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118≪遅いんだよな、開票結果!≫
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新・ここは世田谷豪徳寺・21(さつき編)
118≪遅いんだよな、開票結果!≫
「え、まだ結果出てないの!?」
二日酔いのぼさぼさ頭で起きだして、テレビのニュース番組を見て叫んでしまったて、さくらが嫌味な視線が刺さる。
「帝都の卒業生も二年たつと、こうなっちゃうかねえ」
「え、なに?」
返事の代わりに鏡を渡された。なるほど、ごもっとも。我ながらひどい顔だ。
昨日はゼミの仲間といっしょにトムを慰めながら終電まで飲んでいた。
イギリス……いや、スコットランド人の中でも、トムは思い切り優柔不断な奴だ。世論調査でも、スコットランドの独立に関しては94%の人たちが賛否いずれにせよ態度が明確だ。6%の人が賛否保留。これは分かる。近所や職場がみんな違う意見だったりすると、なかなか思った通りを口にできない場合もあるだろう。
でもトムは違う。日本に来ているのだ。日本人は世界に冠たるミーハーな国民性だけど、マスコミが騒ぐほどにはスコットランドには関心が無い。だから、なんの遠慮も無く賛成でも反対でも叫べる。それが昨日車で跳ね飛ばしそうになってから丸一日付き合うハメになったけど、トムはハムレットだった。
「投票結果出るのは夕方だって……」
お母さんが、朝ごはんの用意しながら教えてくれた。
「日本だったら、出口調査で投票締め切りと同時に結果でるわよ」
トーストの上にスクランブルエッグ乗っけて、あたしはぼやいた。
「せめて着替えてから朝飯食べたら」
斜め前のお父さんが言う。
「いいの。スコットランドのお蔭で、昨日は振り回されっぱなしだったんだから」
「それは同情するけど、ここのボタンぐらい留めなさい」
と、胸元を指した。あたしったら、パジャマの第二ボタンが外れていた。お父さんの角度からだと胸が丸見えだったんだろう。
「ごめんなふぁい……」
トースト咥えたまま素直に謝る。さくらだったら「変態オヤジ!」とか逆ねじなんだろうけど、さすがに大学生、自他の状況を見て反応が出来る。お母さんの「情けない」という視線をシカトして、モソモソと朝食を咀嚼する。
なんとか身づくろいしてダイニングに戻ると、お父さんはご出勤、さくらも学校に行っていた。でも、テレビでは相変わらずスコットランド。で、コメンテーターが、沖縄の独立なんて飛躍した話をしている。
「こういう奴が一番許せないのよね……」
お母さんが冷やかに言った。
たしかに、このコメンテーターは慰安婦問題でさんざん政府を批判しておきながら朝日新聞が叩かれ始めると、一週間沈黙したあと、急に朝日批判になってしまった。
で、知ったかぶりの話題づくりのために沖縄独立なんてことを言いだす。
「針程の事を電柱程にも言うんだから。スコットランドはイングランドと違ってケルト人だけど、沖縄は純然たる日本よ。文化的にも民族的にも。沖縄が外国だって言うんなら、東北だって外国。京都や山陰は人類的形質じゃ韓国と同じになっちゃう。そういうことも分からないで、ただエキセントリックだというだけで、こんなことほざくんだもんね」
かなり学問的で分析的な批判をお母さんは言う。
見かけは普通の主婦だけど、お母さんは兼業作家だ。知識と理屈は並の大学の講師の上を行く。付き合っていては論議を吹っ掛けられそうなので、大学へ行くことにする。
そこにゼミの高坂先生から電話……トムが夕べから寮に帰っていないだとさ。
アンチクショー!
118≪遅いんだよな、開票結果!≫
「え、まだ結果出てないの!?」
二日酔いのぼさぼさ頭で起きだして、テレビのニュース番組を見て叫んでしまったて、さくらが嫌味な視線が刺さる。
「帝都の卒業生も二年たつと、こうなっちゃうかねえ」
「え、なに?」
返事の代わりに鏡を渡された。なるほど、ごもっとも。我ながらひどい顔だ。
昨日はゼミの仲間といっしょにトムを慰めながら終電まで飲んでいた。
イギリス……いや、スコットランド人の中でも、トムは思い切り優柔不断な奴だ。世論調査でも、スコットランドの独立に関しては94%の人たちが賛否いずれにせよ態度が明確だ。6%の人が賛否保留。これは分かる。近所や職場がみんな違う意見だったりすると、なかなか思った通りを口にできない場合もあるだろう。
でもトムは違う。日本に来ているのだ。日本人は世界に冠たるミーハーな国民性だけど、マスコミが騒ぐほどにはスコットランドには関心が無い。だから、なんの遠慮も無く賛成でも反対でも叫べる。それが昨日車で跳ね飛ばしそうになってから丸一日付き合うハメになったけど、トムはハムレットだった。
「投票結果出るのは夕方だって……」
お母さんが、朝ごはんの用意しながら教えてくれた。
「日本だったら、出口調査で投票締め切りと同時に結果でるわよ」
トーストの上にスクランブルエッグ乗っけて、あたしはぼやいた。
「せめて着替えてから朝飯食べたら」
斜め前のお父さんが言う。
「いいの。スコットランドのお蔭で、昨日は振り回されっぱなしだったんだから」
「それは同情するけど、ここのボタンぐらい留めなさい」
と、胸元を指した。あたしったら、パジャマの第二ボタンが外れていた。お父さんの角度からだと胸が丸見えだったんだろう。
「ごめんなふぁい……」
トースト咥えたまま素直に謝る。さくらだったら「変態オヤジ!」とか逆ねじなんだろうけど、さすがに大学生、自他の状況を見て反応が出来る。お母さんの「情けない」という視線をシカトして、モソモソと朝食を咀嚼する。
なんとか身づくろいしてダイニングに戻ると、お父さんはご出勤、さくらも学校に行っていた。でも、テレビでは相変わらずスコットランド。で、コメンテーターが、沖縄の独立なんて飛躍した話をしている。
「こういう奴が一番許せないのよね……」
お母さんが冷やかに言った。
たしかに、このコメンテーターは慰安婦問題でさんざん政府を批判しておきながら朝日新聞が叩かれ始めると、一週間沈黙したあと、急に朝日批判になってしまった。
で、知ったかぶりの話題づくりのために沖縄独立なんてことを言いだす。
「針程の事を電柱程にも言うんだから。スコットランドはイングランドと違ってケルト人だけど、沖縄は純然たる日本よ。文化的にも民族的にも。沖縄が外国だって言うんなら、東北だって外国。京都や山陰は人類的形質じゃ韓国と同じになっちゃう。そういうことも分からないで、ただエキセントリックだというだけで、こんなことほざくんだもんね」
かなり学問的で分析的な批判をお母さんは言う。
見かけは普通の主婦だけど、お母さんは兼業作家だ。知識と理屈は並の大学の講師の上を行く。付き合っていては論議を吹っ掛けられそうなので、大学へ行くことにする。
そこにゼミの高坂先生から電話……トムが夕べから寮に帰っていないだとさ。
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