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031『今日から期末テスト』

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せやさかい

031『今日から期末テスト』 




 こういうことだけダンドリがええ。


 登校すると、田中さんの机が無くなってた。

 あたしみたいに気にしてるもんにしか分からへん巧妙なやり方で。


 というのは、今日から期末テストで、座席は出席番号順。


 初めての期末テストいうこともあって、みんな、そっちのほうに頭がいってる。
 
 メモ用紙に単語やら用語を繰り返し書いてるもん、単語帳をめくりながらブツブツ言うてるもん、蛍光ペンでノートや教科書に線ひいてるもん、アッと声をあげて勉強できる子ぉになにやら確認してるもん、もうあきらめて机に突っ伏してるもん。


 やってることは様々やけど、テストモードに入ってて、転校した田中さんのことなんか無かったことのよう。


 ひょっとしたら、田中真子なんて子は始めから存在せえへんパラレルワールドに来たみたいや。

 しかし、パラレルワールドではない。教室の後ろに貼ってある座席表には田中さんの名前が残ったままや。やっぱり、菅ちゃんのやることは、どこか抜けてる。


 答案用紙に答えを書きながらも考えてしまう。


 もし、外階段から飛び降りようとした田中さんを助けてなかったら、助けたんは頼子さんやけど、あたしも留美ちゃんも心臓がねじ切れるんちゃうかいうくらい驚いた、ショックやった。

 でも、あれで吹っ切れたんか、田中さんは平気な顔して、あたしに水泳を教えてくれた。菅ちゃんは露骨に安心した顔になってたしぃ。

 イジメられてる中学生なんて、学校に十人はおるやろ。大阪の中学校は500ぐらいやと聞いた。掛けたら5000人。

 その中の、ほんの二三人が自殺する。二三人いうのは、ニュースとかで生徒が自殺して取り上げられるのが、大阪では二三人いう印象やから。田中さんは、この二三人に入るはずやと思う。

 学校は、田中さんが死のうとしたん知らんさかい、こんなフェードアウトみたいにしたんや。


 あ、あかん。答案用紙の半分も埋まってない!


 慌てて答えを書いて、最後の一マスを埋めたとこでチャイムが鳴った。見直すヒマもあらへんかった。


 テスト中に部活はあれへん。そやけど――三時くらいまでは居るから――という頼子さんの言葉を思い出して部室に向かう。


「あら、ちょうどお茶淹れるとこよ」

「ラッキー! 頼子さん、大好きいいい!」

「フフ、その明るさは凹んでるパターンね」

「え? ええ!?」

 正直、あたしはジャンプまでして喜んだんやけど、なんで分かる?

「伊達に三年生やってません」

「なるへそ」


 なるへそと言いながら分かってません。ただ、今は頼子さんの自然な明るさに甘えてみたかっただけです。


「ねえ、夏休み、合宿しない?」

「合宿!? いいですねえ! やりましょやりましょ!」

 沸騰するヤカンの勢いで返事をする。

「で、どこで合宿するんですか?」

「留美ちゃんにも聞いてからだけど、京都の姉妹都市よ」

 京都の姉妹都市? 奈良かなあ?

「いいですねえ!」

「じゃ、決まりね! この夏はエディンバラだ!」


 え、エディンバラ……!?


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