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010『芳子の迎えで学食へ』

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漆黒のブリュンヒルデ

010『芳子の迎えで学食へ』 

 

 

 教室の席は窓側の一番後ろだ。

 
 先月の席替えでここになったことになっているが、実のところは、父王オーディンが設定に手を抜いたのだろう。

 武笠ひるでという子は、敬して遠ざけられる性格がデフォルトになっている。しがらみが少ない。

 キンコーンカンコーン  キンコンカーンコン

 昼休みの鐘が鳴る、一人で昼食かと思ったら廊下に芳子が立っている。

「先輩、お昼行きましょ!」

「おう、芳子も学食か?」

「はい、急がないといっぱいですよ」

「そうだな」

 財布を掴んで学食を目指す。同じように学食に向かう子がけっこう居て、早足になっている。

 階段を下りて、二階まで来ると、ドタドタと男子たちが追い越していく。腹ペコの男が食に向かって走っているのは好きだ。良き兵士の根源は食欲だ。生きるエネルギーが陽気にほとばしっているようで、いっしょに走りだしたくなる。

「走るか!」

「止してくださいよ、朝の件でも評判なんですから、先輩」

「あ、あ、そか(^_^;)」

 ひとりの男子の正体が二つ尾の犬の化け物だったことは伏せておく。

 
 おおーーーー!

 
 二台の券売機の前はすでにいっぱいで、カウンターも列ができ始めていた。

「芳子、券売機の増設を実現したら生徒会の支持者が増えるぞ」

「もう、提案済みです。ランチで良かったら食券ありますよ」

「おお、いつの間に!?」

「一週間分まとめ買い、券売機は四時間目の前から動いてますから」

「愛い奴じゃ、では、あとでジュース奢ってやるぞ(⌒∇⌒)」

 ランチとご飯系に男子が集中している。猛々いというほどではないのだが、女子は敬遠しているのか麺類の方が多いようだ。

 ランチを食べるので当然ランチの最後尾に付く。すぐに、後ろに列が伸びる。二人女子が加わった、わたしらが並んだので勇気が出たのかもしれない。

 キャ!

 後ろの女子から悲鳴、振り向くと姿が無く、すぐ後ろは男子になっている。

 ムギュ!

「だ、だれだ! 人の尻に触るのは!?」

「先輩?」

「おまえらだな!?」

 三人の男子がニヤついている。こいつら、女子の尻を触って下衆な色欲満たしながら列の独占を図っているんだ。

「ここで暴れちゃだめですよ、先輩」

「むむ」

 確かに迷惑になる。口の中で小さく呪文を唱える。数秒後……。

 
 ギャーー!

 
 後ろの男子が悲鳴を上げてぶっ飛んだ。

「なにかしました、先輩?」

「いいや」

 ちょっと、サンダーの魔法を、わが尻にかけておいただけだ。触る奴が悪い。

 
 食後はジュースの自販機に向かう。芳子にもおごってやらなきゃな。

 
 きのうと同じ、この秋限定のコーヒー……と思ったら、寸前のところで人が立つ。女子だし、悪気は無いのだろう。

 ムッとするが、割り込みと言うほどでもないので、グッと我慢する。芳子にも言われてるしな。

 ゴトン。

 前の女子が缶コーヒーを取る。去り際に目が合う、なんだかニヤッと笑われたような……いや、気のせいだ。

 ム。

 ちょうど売り切れになってしまったではないか!

 ククククク

 今の女子が缶コーヒーを見せびらかしながら笑ってやがる。

 こいつ、耳まで口が裂けて……こいつも妖か!?

 気づくと同時に、そいつはジャンプして、自転車置き場の屋根の上を走っている。

 待て!

 続いてジャンプすると、奴は二階の庇へ。続いて駆け上がると、奴は塀に飛び移り、塀の上を数メートル走ったかと思うと、塀の向こうに着地。わたしは一気に塀を飛び越えてあとを追う!

 外では、もう女生徒の姿ではなく、大きめのネコになっている。制服のリボンが首に無ければ確信が持てなかったかもしれない。

 予測がついた。次の角を曲がって民家の庭を抜けて、向こうの道路に逃げる気だ。

 漆黒の姫騎士を舐めるんじゃない!

 小さくジャンプして、増幅した力でさらにジャンプ。先回りした路上で待ち受ける。

 存外、バカでも無いのだろう。そいつはO学園の女生徒に化けなおして、あたかも、その家から出てきた風を装っている。

 こちらも殺気を消して、手前の家に帰宅するようにすれ違う。

 トーーーッ!!

 すれ違いざまに、渾身の回し蹴り!

 ドゴッ!!

 きれいに延髄を直撃。

 グニャ!!

 衝撃で、顔面が猫に戻り、一目散に経堂駅方向に逃げていく。

 そいつは二股の尾っぽを持った猫の後姿だった。

 このあたりの犬や猫は、みな妖なのか?

 

 
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