150 / 432
150『青信号になるまで……』
しおりを挟む
せやさかい
150『青信号になるまで……』ソフィア
任務なのだからウキウキなんかしてはいけない。
自分を戒めてみるのだけど、制服に身を包んでプリンセスと並んで歩くと、日本での生活に心が弾んでしまう。
そのうち慣れるからとプリンセスはおっしゃるのだけれど、狎れてはいけないと意訳して胸に収める。
あくまでもプリンセスのガーディアンなのだ。
プリンセスの身に万一のことがあれば、この身を挺してお守りしなければならない。
狙撃の気配があれば、果敢にプリンセスの前に立ち我が身を盾にして凶弾を受けなければならない。道行く車に、万一テロリストの車が混じってひき殺そうとすれば、プリンセスを突き飛ばして、わが身をテロリストの贄(にえ)としなければならない。
制服の内ポケットには家伝のニンバス。
ハリーが持っていたのと同型の魔法の杖。目立ってはいけないので万年筆に擬態してある。スマホはバッテリーの容量が大きく、いざとなればスタンガンの働きをする。ローファーの爪先には十二ミリの刃が仕込んであって、回し蹴りをすれば一閃で敵の頸動脈を切ることができる。指輪とピアスには毒針が仕込んであるが、学校の規定で装身具を身に着けることは叶わない。
他にも任務遂行のため、日本の忍者には負けないくらいの装備は身に着けているが、この数日通学して、そういうものは使わなくて済みそうな感触。
コ□ナに関する備えと緊張感は感じるが、プリンセスの身に及ぶような危機感は一ミリもない。
このままでは、先祖代々ヤマセンブルグ公国に仕えてきたガーディアンとしての技術も魔法も失ってしまうのではないか?
身も心も引き締めなければ!
「また、任務の事考えてる」
今まさに渡ろうとした横断歩道の信号が赤になって、立ち止まると同時にプリンセスが呟く。
「いえ、そんなことは……」
「ソフィアはご学友なのよ」
「ご学友? 友? いえ、友などと横並びの存在ではありません。あくまで、ソフィアはプリンセスの臣下であります、ガーディアンであります」
「Stalking horseとも云う」
「ストーキングホースですか!?」
「そう、当て馬。わたしを一人前の王位継承者にするためのね。ソフィアが楽しく日本で過ごしてくれて、勉強の上でも生活の上でも実り多い経験をしてくれたら、わたしの良い競争相手になるってお婆様の企み」
「は、はあ」
「だから、もっと気楽に、留学生として……ううん、女子高生としてやってちょうだい。遊びとか……遊びとか……遊びとか」
「遊びばっかりですか?」
「たまにはお勉強とか……も?」
「疑問形ですか」
「そうそう、いろんなことに疑問もってチャレンジしてみる。わたしもソフィアもね」
「はい、それがプリンセスのお為になるのなら」
「なるわ、なります。できたら、その『プリンセスのため』っていうのは領事館の金庫にでもしまってね」
「はい、でも……」
「デモは無し。ほら、青になったわ」
「はい、ありがとうございます。こういう話をするために、赤信号にひっかかるように歩調を合わせてくださったんですね。さすがはプリンセス!」
「あー、友だちと喋るためのテクニックよ、プリンセスじゃなく女子高生としてのたしなみ」
「はい」
「ああ、やっぱヤマセンブルグの言葉は微妙に時間がかかる。これからは日本語でいくからね」
「承知しました! です!」
信号を渡り終えると、交差点角のベーカリーショップから焼き立てパンのいい匂いが漂ってくる。
「ね、焼き立てパン買っていこうか!?」
「あ、はい、です!」
どうも、読まれているのはわたしの方のようだ。
プリンセス、恐るべし。
150『青信号になるまで……』ソフィア
任務なのだからウキウキなんかしてはいけない。
自分を戒めてみるのだけど、制服に身を包んでプリンセスと並んで歩くと、日本での生活に心が弾んでしまう。
そのうち慣れるからとプリンセスはおっしゃるのだけれど、狎れてはいけないと意訳して胸に収める。
あくまでもプリンセスのガーディアンなのだ。
プリンセスの身に万一のことがあれば、この身を挺してお守りしなければならない。
狙撃の気配があれば、果敢にプリンセスの前に立ち我が身を盾にして凶弾を受けなければならない。道行く車に、万一テロリストの車が混じってひき殺そうとすれば、プリンセスを突き飛ばして、わが身をテロリストの贄(にえ)としなければならない。
制服の内ポケットには家伝のニンバス。
ハリーが持っていたのと同型の魔法の杖。目立ってはいけないので万年筆に擬態してある。スマホはバッテリーの容量が大きく、いざとなればスタンガンの働きをする。ローファーの爪先には十二ミリの刃が仕込んであって、回し蹴りをすれば一閃で敵の頸動脈を切ることができる。指輪とピアスには毒針が仕込んであるが、学校の規定で装身具を身に着けることは叶わない。
他にも任務遂行のため、日本の忍者には負けないくらいの装備は身に着けているが、この数日通学して、そういうものは使わなくて済みそうな感触。
コ□ナに関する備えと緊張感は感じるが、プリンセスの身に及ぶような危機感は一ミリもない。
このままでは、先祖代々ヤマセンブルグ公国に仕えてきたガーディアンとしての技術も魔法も失ってしまうのではないか?
身も心も引き締めなければ!
「また、任務の事考えてる」
今まさに渡ろうとした横断歩道の信号が赤になって、立ち止まると同時にプリンセスが呟く。
「いえ、そんなことは……」
「ソフィアはご学友なのよ」
「ご学友? 友? いえ、友などと横並びの存在ではありません。あくまで、ソフィアはプリンセスの臣下であります、ガーディアンであります」
「Stalking horseとも云う」
「ストーキングホースですか!?」
「そう、当て馬。わたしを一人前の王位継承者にするためのね。ソフィアが楽しく日本で過ごしてくれて、勉強の上でも生活の上でも実り多い経験をしてくれたら、わたしの良い競争相手になるってお婆様の企み」
「は、はあ」
「だから、もっと気楽に、留学生として……ううん、女子高生としてやってちょうだい。遊びとか……遊びとか……遊びとか」
「遊びばっかりですか?」
「たまにはお勉強とか……も?」
「疑問形ですか」
「そうそう、いろんなことに疑問もってチャレンジしてみる。わたしもソフィアもね」
「はい、それがプリンセスのお為になるのなら」
「なるわ、なります。できたら、その『プリンセスのため』っていうのは領事館の金庫にでもしまってね」
「はい、でも……」
「デモは無し。ほら、青になったわ」
「はい、ありがとうございます。こういう話をするために、赤信号にひっかかるように歩調を合わせてくださったんですね。さすがはプリンセス!」
「あー、友だちと喋るためのテクニックよ、プリンセスじゃなく女子高生としてのたしなみ」
「はい」
「ああ、やっぱヤマセンブルグの言葉は微妙に時間がかかる。これからは日本語でいくからね」
「承知しました! です!」
信号を渡り終えると、交差点角のベーカリーショップから焼き立てパンのいい匂いが漂ってくる。
「ね、焼き立てパン買っていこうか!?」
「あ、はい、です!」
どうも、読まれているのはわたしの方のようだ。
プリンセス、恐るべし。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
The Color of The Fruit Is Red of Blood
羽上帆樽
ライト文芸
仕事の依頼を受けて、山の頂きに建つ美術館にやって来た二人。美術品の説明を翻訳する作業をする内に、彼らはある一枚の絵画を見つける。そこに描かれていた奇妙な果物と、少女が見つけたもう一つのそれ。絵画の作者は何を伝えたかったのか、彼らはそれぞれ考察を述べることになるが……。
契りの桜~君が目覚めた約束の春
臣桜
ライト文芸
「泥に咲く花」を書き直した、「輪廻の果てに咲く桜」など一連のお話がとても思い入れのあるものなので、さらに書き直したものです(笑)。
現代を生きる吸血鬼・時人と、彼と恋に落ち普通の人ならざる運命に落ちていった人間の女性・葵の恋愛物語です。今回は葵が死なないパターンのお話です。けれど二人の間には山あり谷あり……。一筋縄ではいかない運命ですが、必ずハッピーエンドになるのでご興味がありましたら最後までお付き合い頂けたらと思います。
※小説家になろう様でも連載しております
男爵令嬢に転生したら実は悪役令嬢でした! 伯爵家の養女になったヒロインよりも悲惨な目にあっているのに断罪なんてお断りです
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
「お前との婚約を破棄する」
クラウディアはイケメンの男から婚約破棄されてしまった……
クラウディアはその瞬間ハッとして目を覚ました。
ええええ! 何なのこの夢は? 正夢?
でも、クラウディアは属国のしがない男爵令嬢なのよ。婚約破棄ってそれ以前にあんな凛々しいイケメンが婚約者なわけないじゃない! それ以前に、クラウディアは継母とその妹によって男爵家の中では虐められていて、メイドのような雑用をさせられていたのだ。こんな婚約者がいるわけない。 しかし、そのクラウディアの前に宗主国の帝国から貴族の子弟が通う学園に通うようにと指示が来てクラウディアの運命は大きく変わっていくのだ。果たして白馬の皇子様との断罪を阻止できるのか?
ぜひともお楽しみ下さい。
君と交わした約束を僕は忘れない
日野 祐希
ライト文芸
書籍部(しょじゃくぶ)部長の栃折奈津美先輩は、学校随一の変人だ。見た目は清楚な美人なのに、中身はとんだトラブルメーカー。おかげで同じ書籍部に所属している僕も、生徒会から目を付けられる始末だ。本当に勘弁してほしい……。
けど、そんな奈津美先輩には、もう一つの顔がある。そう、製本家を目指す職人見習いとしての顔が――。
子供の頃、奈津美先輩がこの町を離れる前に交わした、一つの大切な約束。
僕はそれを一生忘れない。
この約束を果たすために、僕らは各々の夢に向かって突き進む。
でも、僕らの約束がもたらすものは絆だけではなくて……。
これは、司書を目指す僕と製本家を志す奈津美先輩の、ささやかな約束をめぐる物語。
観察者たち
崎田毅駿
ライト文芸
夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?
――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。
タイムパラライドッグスエッジ~きみを死なせない6秒間~
藤原いつか
ライト文芸
岸田篤人(きしだあつと)は2年前の出来事をきっかけに、6秒間だけ時間を止める力を持っていた。
使い道のないその力を持て余したまま入学した高校で、未来を視る力を持つ藤島逸可(ふじしまいつか)、過去を視る力を持つ入沢砂月(いりさわさつき)と出会う。
過去の真実を知りたいと願っていた篤人はふたりに近づいていく中で、自分達3人に未来が無いことを知る。
そしてそれぞれの力が互いに干渉し合ったとき、思いもよらないことが起こった。
そんな中、砂月が連続殺人事件に巻き込まれ――
* * *
6秒間だけ過去や未来にタイムリープすることが可能になった篤人が、過去へ、未来へ跳ぶ。
今度こそ大事な人を失わない為に。
ちょっと待ってよ、シンデレラ
daisysacky
ライト文芸
かの有名なシンデレラストーリー。実際は…どうだったのか?
時を越えて、現れた謎の女性…
果たして何者か?
ドタバタのロマンチックコメディです。
とらんす☆みっしょん
矢的春泥
ライト文芸
ミッション系高校に通う少女と魂を入れ替えられてしまった少年。
慣れない女の子の身体で、慣れないキリスト教の生活を送るハメに。
男と女、神道とキリスト教。
本来交わるはずのなかった二つの運命。
それぞれの歯車が噛み合うことで、新たな物語が動き出す。
学園青春TSF(transsexual fiction)
聖書の引用には、以下の聖書を使用しています。
日本聖書協会『口語訳新約聖書(1954年版)』『口語訳旧約聖書(1955年版)』 bible.salterrae.net
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる