ピボット高校アーカイ部

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
27 / 32

27『三人で歩いた先の海』

しおりを挟む
ピボット高校アーカイ部     

27『三人で歩いた先の海』




 立ち話もなんなので、三人で歩く。先輩は自転車を押しながらろってと並び、僕は、その後に続く。

 貫川の堤防道に出た。

「ええと……ええとですね……」

 話があると、お土産のクラプフェンまで持ってきたろってだけど、話すとなると、なかなか考えがまとまらない感じで、「ええと」と「ええとですね」を繰り返している。

 放課後の堤防は、うち以外にも小中の生徒や、他校生もチラホラ歩いている。

 同じ方向やら逆方向やら、そいつらの視線が痛い。

 アニメからそのまま出てきたんじゃないかって感じの美少女二人といっしょの男は、それだけで社会悪という感じ。

 ガン見する奴こそ居ないけど、痛い視線は、向こう岸の堤防道や、とぎれとぎれに並行している二車線の県道からも感じる。

「ふふ、この雰囲気も楽しいが、このままでは鋲が悶死してしまいそうだ。まとまらなくていいから、話してやれ」

「は、はい……」

「「…………」」

「ヤコブ軍曹が、わたしに託したのは娘さんのロッテのことだけじゃないような気がするんです」

「だけじゃないとしたら、何なんだ?」

「それが分からないんです」

「百年もたってるんですよ……それでも意識が残っている……ちょっと不思議」

「そうだな……」

「託されたのはロッテのこと以外にもあって、それが大事な気がするんです」

「他にもあるというのか?」

「はい……自分で言うのもなんですが、わたしはとても可愛い人形でした」

「むむ(#`_´#)」

「なんで、そこで対抗意識持つんですか!」

「いや、すまん」

「要の人たちも、とても捕虜のドイツ人に優しくて……」

「要は、そういう街だ」

「ロシアの捕虜になったドイツ兵はひどい扱いを受けているって、噂なんかも伝わってきたんです」

「ロシアは革命の真っ最中だったからな」

「捕虜の人たちは思ったんです。要の街のような平和が続いたらいいと……できあがったわたしを見る目には、そういう気持ちが籠っていました」

「そうだな……」

 先輩も、その時代に作られたから感じるところがあるんだろう……僕は、聞き役に徹しようと思った。

「捕虜は何百人も居て、いろんな思いがあったような気がするんです。ヤコブ軍曹は中流の都会人でしたけど、貴族の者も貧しいお百姓出身の兵隊もいましたから……それこそ、国に残した家族を思う者や、ドイツの行方を思う者、世界中の平和を願う者……そういう思いが……あ、海だ」

「おお、知らぬ間に歩いてしまったな」



 僕たちは、要港を臨む河口まで歩いてしまった。



「ドラヘ岩に登ろう!」

 言うと、先輩は自転車を放り出して駆けていく。ろっても後に続いてドラヘ岩に走っていく。僕は砂に脚をとられながらも自転車を担いで防潮堤の傍に立てかける。

「あ、外れてる……」

 乱暴に放り出されて、自転車はチェーンが外れていた。

 チェーンを直し、油と汚れでギトギトになった手を渚の海水で洗ってからドラヘ岩に向かった。



「……そうか、この要の海のような願いだったのだな」

「は、はい。うまく言えないですけど、こんな感じです」



 僕がモタモタしているうちに、二人は岩場から海を眺め、なんだか共通理解に至ったようだ。

 先輩は、腕を組んで右足を一段高い岩に掛け、なんだか海に漕ぎだす女海賊の頭目のようだった。

 僕は、女海賊の雑用係の手下か……まあ、いいけど。

 三人で、しばらく海を眺めて帰った。



☆彡 主な登場人物

田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...