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029『受験生 福田るり子』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
029『受験生 福田るり子』
あ……起きなくていいんだっけ。
いつもの時間に目覚めて思い直した。
今日は週明けの第二月曜日、月に一度の休刊日だから新聞を取りに行かなくてもいい。
でも、そのことではない。
今日は学校の入試日で生徒は休みなのだ。
普通の生徒なら儲けたとばかり二度寝をするんだろうが、女戦士の習い性、きっちりと目が覚めてしまう。
祖母といっしょに庭の手入れをして、家族三人で朝食。
表を掃きながら向かいの窓からチラ見している啓介を冷やかす。先月は家の前の道路で掃除の真似事をするくらいの事はしていたのだが、ここのところの寒さを理由に出てこようともしない。情けない幼なじみにジト目の一つもをかましてやろうと思ったが……。
あれ?
啓介の視線が微妙にズレている……視線の先を探ってみると、地面に落ちた電柱の影が太っている。わたしの位置からは見えないが、向かいの啓介のところからは影の本体が見えているのだ。
「なんの用だ、ねね子」
「み、見つかったニャー(^_^;)」
私服のねね子が出てきた。メンズなのだろうか、大き目のブルゾンが可愛い。
「なんの用だ」
「あ、えと、学校に着いて来て欲しいニャ」
「今日は入試で休みだぞ」
「いや、その、だからなのニャ」
「んん?」
ねね子は二階の啓介が気になるようで、あまり込み入った話はできない様子だ。
「分かった、だけど、入試だから校内には入れないぞ」
「あ、それでいいニャ!」
可愛くガッツポーズ、啓介が胸キュンになった気配。わたしにはまだまだ出来ないJKらしさだ。思いっきりのガンを飛ばしてから、ねね子と学校へ向かう。
豪徳寺を周り切って踏切が近くなると、受験生たちが様々な中学の制服で学校を目指しているのに出くわす。
「あの子たちに比べると、ねね子でもお姉さんに見えるなあ」
「これでも、春からは三年生なのニャ!」
「ハハ、すまん。で、用事は、あの子たちの中か?」
「うん……あの子なのニャ」
「ん……」
それは福田芳子に似た少女だった。少し小柄で、目尻に力があって、ねね子とは違ったタイプの猫顔が受験生の列に窺えた。
「ねね子の仲間か?」
妖だろうことは見当がついたが、害意が無い。先日の梨本明子さんに似た空気を帯びているが、彼女よりは胡散臭い。
「芳子の妹ということになっているニャ、福田るり子ニャ」
「妖なら、真名を付け昇華してやらねばならないが」
「待って欲しいニャ、るり子はなにやらありそうなのニャ」
「具体的に言え」
「言えないから、実物を見に来てもらったニャ。るり子には手を出さないで欲しいのニャ」
「だから訳を言え!」
「く、苦しいニャ(≧Д≦)」
「すまん、つい首を絞めてしまった」
「ねね子の勘ニャ、ほら、雷が落ちるのが分かったような勘ニャ」
ねね子の勘で井伊の殿様も命拾いしたし、わたしも無事にこの異世界に来られた。
「そうか、じゃ、しばらくの間だけな」
「よかった。ウンと言ってくれなかったら、今度は落雷するところに誘おうと思ってたニャ」
「やったら殺す」
ゴツン!
「フニャ!」
受験生たちを見送っていると、いい匂いがしてきた。
神社の鳥居の向こうでいわながさんが焚火をしている。どうやら芋もいっしょに焼いているようだ。
ねね子と一緒に焼き芋をごちそうになって家に帰った。
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