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035『琥珀浄瓶・2』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
035『琥珀浄瓶・2』
琥珀浄瓶(こはくのじょうへい)とは中国の六道仙人が持つ宝具の一つで、西遊記では金閣魔王の持ち物とされている。金閣は琥珀浄瓶の蓋を開けて敵の名を呼ぶ。うかつに返事をすると、たちまちのうちに瓶の中に吸い込まれ、数刻の内に溶かされ、金閣の酒にされるという恐ろしい武器である。
その琥珀浄瓶が不定形の真ん中で不規則に漂っている。
琥珀浄瓶の口は開かれて、金魚の口のようにフワフワと不定形の中身を呼吸している……吸っては吐き出し、吐き出しては吸っている。
「あれは人の名でござるぞ!」
目を凝らすとスクネ老人の言う通りだ。
習近時 李光沢 連戦 陳明女 荘玄沢 毛仁善 蒋介岩 金美華 孫御嬢 石電析 周恩沢 林即足……
全て漢字で、苗字は、ほとんど例外なく一文字、名前は二文字……中国で取り込まれてしまった人たちの名前だ。
「七色(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)だが……よく見ると吐き出されるに従って色が変わっているのではないか?」
「いかにも、赤を吸っては橙に、橙を吸っては黄色、黄色を吸っては緑……」
「……紫は……?」
赤に戻ればループして増減はない……しかし、紫色の氏名は呑み込まれたまま戻ってくることが無い。
「七段階に分けて呑み込んでいるのか……」
「赤が少なくはないか?」
「いかにも、おそらくは赤が最初の形態で、吸引の度に色が変わるのは少しずつ養分を吸収しておるためでござろう」
「こいつ、中国で飽き足らずに日本にやってきたのか?」
「そのようでござるな、僅かではござるが、漢字二文字の姓が混じっております」
「それは日本人の氏名だ、倒さねばならないぞ」
「スクネは左回りに攻めまする、ひるで殿は右回りに攻められよ。それがしが穴をあけまするによって、ひるで殿は、剥き出しになった刹那を捉えて琥珀瓶を攻められよ!」
「心得た!」
雲を蹴ると、それぞれ左右から巻き取るように不定形を攻めにかかった!
ビュン! ズサ! ビュン! ズシ! ビュン! ザシ!
突と斬の小気味いい音が続いた。
スクネが矢を射てビュン! わたしが切りかけてズサ! ズシ! ザシ!
霊魔や妖は一方向からの攻撃には強い抵抗力を見せるが、複数の方角からの攻撃、特に左右逆回転からの攻撃には弱い傾向があるようだ。
琥珀浄瓶も同様で、攻撃を加えるたびに七色の氏名を吐き出して動きを止める。
しかし、停止しているのは数瞬の事で、直ぐに元の力強さを取り戻してしまう。
「こいつ、少しづつ赤を取り戻してはいないか」
「ひるで殿、下を御覧なされ! 日本人の氏名が上って来ますぞ!」
「どいうことだ!?」
「分かりませぬ、呼ばれて返事をしなければ取り込まれることはないはず」
攻撃は繰り返しながらも地上の様子に注意を向ける。
見ると、氏名が湧き出てくるのは、いくつかのポイントが中心になっていることが分かる。
「あれは……」
「……携帯電話の基地局でござる!」
「そうか、琥珀浄瓶はスマホを通じて氏名を集めているんだ!」
「基地局を停めねばなりませぬな」
「しかし、基地局にかかずらっていると、こいつの相手ができなくなる」
「南無三……」
序盤で立ち往生してしまった。
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