上 下
134 / 432

134『ごりょうさん奇談・2』

しおりを挟む

せやさかい

134『ごりょうさん奇談・2』         


※ 堺では仁徳天皇陵のことを「ごりょうさん」とよびます。

 

 
 え………………………………………………………?

 
 丸保山古墳の傍まで来ると、にわかに霧が立ち込めてきて数メートル先も見えへんようになってきた。

 朝と言うても、もう九時は回ってる。こんな時間に霧がかかったりするんやろか……?

 不思議に思いながらも、危ないので自転車を下りて押して歩く。

 自転車を押す手にパシパシと地面からの手応え……あれ、アスファルトと違う。

 いつの間にか土の道になって、タイヤが砂を噛む音がしてる。意識すると靴の底の感触も違う。

 土の地面て、学校のグラウンドか公園の中くらいしかあれへん。

 ボサーっとしてて、どこか人さんの敷地にでも迷い込んでしもたんやろか?

 
 立ち止まって、周囲を見渡すと、ちょっとずつ霧が晴れてくる。

 え?


 丸保山古墳のシルエットが見えてきて、その次にごりょうさんの山みたいな姿もおぼろに浮かんでくる。

 で、二つの古墳以外のものが何も見えへん。

 というか、なんにも無い。

 足元は、自分が居てるとこが教室くらいの範囲で見えるだけで、地面に残ってる霧に隠れて、その先は窺い知れへん。

 さくら……さくら……

 霧の中から『さくら』と呼ぶ声がする。

 この霧の中、花見に来て、お目当ての桜が見えへんのでボヤいてる……のんか。ひょっとして、あたしの名前?

 ちょっと怖い。

『さくら……お前のことだよ、さくら』

 はっきり聞こえたかと思うと、お堀に面したとこの霧がサーーっと晴れて、馬を曳いた男の人が現れた。

「あ、え、わたしのことですか?」

「そう、さくらのことだよ」

 その人は『まんが日本の歴史』の第二巻くらいに出てきそうな風体をしてる。髪を角髪(みずら)に結って、生成りのツーピースみたいなんを着てる。

 上着はダボッとしてて、腰のとこで帯みたいなんで締めてる。ズボンはダボッとしてて、膝のとこでくくって、毛皮のブーツみたいなんを履いてる。

 髭を生やして、真っ直ぐな刀を下げてて、ほんまに『まんが日本の歴史』のコスプレや。

「すまん、ここまで来て馬が動かなくなってしまった。道を急いでいるのだが、これでは間に合わない。少しの間でいい、さくらの馬を貸してくれないか」

「馬?」

「さくらが曳いている、それだよ」

 え、自転車のこと?

「そうだ、すまんな」

 そう言うと、その人は、あたしの自転車に跨って霧の向こうに走り去ってしもた。

 
「ええと……」

 
 呆然としてると、馬が顔を寄せてくる。

「あたし、馬になんか乗られへんよ……」

 そう言うと、馬は器用に姿勢を低くして『早く乗りな』という顔をする。

「だ、だいじょうぶ?」

 おっかなびっくりで跨ると、馬はゆっくり歩きだした。

「え、あの人のこと待たんでもええのん?」

 馬は応えずに、ポックリポックリと霧の中を歩いて行く。

 
 しばらく行くと、ようやく霧は晴れ渡って、うちの山門の前に着いた。

 
 よっこらしょ……。

 おばちゃんに、どない言お……霧の中で、古代のコスプレおじさんに自転車貸してやったら、こないなってしもた。

 ぜったい信じてもらわれへん。

 え?

 なんと、馬が腰の高さほどの馬の埴輪に変わってしもた!

 怖くなって山門の中に駆けこんで、ちょうど本堂から出てきたテイ兄ちゃんと出くわす。

「どないしたんや、目が泳いでるで」

「え、いや、せやさかいに、せやさかいにね」

 アタフタと説明すると、テイ兄ちゃんは山門の外を指さした。

「自転車やったら、山門の前に停めたあるやんか」

「え、ええ!?」

 今の今まで馬の埴輪があったとこに自転車が停まってる。

 
 キツネにつままれたような気持ちで自転車を片付けると、スマホがメールの着信音。

 
「え、うそ!?」

 なんと、頼子さんから。

 
―― いま、関空に到着。これから二週間の隔離生活に入ります ――

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

揺れる波紋

しらかわからし
ライト文芸
この小説は、高坂翔太が主人公で彼はバブル崩壊直後の1991年にレストランを開業し、20年の努力の末、ついに成功を手に入れます。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故によって、経済環境が一変し、レストランの業績が悪化。2014年、創業から23年の55歳で法人解散を決断します。 店内がかつての賑わいを失い、従業員を一人ずつ減らす中、翔太は自身の夢と情熱が色褪せていくのを感じます。経営者としての苦悩が続き、最終的には建物と土地を手放す決断を下すまで追い込まれます。 さらに、同居の妻の母親の認知症での介護が重なり、心身共に限界に達した時、近所の若い弁護士夫婦との出会いが、レストランの終焉を迎えるきっかけとなります。翔太は自分の決断が正しかったのか悩みながらも、恩人であるホテルの社長の言葉に救われ、心の重荷が少しずつ軽くなります。 本作は、主人公の長年の夢と努力が崩壊する中でも、新たな道を模索し、問題山積な中を少しずつ幸福への道を歩んでいきたいという願望を元にほぼ自分史の物語です。

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

琥太郎と欧之丞・一年早く生まれたからお兄ちゃんとか照れるやん

真風月花
ライト文芸
少年二人の懐かしく優しい夏の日々。ヤクザの組長の息子、琥太郎は行き倒れの欧之丞を拾った。「なんで、ぼくの後追いするん?」琥太郎は、懐いてくる欧之丞に戸惑いながらも仲良くなる。だが、欧之丞は母親から虐待されていた。「こんな可愛い欧之丞をいじめるとか、どういうことやねん」琥太郎は欧之丞を大事にしようと決意した。明治・大正を舞台にした少年二人の友情物語。※時系列としては『女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています』→本作→『没落令嬢は今宵も甘く調教される』の順になります。『女學生…』の組長とヒロインの結婚後と、『没落令嬢…』の恋人との出会いに至るまでの内容です。

同人サークル「ドリームスピカ」にようこそ!

今野ひなた
ライト文芸
元シナリオライターのニートが、夢を奪われた少年にもう一度元気を出してもらうために同人ゲームを作る話。

あかりの燈るハロー【完結】

虹乃ノラン
ライト文芸
 ――その観覧車が彩りゆたかにライトアップされるころ、あたしの心は眠ったまま。迷って迷って……、そしてあたしは茜色の空をみつけた。  六年生になる茜(あかね)は、五歳で母を亡くし吃音となった。思い出の早口言葉を歌い今日もひとり図書室へ向かう。特別な目で見られ、友達なんていない――吃音を母への愛の証と捉える茜は治療にも前向きになれないでいた。  ある日『ハローワールド』という件名のメールがパソコンに届く。差出人は朱里(あかり)。件名は謎のままだが二人はすぐに仲良くなった。話すことへの抵抗、思いを伝える怖さ――友だちとの付き合い方に悩みながらも、「もし、あたしが朱里だったら……」と少しずつ自分を見つめなおし、悩みながらも朱里に対する信頼を深めていく。 『ハローワールド』の謎、朱里にたずねるハローワールドはいつだって同じ。『そこはここよりもずっと離れた場所で、ものすごく近くにある場所。行きたくても行けない場所で、いつの間にかたどり着いてる場所』  そんななか、茜は父の部屋で一冊の絵本を見つける……。  誰の心にも燈る光と影――今日も頑張っているあなたへ贈る、心温まるやさしいストーリー。 ―――――《目次》―――――― ◆第一部  一章  バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。  二章  ハローワールドの住人  三章  吃音という証明 ◆第二部  四章  最高の友だち  五章  うるさい! うるさい! うるさい!  六章  レインボー薬局 ◆第三部  七章  はーい! せんせー。  八章  イフ・アカリ  九章  ハウマッチ 木、木、木……。 ◆第四部  十章  未来永劫チクワ  十一章 あたしがやりました。  十二章 お父さんの恋人 ◆第五部  十三章 アカネ・ゴー・ラウンド  十四章 # to the world... ◆エピローグ  epilogue...  ♭ ◆献辞 《第7回ライト文芸大賞奨励賞》

男爵令嬢に転生したら実は悪役令嬢でした! 伯爵家の養女になったヒロインよりも悲惨な目にあっているのに断罪なんてお断りです

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
「お前との婚約を破棄する」 クラウディアはイケメンの男から婚約破棄されてしまった…… クラウディアはその瞬間ハッとして目を覚ました。 ええええ! 何なのこの夢は? 正夢? でも、クラウディアは属国のしがない男爵令嬢なのよ。婚約破棄ってそれ以前にあんな凛々しいイケメンが婚約者なわけないじゃない! それ以前に、クラウディアは継母とその妹によって男爵家の中では虐められていて、メイドのような雑用をさせられていたのだ。こんな婚約者がいるわけない。 しかし、そのクラウディアの前に宗主国の帝国から貴族の子弟が通う学園に通うようにと指示が来てクラウディアの運命は大きく変わっていくのだ。果たして白馬の皇子様との断罪を阻止できるのか? ぜひともお楽しみ下さい。

隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』  孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。  しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。  ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、 「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。  この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。  他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。  だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。  更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。  親友以上恋人未満。  これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。

処理中です...