薔薇紳士の興じ事

世万江生紬
ライト文芸
ここは悩み事を抱える人だけが訪れることの出来る、古いけれど綺麗で落ち着く喫茶店『Rose』。この喫茶店の店主、薔薇紳士はお客様のお悩みを紳士に解決する――。

三回も婚約破棄された小リス令嬢は黒豹騎士に睨まれる~実は溺愛されてるようですが怖すぎて気づきません~

鳥花風星
恋愛
常に何かを食べていなければ魔力が枯渇してしまい命も危うい令嬢ヴィオラ。小柄でいつも両頬に食べ物を詰めこみモグモグと食べてばかりいるのでついたあだ名が「小リス令嬢」だった。 大食いのせいで三度も婚約破棄されてしまい家族にも疎まれるヴィオラは、ひょんなことからとある騎士に縁談を申し込まれる。 見た目は申し分ないのに全身黒づくめの服装でいつも無表情。手足が長く戦いの際にとても俊敏なことからついたあだ名が「黒豹騎士」だ。 黒豹に睨まれ怯える小リスだったが、どうやら睨まれているわけではないようで…? 対照的な二人が距離を縮めていくハッピーエンドストーリー。

怪物街道

ちゃぴ
ライト文芸
ある人間が、様々な妖怪達と出会うお話です。 ひょんなことから迷い込み、そこで出会う妖怪達と一悶着と仲直り。 色々な事に直面しても、彼らはなんだかんだで笑い合う。 一人一人の想いが繋がり、そして物語になっていく…。 さて、本編は、難しい言葉も出てきますし、誤った情報が出てくる可能性もございます。 そこはあの、この物語はフィクションですという魔法の言葉に助けてもらおうかと。 拙い御伽噺を楽しんでいただければと思います。

苗木萌々香は6割聴こえない世界で生きてる

一月ににか
ライト文芸
黒猫のぬいぐるみ・アオを大切にしている高校2年生の苗木萌々香は、片耳が聞こえない。 聞こえるけれど聴こえない。そんな状態を理解してくれる人は身近におらず、アオは萌々香にとって唯一本音を話せる友人兼家族だった。 ある日、文化祭委員を押し付けられてしまった萌々香はクラスメイトの纐纈君の思わぬやさしさに触れ、消極的な自分を変えたいと願うようになる。 解決方法のない苦しみの中でもがく萌々香の成長の物語。 表紙イラスト/ノーコピライトガールさま

トレンチコートと、願いごと

花栗綾乃
ライト文芸
私のちっぽけな殻を破ってくれたのは、ふらりとやってきた訪問者だったー。 冬休み。部屋に閉じこもっていた実波は、ふらりとやってきた伯母の瑞穂と再会する。 そんな数週間の、記録。

ねねこグラフィカル(泡沫太陽のこけおどし)

アポロ
ライト文芸
2023年5月29日完結。天才小説家の活躍するかどうか物語です!^^ あらすじ ぼく、泡沫太陽(うたかたたいよう)は巨大倉庫での夜勤を終えると送迎バスで帰る。冒頭の朝、バスの発着地点から安アパートまでの間にあるコンビニで、かつてお蔵入りにした自作ライトノベルのヒロインらしき化け猫が待ち伏せしていた。ねねこが現実世界のぼくに文句を言いに来たのだ。 「お久しぶりです、太陽君」 ねねこのキャラクター設定をくわしくは覚えてはいない、しかし無視すると世界が滅ぼされてしまいそうなのは理解した。ぼくたちはお互いの世界を助け合わなければならない運命、らしい。 別件、職場の同僚の木目田(キメダ)さんの裏の顔を秘密裏に調査する任務もある。 ああ、ややこしい展開になりそう。 * 95パーセントフィクション。5パーセントノンフライ製法のポテトS。主菜と副菜が逆転したら、ただいまキャンペーン中の私星バーガーもご一緒にいかがですか。春の闇クーポンコードは575。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

処理中です...