15 / 432
015『中央図書館に行ってきた』
しおりを挟む
せやさかい・015
『中央図書館に行ってきた』
電動自転車ある?
部活の終わりで頼子さんが聞く。
「え、電動ですか……はい、あります」
そう答える留美ちゃんの返事で本堂の脇にある自転車を思い浮かべた。
引っ越しに際して持ってきたのは普通のママチャリ。お寺の自転車が三台あったと思うねんけど、電動があったかどうかは定かではない。
「えと、電動自転車をどうするんですか?」
「うん、明日から家庭訪問期間で半日授業になるでしょ。放課後半日空いてるから中央図書館に行こうかと思ってるんだ」
「中央図書館?」
「うん、ラッキーなことに、一番近いのが中央図書館なのよ。ほら、ここ」
壁に掛かったポスターを示す頼子さん。なるほど、仁徳天皇陵の南西角のところに中央図書館が記されている。
「堺には十三の図書館があるんだけど、うちの学校は中央が一番近いの。中央っていうくらいだから、堺じゃ一番蔵書が多いのよ。ま、文芸部の校外学習ってことで行ってみようかと思うの」
地図を見るのは苦手やけど、目印が仁徳天皇陵。家からはほんの一キロちょっと。自転車で行ったらあっと言う間。
「なんで電動自転車なんですか?」
「うん、三十号線超えると、ずっと坂道だからさ」
「え、ああ……」
家から東の景色を思い浮かべる。仁徳天皇陵のすぐ脇……楽勝! 運動神経はイマイチやけど、体力には自信がある。
「だいじょうぶ、変速機付きの自転車やし、余裕で行けます!」
力こぶのガッツポーズで応えると「そっか、じゃ、明日の放課後、いったん帰宅したあと集合ね!」と話しが決まる。
家に帰って本堂脇の自転車をチェック。伯母さんのと思しき自転車が電動だったけど、ま、自分の自転車で十分と判断する。
「さくら、うちに居なくてええのん?」
家庭訪問のために午後からの半休を取るお母さんが言う。
「なんで?」
「だって、家庭訪問でしょ?」
「親だけでええみたい。それに、菅井先生(さすがに親には菅ちゃんとは言わへん)一回来てはるし」
「あ、そやった……フフフ」
納得しながら吹きだすお母さん。菅ちゃんは入学早々わたしに不適切な対応(わたし本人は気にしてないねんけど)したことで学年主任の春日先生と家庭訪問に来てる。
お母さんも、どこか抜けたトコのある人やけども、会社じゃキャリアのバリバリなそうな。バリバリでもパリパリでもええねんけど、仕事の鬼いうようなとこがあって、めったに仕事は休まへん。そやけど、わたしの学校に関わることはできるだけ休み取ってでも対応してくれる。ま、本人も半分以上は息抜きや思てるから、ええんです。
三十号線に面したコンビニの前で待ち合わせ。
途中で米屋のお婆ちゃんに出会う。
「さくらちゃん、お出かけかあ?」
「うん、図書館行くんで先輩らとコンビニ前で待ち合わせ」
「ああ、十三号線のとこのやなあ」
「あ、三十号線」
「せや、十三号線やなあ」
ボケてはるんやろか。訂正しまくっても年寄り傷つけるだけやから、ええかげんな微笑み浮かべて「ほんならあ」と、別れる。
ほとんど同時にコンビニ前に姿を現した留美ちゃんと頼子さん。なんでか、背中に空と思われるでっかいリュック。
コンビニで水分補給用のペットボトルを買って出発。
十分ちょっとで図書館に着いた。
着いたんやけど、坂道をナメテたあああ。
三十号線を超えたとたんに坂道。見た目にはほんのちょっとの勾配やねんけど。これが、けっこうきつい。特に、もうちょっとで図書館やいうとこで勾配がハンパやなくなってきて、着いた時には、わたし一人がヘゲヘゲで図書館前の自販機で、もう一本ペットボトルを買うハメになってしもた。
「だいじょうぶ?」
「アハハ、だいじょぶだいじょぶ……」
館内に入ったら冷房……効いてないんで(なんせ、まだ五月になって間がない)涼んでから館内を探検。
頼子さんの勢いが伝染して三冊も本を借りる。ちなみに頼子さんも留美ちゃんも六冊ずつ。リュックを背たろうてきた意味が分かった。
家に帰って、暇してるお祖父ちゃんに捕まる。一日のあれこれを釣鐘饅頭食べながら話す。ま、居候の身、祖父さん孝行です。
で、話してると、待ち合わせしたコンビニの前の道で、また混乱。わたしが三十号線や言うのにお祖父ちゃんは十三号線。この界隈はボケ老人菌が蔓延してるんかいな!?
なんでか、地元では三十号線のことを十三号線と呼ぶそうな。
お祖父ちゃんは、分かりやすうに説明してくれたけど、半分寝てたんで、よう覚えてません。
『中央図書館に行ってきた』
電動自転車ある?
部活の終わりで頼子さんが聞く。
「え、電動ですか……はい、あります」
そう答える留美ちゃんの返事で本堂の脇にある自転車を思い浮かべた。
引っ越しに際して持ってきたのは普通のママチャリ。お寺の自転車が三台あったと思うねんけど、電動があったかどうかは定かではない。
「えと、電動自転車をどうするんですか?」
「うん、明日から家庭訪問期間で半日授業になるでしょ。放課後半日空いてるから中央図書館に行こうかと思ってるんだ」
「中央図書館?」
「うん、ラッキーなことに、一番近いのが中央図書館なのよ。ほら、ここ」
壁に掛かったポスターを示す頼子さん。なるほど、仁徳天皇陵の南西角のところに中央図書館が記されている。
「堺には十三の図書館があるんだけど、うちの学校は中央が一番近いの。中央っていうくらいだから、堺じゃ一番蔵書が多いのよ。ま、文芸部の校外学習ってことで行ってみようかと思うの」
地図を見るのは苦手やけど、目印が仁徳天皇陵。家からはほんの一キロちょっと。自転車で行ったらあっと言う間。
「なんで電動自転車なんですか?」
「うん、三十号線超えると、ずっと坂道だからさ」
「え、ああ……」
家から東の景色を思い浮かべる。仁徳天皇陵のすぐ脇……楽勝! 運動神経はイマイチやけど、体力には自信がある。
「だいじょうぶ、変速機付きの自転車やし、余裕で行けます!」
力こぶのガッツポーズで応えると「そっか、じゃ、明日の放課後、いったん帰宅したあと集合ね!」と話しが決まる。
家に帰って本堂脇の自転車をチェック。伯母さんのと思しき自転車が電動だったけど、ま、自分の自転車で十分と判断する。
「さくら、うちに居なくてええのん?」
家庭訪問のために午後からの半休を取るお母さんが言う。
「なんで?」
「だって、家庭訪問でしょ?」
「親だけでええみたい。それに、菅井先生(さすがに親には菅ちゃんとは言わへん)一回来てはるし」
「あ、そやった……フフフ」
納得しながら吹きだすお母さん。菅ちゃんは入学早々わたしに不適切な対応(わたし本人は気にしてないねんけど)したことで学年主任の春日先生と家庭訪問に来てる。
お母さんも、どこか抜けたトコのある人やけども、会社じゃキャリアのバリバリなそうな。バリバリでもパリパリでもええねんけど、仕事の鬼いうようなとこがあって、めったに仕事は休まへん。そやけど、わたしの学校に関わることはできるだけ休み取ってでも対応してくれる。ま、本人も半分以上は息抜きや思てるから、ええんです。
三十号線に面したコンビニの前で待ち合わせ。
途中で米屋のお婆ちゃんに出会う。
「さくらちゃん、お出かけかあ?」
「うん、図書館行くんで先輩らとコンビニ前で待ち合わせ」
「ああ、十三号線のとこのやなあ」
「あ、三十号線」
「せや、十三号線やなあ」
ボケてはるんやろか。訂正しまくっても年寄り傷つけるだけやから、ええかげんな微笑み浮かべて「ほんならあ」と、別れる。
ほとんど同時にコンビニ前に姿を現した留美ちゃんと頼子さん。なんでか、背中に空と思われるでっかいリュック。
コンビニで水分補給用のペットボトルを買って出発。
十分ちょっとで図書館に着いた。
着いたんやけど、坂道をナメテたあああ。
三十号線を超えたとたんに坂道。見た目にはほんのちょっとの勾配やねんけど。これが、けっこうきつい。特に、もうちょっとで図書館やいうとこで勾配がハンパやなくなってきて、着いた時には、わたし一人がヘゲヘゲで図書館前の自販機で、もう一本ペットボトルを買うハメになってしもた。
「だいじょうぶ?」
「アハハ、だいじょぶだいじょぶ……」
館内に入ったら冷房……効いてないんで(なんせ、まだ五月になって間がない)涼んでから館内を探検。
頼子さんの勢いが伝染して三冊も本を借りる。ちなみに頼子さんも留美ちゃんも六冊ずつ。リュックを背たろうてきた意味が分かった。
家に帰って、暇してるお祖父ちゃんに捕まる。一日のあれこれを釣鐘饅頭食べながら話す。ま、居候の身、祖父さん孝行です。
で、話してると、待ち合わせしたコンビニの前の道で、また混乱。わたしが三十号線や言うのにお祖父ちゃんは十三号線。この界隈はボケ老人菌が蔓延してるんかいな!?
なんでか、地元では三十号線のことを十三号線と呼ぶそうな。
お祖父ちゃんは、分かりやすうに説明してくれたけど、半分寝てたんで、よう覚えてません。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
チェスがしたいだけなのに!
奏穏朔良
ライト文芸
「……なんでこうなった??」
チェスがしたかっただけなのに、いつの間にか反社会勢力のボスに祀りあげられ、暴力団やテロ組織と対決することになる男子高校生の話。
戦犯は上手く動かない表情筋と口である。
****
2023/07/17本編完結しました。
ちまちま番外編あげる予定です。
【注意】勘違いの関係で視点がよく変わります。
見直していますが誤字脱字やりがちです。
ライト文芸大賞にて最高順位が32位でした。投票して下さった読者の皆様本当にありがとうございます!(2023/06/01)
三年で人ができること
桃青
ライト文芸
もし三年後に死ぬとしたら。占いで自分にもう三年しか生きられないと告げられた男は、死を感じながら、平凡な日常を行き尽くそうとする。壮大でもなく、特別でもなく、ささやかに生きることを、残された時間で模索する、ささやかな話です。
僕とピアノ姫のソナタ
麻倉とわ
ライト文芸
音大でヴァイオリンを専攻しながらも、日々音楽よりも女遊びにいそしむ椎名哲朗。
彼はある合コンで目を奪われるような美人と出会うが、彼女は場の空気をまったく読めず、周囲から浮きまくっていた。実は同じ大学で『ピアノ姫』と呼ばれている音楽バカの天才ピアニスト、真山調だったのだ。
ひょんなことから哲朗は調とホテルに行くことになり、流されて一夜を共にしてしまうが――。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
ニート生活5年、俺の人生、あと半年。
桜庭 葉菜
ライト文芸
27歳、男、大卒、なのに無職、そして独身、挙句に童貞。
家賃4万、1Rのボロアパート。
コンビニでバイトか家で過ごすだけの毎日。
「俺の人生、どこで狂ったんだろう……」
そんな俺がある日医者に告げられた。
「余命半年」
だから俺は決めたんだ。
「どうせ死ぬなら好き勝手生きてみよう」
その決断が俺の残り少ない人生を大きく変えた。
死を代償に得た、たった半年の本当の人生。
「生きるのってこんなに楽しくて、案外簡単だったんだな……」
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ホンモノの自分へ
真冬
ライト文芸
小学生の頃から酷いいじめを受け続けてきた天野樹。
そして、小学生の頃に唯一の味方で親友の死、その後悪化するいじめ。心の扉を固く閉ざした樹は人との関わりを拒絶し続けて生きていくと決めたが、高校2年になり出会った人たちは樹をそうさせててはくれなかった。
彼らと出会って少しずつ樹の心境も変わっていく。
そんな、樹たちの日常と成長を描いた青春ストーリー
時の舟と風の手跡
ビター
ライト文芸
葛城風は、ブラック企業で心身ともに壊し退職するが、フィアンセとの同棲もうまくいかず婚約を解消する。
住む場を失った風に、祖父が同居を提案する。
かくて100歳の祖父と二人暮らしが始まった。
一見穏やかに見えるが、そうでもない日々。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる