4 / 432
004『突然の家庭訪問』
しおりを挟む
せやさかい
004『突然の家庭訪問』
先生来はるて!
朝ごはんの片づけしてたら廊下の電話が鳴って、出勤直前のお母さんが出た後で、キッチンのあたしに言う。
「なんや、先日のお詫びと新学期のお話とかで……しゃあない! 午前中休みとるわ。さくらもおらんとあかんで!」
そう言うと、スプリングコートを脱いでピアスも外して、スマホで電話を掛けた。会社に半休の電話やろ。
いっしょに食器洗てた詩(ことは)ちゃんが美しく眉を寄せる。
「午後はクラブあるから、町内見学は、また今度やね」
今日は、午前中は近所のあれこれを詩ちゃんに教えてもらうことになってた。
「あ、うん。また今度、よろしく」
「うん、それはええけど、先生がお詫びて、なにかあったん?」
「ああ……大したことやないねんけど、ちょっと、わたしが大きな声出したから、先生、気にしてはるんやと思う」
「担任、菅井先生やったね……悪い先生やないけど、三つに一つは大事なこと忘れる人やからねえ」
具体的なことは話してへんのに、大事なとこは見抜いてる。美人やいう以外に、頭の回転がええんで、ちょっとビックリして尊敬の針が10ポイントほど上がる。
おっちゃん(コトハちゃんのお父さんで、お母さんのお兄さん)の勧めで、本堂の外陣で会うことにする。
で。
菅井先生一人かと思たら、学年主任の春日先生も付いてきたんでビックリ!
春日先生は定年に近いオッチャンの先生。本堂に上がると、正座して須弥壇の阿弥陀さんに手を合わせはる。菅井先生は、お母さんにペコペコするばっかりで、阿弥陀さんには気ぃもつかんいう感じ。
「先日は、さくらさんの苗字とお名前を読み違えると言うミスをしてしまいまして、まことに申し訳ありませんでした」
春日先生がきちんとお詫びをされて、菅井先生は頭を下げながらゴニョゴニョ。わが担任ながら頼りない。
お母さんは、春日先生の態度と言葉で恐縮してる。あの件は、菅井先生のポカやけど「せやさかい言うたやないですか!」と大きな声出したわたしにも非がある。あるから、お母さんには言うてへん。成り行き次第では、お母さんにポコンとかまされるかもしれへん。
「いえいえ、うちの子ぉも、いらんこと言いですから。アハハハ」
いらんこと言いはないと思うねんけど。まあ、これで丸く収まるやろ。
「明日は灌仏会ですねえ」
外陣の隅っこに置いてあるあれこれを見て、春日先生は水を向ける。
灌仏会とはお釈迦さんの誕生日。お寺ではいろいろ行事があるし、外陣の長押には昔の灌仏会の写真があって、その写真の中に若いころのお母さんの姿もあったりして、そういうところを見てるんやとしたら、なかなかの先生やと思う。菅井先生は、正直に「へ?」いう顔してる。
「花まつりのことです、お釈迦さんの誕生日です」
勤めてニコヤカに言う。この、いわば手打ち式は、わたしがニッコリすることで大団円。
「お差支えなかったら、苗字が御変わりになったご事情など……これからのさくらさんの指導上、心得ていた方が良いのではと、あ、お差支えなければなのですが」
あ、これが本命か。
たしかに、三月ギリギリに苗字が変わって、菅井先生が混乱したのも無理のない話なんや。
「はい……実は、主人が七年前に行方不明になりまして。このたび、やっと失踪宣告の運びになりまして、実家に娘共々戻ってまいった次第です……」
お母さんは最後の言葉を濁す。わたしの手前もあって、これ以上は聞いて欲しないという意思表示。
「そうでしたか、いえ、承知いたしました。いや、これから三年間のお付き合いになります、入学式でも申しましたが、学校に出来ることがありましたら、なんなりとご相談ください。微力ですがお力になれれば幸いです。菅井先生からも……」
水を向けられた先生やけど「は、明日から元気にがんばりましょう」と短くご挨拶。
「「はい、よろしくお願いいたします」」
母子揃って頭を下げてめでたしめでたし!
時間にして三十分。お母さんは、その足でご出勤。
「はやく済んだやん!」
コトハちゃんは制服に着替えてたけど、学校にいくついでにご近所巡りに連れていってくれる。
町内で会う人が、みんな挨拶してくれはる。そのたんびに「こんど、いっしょに住むようになりました、従妹のさくらです」と紹介してくれる。正直ハズイけど、こういうことは最初が肝心「どんくさいから、いっぺんには覚えられませんけど、よろしくお願いします」と頭を下げておく。
「ああ、歌ちゃんの子やな(^▽^)」
米屋のお婆ちゃんなんかは、しっかり知ってくれてた。まあ、ええねんけどね。みなさん、瞬間わたしとコトハちゃんを見比べてる。コトハちゃんはベッピンさんで、とくに真理愛女学院の制服姿やし、もう反則やいうくらいのベッピンさん。これに対抗できるのは広瀬すずくらいしかおらへん。
凹みそうになる気持ちを笑顔に隠す。そう、笑顔は七難を隠すいうやおまへんか!
ケケケ……
コトハちゃんを見送って家に帰ったら、頬っぺたが引きつっておりました(;'∀')。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
菅井先生 さくらの担任
春日先生 学年主任
004『突然の家庭訪問』
先生来はるて!
朝ごはんの片づけしてたら廊下の電話が鳴って、出勤直前のお母さんが出た後で、キッチンのあたしに言う。
「なんや、先日のお詫びと新学期のお話とかで……しゃあない! 午前中休みとるわ。さくらもおらんとあかんで!」
そう言うと、スプリングコートを脱いでピアスも外して、スマホで電話を掛けた。会社に半休の電話やろ。
いっしょに食器洗てた詩(ことは)ちゃんが美しく眉を寄せる。
「午後はクラブあるから、町内見学は、また今度やね」
今日は、午前中は近所のあれこれを詩ちゃんに教えてもらうことになってた。
「あ、うん。また今度、よろしく」
「うん、それはええけど、先生がお詫びて、なにかあったん?」
「ああ……大したことやないねんけど、ちょっと、わたしが大きな声出したから、先生、気にしてはるんやと思う」
「担任、菅井先生やったね……悪い先生やないけど、三つに一つは大事なこと忘れる人やからねえ」
具体的なことは話してへんのに、大事なとこは見抜いてる。美人やいう以外に、頭の回転がええんで、ちょっとビックリして尊敬の針が10ポイントほど上がる。
おっちゃん(コトハちゃんのお父さんで、お母さんのお兄さん)の勧めで、本堂の外陣で会うことにする。
で。
菅井先生一人かと思たら、学年主任の春日先生も付いてきたんでビックリ!
春日先生は定年に近いオッチャンの先生。本堂に上がると、正座して須弥壇の阿弥陀さんに手を合わせはる。菅井先生は、お母さんにペコペコするばっかりで、阿弥陀さんには気ぃもつかんいう感じ。
「先日は、さくらさんの苗字とお名前を読み違えると言うミスをしてしまいまして、まことに申し訳ありませんでした」
春日先生がきちんとお詫びをされて、菅井先生は頭を下げながらゴニョゴニョ。わが担任ながら頼りない。
お母さんは、春日先生の態度と言葉で恐縮してる。あの件は、菅井先生のポカやけど「せやさかい言うたやないですか!」と大きな声出したわたしにも非がある。あるから、お母さんには言うてへん。成り行き次第では、お母さんにポコンとかまされるかもしれへん。
「いえいえ、うちの子ぉも、いらんこと言いですから。アハハハ」
いらんこと言いはないと思うねんけど。まあ、これで丸く収まるやろ。
「明日は灌仏会ですねえ」
外陣の隅っこに置いてあるあれこれを見て、春日先生は水を向ける。
灌仏会とはお釈迦さんの誕生日。お寺ではいろいろ行事があるし、外陣の長押には昔の灌仏会の写真があって、その写真の中に若いころのお母さんの姿もあったりして、そういうところを見てるんやとしたら、なかなかの先生やと思う。菅井先生は、正直に「へ?」いう顔してる。
「花まつりのことです、お釈迦さんの誕生日です」
勤めてニコヤカに言う。この、いわば手打ち式は、わたしがニッコリすることで大団円。
「お差支えなかったら、苗字が御変わりになったご事情など……これからのさくらさんの指導上、心得ていた方が良いのではと、あ、お差支えなければなのですが」
あ、これが本命か。
たしかに、三月ギリギリに苗字が変わって、菅井先生が混乱したのも無理のない話なんや。
「はい……実は、主人が七年前に行方不明になりまして。このたび、やっと失踪宣告の運びになりまして、実家に娘共々戻ってまいった次第です……」
お母さんは最後の言葉を濁す。わたしの手前もあって、これ以上は聞いて欲しないという意思表示。
「そうでしたか、いえ、承知いたしました。いや、これから三年間のお付き合いになります、入学式でも申しましたが、学校に出来ることがありましたら、なんなりとご相談ください。微力ですがお力になれれば幸いです。菅井先生からも……」
水を向けられた先生やけど「は、明日から元気にがんばりましょう」と短くご挨拶。
「「はい、よろしくお願いいたします」」
母子揃って頭を下げてめでたしめでたし!
時間にして三十分。お母さんは、その足でご出勤。
「はやく済んだやん!」
コトハちゃんは制服に着替えてたけど、学校にいくついでにご近所巡りに連れていってくれる。
町内で会う人が、みんな挨拶してくれはる。そのたんびに「こんど、いっしょに住むようになりました、従妹のさくらです」と紹介してくれる。正直ハズイけど、こういうことは最初が肝心「どんくさいから、いっぺんには覚えられませんけど、よろしくお願いします」と頭を下げておく。
「ああ、歌ちゃんの子やな(^▽^)」
米屋のお婆ちゃんなんかは、しっかり知ってくれてた。まあ、ええねんけどね。みなさん、瞬間わたしとコトハちゃんを見比べてる。コトハちゃんはベッピンさんで、とくに真理愛女学院の制服姿やし、もう反則やいうくらいのベッピンさん。これに対抗できるのは広瀬すずくらいしかおらへん。
凹みそうになる気持ちを笑顔に隠す。そう、笑顔は七難を隠すいうやおまへんか!
ケケケ……
コトハちゃんを見送って家に帰ったら、頬っぺたが引きつっておりました(;'∀')。
☆・・主な登場人物・・☆
酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
菅井先生 さくらの担任
春日先生 学年主任
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
後宮の下賜姫様
四宮 あか
ライト文芸
薬屋では、国試という国を挙げての祭りにちっともうまみがない。
商魂たくましい母方の血を強く譲り受けたリンメイは、得意の饅頭を使い金を稼ぐことを思いついた。
試験に悩み胃が痛む若者には胃腸にいい薬を練りこんだものを。
クマがひどい若者には、よく眠れる薬草を練りこんだものを。
饅頭を売るだけではなく、薬屋としてもちゃんとやれることはやったから、流石に文句のつけようもないでしょう。
これで、薬屋の跡取りは私で決まったな!と思ったときに。
リンメイのもとに、後宮に上がるようにお達しがきたからさぁ大変。好きな男を市井において、一年どうか待っていてとリンメイは後宮に入った。
今日から毎日20時更新します。
予約ミスで29話とんでおりましたすみません。
一よさく華 -嵐の予兆-
八幡トカゲ
ライト文芸
暮れ六つ過ぎ。
十日ごとに遊郭に現れる青年がいる。
柚月一華(ゆづき いちげ)。
元人斬り。
今は、かつて敵であった宰相、雪原麟太郎(ゆきはら りんたろう)の小姓だ。
人々の好奇の目も気に留めず、柚月は「白玉屋」の花魁、白峯(しらみね)の元を訪れる。
遊ぶためではない。
主の雪原から申し渡された任務のためだ。
隣国「蘆(あし)」の謀反の気配。
それを探る報告書を受け取るのが、柚月の今回の任務だ。
そんな中、柚月にじわりじわりと迫ってくる、人斬りだったことへの罪の意識。
「自分を大事にしないのは、自分のことを大事にしてくれている人を、大事にしていない」
謎の言葉が、柚月の中に引っかかって離れない。
「自分を大事にって、どういうことですか?」
柚月の真直ぐな問いに、雪原は答える。
「考えなさい。その答えは、自分で見つけなさい」
そう言って、父のように優しく柚月の頭を撫でた。
一つよに咲く華となれ。
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
僕とピアノ姫のソナタ
麻倉とわ
ライト文芸
音大でヴァイオリンを専攻しながらも、日々音楽よりも女遊びにいそしむ椎名哲朗。
彼はある合コンで目を奪われるような美人と出会うが、彼女は場の空気をまったく読めず、周囲から浮きまくっていた。実は同じ大学で『ピアノ姫』と呼ばれている音楽バカの天才ピアニスト、真山調だったのだ。
ひょんなことから哲朗は調とホテルに行くことになり、流されて一夜を共にしてしまうが――。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
ホンモノの自分へ
真冬
ライト文芸
小学生の頃から酷いいじめを受け続けてきた天野樹。
そして、小学生の頃に唯一の味方で親友の死、その後悪化するいじめ。心の扉を固く閉ざした樹は人との関わりを拒絶し続けて生きていくと決めたが、高校2年になり出会った人たちは樹をそうさせててはくれなかった。
彼らと出会って少しずつ樹の心境も変わっていく。
そんな、樹たちの日常と成長を描いた青春ストーリー
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
オッサン清掃員の裏稼業
あ・まん@田中子樹
ライト文芸
ダンジョン法が施行されて10年。
日本では、スマホと同じくらいの価格でプライベートダンジョンが持てるようになっていた。
個人による犯罪や組織的な犯罪などこれまでとはまったく違った事件の解決を目的に組織された警察庁ダンジョン特捜部。しかし、ダンジョン特捜部とは別に秘密裡に組織されたもうひとつの謎の組織がある。
何の特徴もない男、田中一郎。
彼は清掃会社に勤務する普通のオッサンだが、実は彼には裏の顔がある。
国の秘密組織「神籬」。
彼はその神籬のトップエージェントして活躍しているが、妻と娘には本当の正体は知られていない。
反抗期に突入した娘といつか家族水入らずで旅行に行けることを夢見て、田中一郎は今日も凶悪なダンジョン犯罪を撲滅するべく奔走する。
ある日、娘がだまされ、ダンジョン配信中にオープンチャンネルで裸にひん剝かれそうになったのを全力で魔物を消し炭にして、娘が一躍有名人に……。田中一郎は娘を守りながら巨大な悪に立ち向かう。
※ダンジョンも出てきますが、スパイアクションがメインです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる