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09『三つ子ビルのたとえ』

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RE・かの世界この世界

009『三つ子ビルのたとえ』   




 落ち着いてくると部室の様子が分かって来た。

 
 教室一つ分ほどの部室は畳敷きで窓が無い。三方が障子と襖で、そこを開けると廊下とか別室に繋がっているのかもしれないけど、なんだか、そこには興味を持たない方がいいような気がする。

 中臣先輩が立ち上がって、つられて首を巡らすと、驚いたことに上段……というのかしら、一段高くなっていて、壁面は全体が床の間みたい。三つも掛け軸が掛かっていて、その横は違い棚で、香炉やら漆塗りの文箱みたいなのが上品に置いてある。

 これって、時代劇とかである……書院だったっけ、お殿様が太刀持ちのお小姓なんかを侍らせて家来と話をしたりするところだ。大河ドラマのセットみたいだ。

 中臣先輩は、襖の向こうへ行ったかと思うと、お盆に茶道で使うようなお茶碗を載せて戻ってきた。

 制服姿なんだけど、お作法に則っているんだろうか、とても和の雰囲気。摺り足で歩くし、畳の縁は踏まないし。

 その黒髪とあいまって、大名屋敷の奥女中さんのような雰囲気だ。

 
「まあ、これをお上がりなさい。気持ちが落ち着くわ」

 
 前回と違って落ち着いているつもりだったけど、一服いただくと、自分でも分かるほどに呼吸も拍動も、春のお花畑のように穏やかになってきた。

「落ち着かないと、これからの話は理解できないからな」

 労いのつもりなんだろうけど、志村先輩が言うと緊張してしまう。

「は、はひ(*°∀°)」

「ほらぁ、寺井さん緊張しちゃったじゃないの」

「すまん、大事な話だから、慎重に説明しなくてはと思ったんだ。それに、ここは雰囲気が重い」

 もっともだ。うちの学校は古いけど、旧校舎とはいえ、こんな部屋があるのは、そぐわないよ。と云うか怪しいよ。

 無駄に広いのは元々は作法室かなんかだったからなのかもしれない。そうだよね、学校で畳敷きって言えば作法室か、今は使われなくなった宿直室くらいしかありえないし、旧校舎の暗い雰囲気からはかけ離れてる。おとぎ話とかで、洞窟の奥を進んだら桃源郷に出くわした的な怪しさ。でも、それを口にしたら全部台無しになるような危うさ。そんな感じ。

「これを見てくれるかしら」

 志村先輩が上段の間を示すと、掛け軸があったところが大型のモニターに替わっていて、どこかアジアの大都市を映している。

「大きな三つ子ビルがあるでしょ」

「あ、ニュースで見たことがあります。東アジア最大のビルとかで、屋上がプールになっていて三つを繋いでいるんですよね」

「ああ、先月から右側のビルが立ち入り禁止になってる」

「え、そうなんですか?」

「ええ、傾き始めているの、いずれ、他の二つも使われなくなるわ」

「そうなんですか?」

「日本の他に三つの国の建設会社が入って出来たビルなんだが、技術の差や手抜き工事のために完成直後から傾き始めてな」

「これを見て」

 中臣先輩が手を動かすと、屋上のプールが3Dの大写しになった。

「あ、あれ?」

 プールの水は片側に寄ってしまって、反対側ではプールの底が露出している。

「東側のビルが沈下し始めてプールが傾いているの」

「主に、某国の手抜きが原因なんだが、いくら他の部分が良くできていても、こういうダメな部分があると、使い物にならなくなる」

「三カ月後には、こうなるわ」

 音は押えられていたけど、東側が崩れ始め、それに連れて他の二つも崩壊し始めた。

 うわ!

 3Dの画像なんだけど、崩壊の風圧が感じられ、中臣先輩の髪を乱暴にかきまわし、先輩は幽霊のようなザンバラ髪になってしまった。

「あ、髪の毛食べちゃった」

「トレードマークなんだろうが、美空は影響を受けやすい。切るかまとめるかしたほうが良くないか?」

「だ、大丈夫よ……さあ、話はここからです……あ、あ~、ペッ、髪が……こんどは絡んで……」

「やっぱ、切ろう」

「あ、いや、それは……」

「覚悟しろ!」

「と、時美さん、それは無体です!」

 志村先輩が中臣先輩を追いかけて、不思議な説明は中断してしまった(^_^;)。

 いったい、なんなんだろうね、ここは?



☆ 主な登場人物

 寺井光子  二年生
 二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
 中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
 志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
 

 
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