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074『利根4号機・3』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
074『利根4号機・3』
この時代のカタパルトは火薬を使う。
火薬の爆発力で瞬発力を得て観測機を蹴飛ばす仕組みだ。宿命的にカタパルトは射出のたびに大きな衝撃を受け、後年空母に使われる蒸気カタパルトよりも故障が多く、各国海軍は故障を含めて軍事機密にしている。
シリンダーロッドの軸受けが疲労によってひずみが出ている。
軸受けそのものを交換すると時間がかかり過ぎるので、魔法でひずみを直してやる。
蛮族との戦いにおいても剣や槍の歪みを魔法で直す。それと同じなので、ほとんど瞬間で直ってしまう。
熟練の整備班長がハンマーでロッドを叩くのに合わせたやったから、整備班長の職人芸で回復したことになった。
「カタパルト回復!」
ただちに報告があげられ、利根四号機は五分遅れただけで、索敵任務につくことができた。
そして三十分後、利根四号機は――敵らしきもの一〇隻見ゆ。ミッドウェーよりの方位一〇度二四〇浬、針路一五〇度、速力二十ノット、〇三五八――を打電してきた。
直した甲斐があった。
これで日本艦隊はむざむざと空母四隻を撃沈されて敗北することは無くなる。ミッドウェーの攻略もつつがなく済んで、日米戦の結果は変わって来るだろう。ひょっとしたら、広島長崎への原爆投下も阻止できるかもしれない。
利根の艦橋でも、四号機の敵艦隊発見の殊勲に湧きかえっていた。
「四号機の報告で、わしの腰痛も治ったぞ!」
艦長が目をへの字にし、副長はガスマスクの収納を指示した。
「艦長、赤城から攻撃隊発進の信号旗があがりません」
「なんだと」
見張り員の報告に、艦橋の総員が赤城の艦橋に双眼鏡を向けた。
わたしも主神オーディンの軍を預かる漆黒の姫騎士、見敵必殺が部隊指揮の要諦であることを知っている。
旗艦赤城の動き、いや、動きを決定する判断の遅れは異常だ。
先ほど鉛筆を折ってしまった航海士が、海図を見ながら何度も計算尺をいじっている。
落ち着け。
先任の大尉が目で諭し、航海士は他の要員といっしょに赤城を注視することにした。
念のため海図を覗き込むと、何度もチェックの赤鉛筆が入ってはいるが、海図に記入された情報には間違いが無かった。多少あがり症なのだろうけど、航海士はきちんと任務をこなしている。
ひょっとして……?
わたしは、旗艦赤城の艦橋にテレポした……。
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