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140『お寺のテレワーク』

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せやさかい

140『お寺のテレワーク』         

 

 
 境内を掃除してると山門の前に宅配の車が停まった。

 
 箒を階(きざはし、本堂の階段)に立てかけて受け取りに行く。

 ここに置いておきますというジェスチャーをして、宅配さんは、さっさと車を出して行ってしまう。

 コ□ナの非常事態になってからは、宅配も置き配が基本になったんや。

 重たかったら嫌やなあと思て持ち上げると、箱の割には軽い。

「テイ兄ちゃん、宅配来てるよー!」

 玄関で叫ぶと、リビングでゲームしてたテイ兄ちゃんが小走りでやってくる。坊主頭いう以外は腰パンのジャージという姿は、立派なニート。

「ああ、やっと来たか!」

 嬉しそうな顔するから、荷物は売り出されたばっかりのファイナルファンタジー・7・リメイク特装版かと疑う。

「それでは、取り掛かるか!」

 え? 

 テイ兄ちゃんは、ゲームをポーズにして、箱ごと抱えて本堂に行きよった。

 あ、掃除!

 
 やりかけの掃除を思い出す。

 
 桜の花びらが散るのも終わって、ガクて言うんやろか、花の軸やったとこがボトボト落ちてて、ちょっと汚い。去年までは、こんな百坪以上もあるような境内を掃除することなんてなかったから、ちょっと新鮮。

 ごめーーーん(^_^;)

 詩(ことは)ちゃんが箒を持って走って来る。

「あ、いいのに」

「ううん、境内は二人の担当だもん」

 詩ちゃんの学校も休校中やけど、四月からは正式な吹部の部長なんで、学校が再開された時のために、レパートリーの勉強に余念がない。簡単そうなことやけど、先を読んで準備をするというのは、なかなか出来ることやない。

「あー、ほとんど終わってるんだ。じゃ、ゴミ袋……」

「あ、階のとこ」

「とってくるね……あれ、お兄ちゃん、なにやってるんだ?」

 詩ちゃんも、テイ兄ちゃんを見咎めた。

「あれ、ワイファイとかのセットやね?」

「本堂でもワイファイ?」

 手馴れた手つきでセットし終えると、ノーパソを立ち上げて調整し始めた。時々立っては、本堂のあちこちに、いつの間に仕込んだのか、カメラをいじって、パソコンの映り具合を見比べてる。

「お兄ちゃん、なにやってるの?」

「ああ、じぶんら、おったんか」

「境内の掃除してたのよ、わたしは、今からだけど」

「ちょうどええわ、じぶんらも見てくれるか」

「「なにを?」」

 
 テイ兄ちゃんは、阿弥陀さんの前でお経をあげてる姿を四つのカメラで映せるようにしてた。

 
「いや、五つや」

 どこにカメラを仕掛けたのか、真正面からも映せるようにしてる。

「あ、須弥壇にカメラ!」

 なんと、須弥壇の下に目立たんようにマイクロカメラがあった。あっちゃこっちゃから写るようにして、テイ兄ちゃんはナルシストか?

「最近は檀家周りも行きにくいやろ」

「え?」

「自粛要請の中にお寺は入ってないけど、檀家さんはお年寄りも多いしなあ。それで、希望しはる檀家さんにはネットでお参りしてもろたり、月参りさせてもろたりしよか思てなあ」

「あ、それはアイデアやねえ!」

「まあ、一種のテレワークやな」

「御布施はどうするの?」

 さすがはお寺の娘、詩ちゃんは注目するとこがちゃう。

「それは、ほら、動画ブログとかで投げ銭やるシステムがあるやろ。ワンクリックで済むやつ」

「ああ……」

 うちは『テイ兄ちゃん、賢い!』と思たけど、詩ちゃんは、ちょっと微妙な表情。

「心配すんな、希望しはるとこだけや。まあ、比較的お若い檀家さんから始めてみよかと思う」

「まあ、確かにウィルス騒ぎが終わったら世の中変わるっていうもんね」

「ねえ、お兄ちゃん。テレワーク機能の開眼法要やろうよ!」

「開眼法要?」

「ほら、本堂の修理やった時とか、ご本尊のお洗濯終わった時とかやったじゃない」

「あ、せやな。なにごともお目出度くやらなら、あかんなあ。詩、そのアイデアいただき!」

 
 その夜は、テレワークの開眼法要ということで身内だけの宴会になってしまいました(^▽^)/

 
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