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115『学校見学』

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せやさかい

115『学校見学』 

 


 とっくにオープンキャンパスは終わってたけど、見学は快く承諾された。

 
 少子化のこの時代、ちょっとでもええ生徒を確保したいということやと思う。

 そんで頼子さんだけと違て、あたしと留美ちゃんも付いて行ってええということになった!

 えと、真理愛女学院(マリアじょがくいん)の見学。

 

 頼子さんは通学ルートも見ておきたいので電車で行くつもりやったけど、詩(ことは)ちゃんに聞いたら分かることなんで、例によってテイ兄ちゃんの車で向かう。

 テイ兄ちゃんは午後から檀家周りがあるんで坊主のコス。

「テイ兄さんお願いします」

 頼子さんが手渡したんは、頼子さんの親の委任状。

 つまり、見学に関しては保護者と同じ資格ということや。テイ兄ちゃんが喜ばんはずがない!

 坊主のコスでミッションスクールってどうよ? とも思うねんけどね。

 

 校門の前でテイ兄ちゃんは合掌、うちらも行儀よく頭を下げる。

「よくいらっしゃいました」

 グレーのシスター服のおばさん……いや、校長先生(詩ちゃんに教えてもろてた)がお出迎え!

「他の先生方は授業中なもので、わたくしがご案内させていただきます」

 他に、副校長とか教頭先生とか居てるやろに……頼子さんがヤマセンブルグの王女様(正式やないけど)やいう情報が伝わってのことやと思う。

 テイ兄ちゃんは、保護者の代理ということを委任状を渡しながら説明し、もう一度ピロティー脇にあるマリア像に合掌。あたしらも頭を下げる。

 応接室に通されて、学校の概要と入試のあれこれについて説明を受ける。

 頼子さんは、パンフレット半分、校長先生の顔半分いう感じで、時折美しく微笑んで頷いてる。さすがは王女様の気品。でもって、二度ほど軽く質問。いくら上品でもコミニケーションは双方向でないと礼を失するいう、行き届いた気配りやねんわ!

 そやけど、後半になってオーラを感じたんは留美ちゃんや!

 コクコク頷いてはメモをとったり、パンフにアンダーラインを引いたり、頼子さんよりも入る気満々いう感じ。

 校長先生がモニターに学校案内を流して、校歌が流れるとこになったら涙まで流してる。

「榊原さんね、しっかり聞いてくださってありがとう」

 校長先生は、付き添いの名前まで憶えてくれてはったよ!

「正直に申しますが、学年途中でエディンバラの高校に編入する可能性があります……」

 いちばん大事なことを頼子さんは包み隠さへんかった。

「はい、それは、その時にお考えになったらよいことだと思います」

 間接的表現やけど、学校としては気にしませんという意思表示やと思う。これからは自分の事も自分の意思だけでは決められんようになる頼子さんには嬉しいことやと思う。

「ありがとうございます(#^―^#)」

 お礼を言う頼子さんの言葉にも歳相応の嬉しさが滲んでた。

 
 キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

 
 ちょうど終業のチャイム。うちの中学と違てチャラ~ンポラ~ン チャラ~ンポラ~ンとは聞こえへん。

「では、校内案内を……」

 校長先生が言いだすと同時に、ドアがノックされた。

「どうぞ」

 校長先生の言葉に「失礼します」と入って来たのは……なんと詩ちゃん!

「二年A組の酒井詩です、見学の方のご案内を申し付かってまいりました」

「ピッタリね、じゃ、ここからは酒井さん。よろしくね」

「はい、では、みなさん、こちらにお進みください」

 家でもしっかりした詩ちゃんやけど、なんかもうすっかり総理大臣の秘書でも務まるんちゃうかいう大人びた感じ!

 
 次の時間は『校内奉仕』とかいう時間で、ようは大掃除。

 
 頼子さんが注目されてるのがよう分かる。

 なんせ、ブロンドのセーラー服。先月は来日したヤマセンブルグ女王陛下に付き添ってマスコミへの露出も多かった。高校生とは言え、そのへんの事情を知ってる人も居てる。

 せやけど露骨にジロジロ見たりはせえへん。キャーキャー言うこともない。

 視界に入る生徒さんたちは、みんな、それぞれに校内奉仕のお掃除に勤しんでる。一人だけ、窓ふきの雑巾を落とした子がおったけど。

 高校生になったら落ち着くんか、学校の躾が行き届いてるんやろか……たぶん、その両方。

 で、あきらかにうちらは刺し身のツマというか空気ですわ、空気。

 廊下ですれ違た女生徒。

 きちんと会釈するんはさすがやけどね……そのまま、頼子さんに目を奪われてしまいよった。

 ごつん! 

 後ろ歩いてたあたしにぶつかって、もろ大阪弁で「アイタア!!」とカマシテくれはりました。

 でや、空気でもぶつかったら痛いねんぞ。
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