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014『連休の最後は如来寄席』

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せやさかい・014

『連休の最後は如来寄席』 

 

 連休最後の日は朝から本堂の掃除。

 お寺の本堂というのは二つに分かれてる。

 内陣と外陣。

 内陣いうのは阿弥陀さんとかの仏さんが居てはるとこで、特大の仏壇みたいになってるとこ。

 外陣いうのは内陣より一段低いとこで、三十六畳の畳敷き。住職はじめ人間が阿弥陀さんを拝むのは、この外陣から。

 内陣は大事なとこなんで、テイ兄ちゃんが作務衣姿でやってる。あたしはコトハちゃんといっしょに外陣の掃除。

 掃除機二台で六畳に換算したら六部屋分をかける。これはチョロいねんけど、そのあとで雑巾がけ。

 カタ絞りにした雑巾でせっせと拭く。

「二つ折りにして畳二枚を拭く。そして、汚れたところを内にしてもう二枚。つぎにそれを二つに折って残り二枚を拭く。拭き終ったら流しで洗って、次の六枚。つごう三回やったらOKね」

「ラジャー!」

 コトハちゃんにレクチャーしてもろてとりかかる。

 結局は、コトハちゃんの方が早くできて、わたしがやったのは六畳二つ分。なんや、申し訳ない。

「いつもは雑巾がけまではやらないんだけどね、今日は落語会だから」

 そう言いながら手際よく座布団を並べる。

「さくらは、椅子並べてくれる」

 コトハちゃんが示した外陣の隅にはアップライトピアノの横に幼稚園のんとちゃうんかと思うようなかいらしい椅子が積み重ねてある。

 五つずつ持ち上げて、座布団席の後ろに並べる。

 その間に米屋さんの米田のお婆ちゃんら檀家のお年寄りが本堂の縁側と境内を掃除しにかかってる。

 わたし以外は、人に指図されることもなくチャッチャとやってる。お寺のチームワークはなかなかのもんです。

 十時前には掃除も準備も終わって落語家さんとお客さんを待つ。

「さくら、こないだ来てくれたお友だち来てくれへんやろか」

 伯父さんが言う。

「え、なんで?」

「いや、予定してたお客さんが飛行機の都合で間に合えへんようになってな。十人分穴があくんや」

「先輩らは落語なんかでけへんけど」

「ちゃうちゃう、観に来る人や。連休で海外旅行行ってはったんや」

「あー、それやったら、直ぐに!」

 
 直ぐにラインで連絡。五分後には――喜んで!――の返事があって、留美ちゃんも頼子さんも来ることになった。

 せやけど、十人も足らんのに、わたしが二人呼んでも足らんのやないかと心配。

 けど、心配することはなかった。コトハちゃんが五人、テイ兄ちゃんが三人のお仲間を呼んで不足分を補ってた。

「お招きありがとう!」

 感激のまなざしで現れた頼子さんと留美ちゃんは制服姿。

「こないだ来た時も制服だったから」

 なんや、お寺いうのは改まったとこやと思てるらしい。

 テイ兄ちゃんの連れは学生風のニイチャン二人。テイ兄ちゃんと違うて、女の子見てチャラチャラすることもないんで一安心。なんせ、頼子さんはブロンドのベッピンさん。それに、コトハちゃんが呼んだ五人も制服は着てへんけど、真理愛女学院のブラバン仲間の女子高生。

「桂米国(かつらよねくに)さん?」

 特設高座の横に置かれたメクリの名前を見て頼子さん。

「桂っていえば、米團治とかですもんね」

 留美ちゃんも納得。

 米團治と言われても、落語なんか聴いたこともないので、よう分からへん。文芸部の二人はなかなかのもんです。

 やがて出囃子にのって現れたんは……なんと外人さん!

「大勢のお運び、まことにありがとうございます。本日如来寺さんのお招きを受けまして高座を務めさせていただきます、桂米国(かつらべいこく)でございます。二十歳の歳で日本にやってまいりまして、幸か不幸か落語という物に出くわしまして、師匠やら一門の兄さんたちの口車に乗りまして、いつの間にやらイッチョマエに羽織を着せてもらえるようになりまして、名は体を表すで『米国』やなんて名前を頂きました……」

 大阪落語の桂一門の落語家さんは米團治さんを筆頭に、名前に『米』の字が付く人が多い。その流れで米国と付いたのか、今日の枕の話では分からへんけど、ほんまにアメリカはシカゴの出身であるらしい。

 出し物は、お寺に似つかわしい『所帯念仏』と『崇徳院』と『地獄八景亡者の戯れ』。

 もう二時間笑いっぱなし。落語いうたら年寄りのもんやいう意識があったけど、なかなか、今どきの中学生にも面白い。『崇徳院』では崇徳院の和歌――背を速み、岩にせかるる滝川の割れても末に合わんとぞ思ふ――が瑠璃ちゃんのツボにハマった。百人一首が趣味の瑠璃ちゃんは、有名な崇徳院の和歌で、こんなに面白い話ができるいうのに感動したらしい。

 
 米国さんの落語が終わると、お招きいただいたお礼ということで、コトハちゃんのお仲間がブラバンの曲を二曲披露。落語の木戸銭だけでブラバンまで聞けて、ほかのお客さんも喜んでる。

「わたしもやる!」

 頼子さんのハートに火が付いた。コトハちゃんと一言二言打ち合わせると本場の英語で『オーバーザレインボー』をワンコーラスぶちかました。

「いやあ、あんたのは、イギリスの英語やねえ!」

 米国さんも感動、英語にイギリスもアメリカもあるんかいな?

 
 そのへんは、また次の如来寄席で、おあとがよろしいようで……。

 
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