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063『アスクレーピオス・2』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
063『アスクレーピオス・2』
駅前に来ている……と言っても通学途中にある宮の坂駅ではなくて豪徳寺駅の駅前。
豪徳寺に直近の駅が宮の坂駅なのに、北に外れたところが豪徳寺駅と言うのはおかいしんだけど。
そのことは、またいずれ。
アスクレーピオスが「駅前で開業医をやっている」というので『明日暮医院』の看板を探しているのだ。
「あれ、ここ……?」
玉代が見つけたそこは流行らない薬屋があったところだ。
「あれ?」
ギシギシギシィ……………………ポン!
不思議に思っているとギシギシと音がして薬屋の横に『明日暮医院』が現れた。薬屋の隣は不動産屋だったはずだが、不動産屋は『明日暮医院』の隣だ。つまり、一瞬で『明日暮医院』が薬屋と不動産屋の間に割り込んできた。
「いや、前々からここなんだがな、患者たちがヒルデに気づかれるのを嫌がってな、豪徳寺にヒルデが現れてからは見えないようになっている」
「アハ、それってヒルデが嫌われてるってこと?」
「ヒルデは、見つけると直ぐに名前を付けるだろ」
「それはわたしの使命だからな」
「その通りだ、でもな、中には名前を付けられるのが嫌な奴もおってな。わしは、そういう奴の病気を診てやっておる」
「それだと、わたしが悪いことをやってるみたいだぞ」
「神も人も妖もいろいろあるということさ。で、用件はなんだ?」
祖母の事情を説明すると、アスクレーピオスは神さまのような顔になって考えた……って、もともと神さまなのだが、開業医のアスクレーピオスは、どこにでもいる無精ひげのオヤジだ。
「たしかにこの界隈じゃ増える傾向にある。マイバッグはレジ袋に比べると不潔でもある。でもな、そこに付け込んでいる不良の妖どもがおってな。そいつらを倒さんとうまくはいかんぞ」
「妖のせいだと言うのか?」
「いまも言ったが、ヒルデを嫌がってうちに来る妖もおれば、儂のところにさえ来たがらん妖もおる。そいつらが、東京のあちこちに集まり始めておる。主に人が多く集まる場所だ。時々ヒル電話するから引き受けてはくれないか」
うまく誘導されはじめている気がしたが、取りあえず引き受けることにする。
「そうか、それはありがたい。お祖母ちゃんにはこれを使っておくといい」
「ん、WHOのマーク?」
「わしのトレードマークじゃ! テドロスのお蔭でヤブ医者マーク扱いだがな。まあ、家一軒分なら、これで間に合う。ま、よろしく頼むわ」
お札をもらって医院を後にする。
ギシ!
音がして振り返ると、薬屋と不動産屋がくっついて『明日暮医院』の存在が消えてしまった。
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