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23『ろって・2』
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ピボット高校アーカイ部
23『ろって・2』
自転車二台がプッペをめざしている。
前の自転車は僕。後ろの自転車は先輩だ。
先輩の自転車の荷台にはウィンドブレーカーのフードをすっぽり被った女子が、先輩の背中にしがみ付いて乗っている。
微妙に変なんだけど、まあ、部活で遅れた生徒が帰宅の風景には見えているだろう。
実は、先輩にしがみ付いているのはロッテなんだ。
生徒手帳の切れはしにロッテを憑依させて部室に戻って、先輩は、自分の日常体に憑依させ直した。
同じ人形として、体が無いロッテを可哀そうに思ったんだ。
雑で変態の先輩だけど、根っこにあるのは、優しさなんだろうね。
むろん、僕に説明したりはしないんだけど、先輩の目の色を見ていれば分かる。
先輩は二つのボディーを持っていて、日常の学校生活と部活で切り替えている。
先輩は、部活中で休止状態の日常体をロッテに使わせてやろうと、泰西寺から自転車をとばして部室に戻ってきた。
ところが、憑依し直すのはいいけど、日常体には頭が無い。
そこで、レジ袋に紙くずを詰め込んで頭の大きさにしてソケットにくっつけて、ウィンドブレーカーを着せてあるんだ。
「プッペに行くぞ!」
その一言で分かった。先輩は、ロッテをちゃんとした人形にしてやりたいんだ。
「プッペに行ってなんとかなります?」
「ああ、今日はメンテナンス後最初の検診の日で、一石氏が来ている」
そうか、あの精霊技師の一石さんなら、なんとかしてくれるかもしれない。
その会話以外は一言も喋らない先輩。
ロッテが可哀想で、ロッテの運命が呪わしくて、出会った直後に気付いてやれなかった自分が腹立たしくて、先輩はがむしゃらにペダルをこいでいるんだ。
「やれやれ……」
一石さんは、最初にひとことため息交じりにこぼしただけで、ロッテの診察に移った。
「……ちょっと無理があるけど、なんとか馴染んでるね。日常体は優しくできているから、小さな子のソウルでも受け入れられるみたいだね」
「よかった……」
「でも、問題は首なんじゃないですか?」
マスターが最大の問題点を指摘する。
「仕方がない、補修用のラウゲン樹脂を使おう」
一石さんは、往診用の革鞄から、樹脂のチューブを取り出した。
「これだけで足りるのか、先生?」
まるで、妹の治療が気になって仕方がないお姉ちゃんのように先輩が眉を顰める。
「そうだね、なにか芯になるような……イルネさん、そのブロートいただけますか?」
「あ、はい、どうぞ」
ブロートは、少し大きめの硬いパンで、芯にするにはうってつけ……て、いいんだろうか!?
「なあに、焼き上がったら、ブロートは掻きだして食べればいい」
一石さんは、ブロートにラウゲン樹脂を盛って、ほんの三十分ほどで女の子のヘッドを作ってしまった。
「小顔で可愛いな……」
「ちょっと、先輩の妹って感じですね」
「そ、そうか(^o^;)」
「あ、頭に塗るラウゲン液はちがうんですね」
「うん、髪の毛と眉毛の生えてくるところは、種類がちがうんだ」
「どんな髪になるんだろうなあ(^^♪」
「用意してきた訳じゃないから、普通のブロンドだね。さ、あとは焼き上がりを待つだけだ」
イルネさんが窯に入れて、温度設定。
焼き上がるまで、ラボのテーブルを囲んでお茶にする。
チーーン
三十分焼いて、出てきたのは、やや童顔なかわいい女の子のヘッドだ。
ちょっと、芯材に使ったブロートが心配だったけど、一石さんは器用に抜き出した。
ブロートとは分かっていても、ヘッドの中から掻きだされては、ちょっと(^_^;)という感じだったので、丸々抜きだすというのは抵抗が少ない。
みんなで食べた。
より香ばしくなって美味しかったんだけど、あとになってみると、やっぱり複雑な気がしないでもない。
「え、これが、わたしなの?」
首を装着したロッテは、鏡に映った自分が不思議でたまらない感じだったけど、シゲシゲと映しているうちに、しだいにバラのように頬を染めていく。
「う、うれしい……」
百年後に、やっと自在に動く体を手に入れたロッテは「うれしい」と言っただけなんだけど、万感の思いが籠っていて、先輩でなくても感動した。
学校に連れて帰るわけにもいかず、ロッテはプッペで働くことになった。
店員の制服の胸には「ろって」と平仮名の名札が付けられた。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなか びょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなか らこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
中井さん ピボット高校一年 鋲のクラスメート
田中 勲(たなか いさお) 鋲の祖父
田中 博(たなか ひろし) 鋲の叔父 新聞社勤務
プッペの人たち マスター イルネ
一石 軍太 ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン) 精霊技師
23『ろって・2』
自転車二台がプッペをめざしている。
前の自転車は僕。後ろの自転車は先輩だ。
先輩の自転車の荷台にはウィンドブレーカーのフードをすっぽり被った女子が、先輩の背中にしがみ付いて乗っている。
微妙に変なんだけど、まあ、部活で遅れた生徒が帰宅の風景には見えているだろう。
実は、先輩にしがみ付いているのはロッテなんだ。
生徒手帳の切れはしにロッテを憑依させて部室に戻って、先輩は、自分の日常体に憑依させ直した。
同じ人形として、体が無いロッテを可哀そうに思ったんだ。
雑で変態の先輩だけど、根っこにあるのは、優しさなんだろうね。
むろん、僕に説明したりはしないんだけど、先輩の目の色を見ていれば分かる。
先輩は二つのボディーを持っていて、日常の学校生活と部活で切り替えている。
先輩は、部活中で休止状態の日常体をロッテに使わせてやろうと、泰西寺から自転車をとばして部室に戻ってきた。
ところが、憑依し直すのはいいけど、日常体には頭が無い。
そこで、レジ袋に紙くずを詰め込んで頭の大きさにしてソケットにくっつけて、ウィンドブレーカーを着せてあるんだ。
「プッペに行くぞ!」
その一言で分かった。先輩は、ロッテをちゃんとした人形にしてやりたいんだ。
「プッペに行ってなんとかなります?」
「ああ、今日はメンテナンス後最初の検診の日で、一石氏が来ている」
そうか、あの精霊技師の一石さんなら、なんとかしてくれるかもしれない。
その会話以外は一言も喋らない先輩。
ロッテが可哀想で、ロッテの運命が呪わしくて、出会った直後に気付いてやれなかった自分が腹立たしくて、先輩はがむしゃらにペダルをこいでいるんだ。
「やれやれ……」
一石さんは、最初にひとことため息交じりにこぼしただけで、ロッテの診察に移った。
「……ちょっと無理があるけど、なんとか馴染んでるね。日常体は優しくできているから、小さな子のソウルでも受け入れられるみたいだね」
「よかった……」
「でも、問題は首なんじゃないですか?」
マスターが最大の問題点を指摘する。
「仕方がない、補修用のラウゲン樹脂を使おう」
一石さんは、往診用の革鞄から、樹脂のチューブを取り出した。
「これだけで足りるのか、先生?」
まるで、妹の治療が気になって仕方がないお姉ちゃんのように先輩が眉を顰める。
「そうだね、なにか芯になるような……イルネさん、そのブロートいただけますか?」
「あ、はい、どうぞ」
ブロートは、少し大きめの硬いパンで、芯にするにはうってつけ……て、いいんだろうか!?
「なあに、焼き上がったら、ブロートは掻きだして食べればいい」
一石さんは、ブロートにラウゲン樹脂を盛って、ほんの三十分ほどで女の子のヘッドを作ってしまった。
「小顔で可愛いな……」
「ちょっと、先輩の妹って感じですね」
「そ、そうか(^o^;)」
「あ、頭に塗るラウゲン液はちがうんですね」
「うん、髪の毛と眉毛の生えてくるところは、種類がちがうんだ」
「どんな髪になるんだろうなあ(^^♪」
「用意してきた訳じゃないから、普通のブロンドだね。さ、あとは焼き上がりを待つだけだ」
イルネさんが窯に入れて、温度設定。
焼き上がるまで、ラボのテーブルを囲んでお茶にする。
チーーン
三十分焼いて、出てきたのは、やや童顔なかわいい女の子のヘッドだ。
ちょっと、芯材に使ったブロートが心配だったけど、一石さんは器用に抜き出した。
ブロートとは分かっていても、ヘッドの中から掻きだされては、ちょっと(^_^;)という感じだったので、丸々抜きだすというのは抵抗が少ない。
みんなで食べた。
より香ばしくなって美味しかったんだけど、あとになってみると、やっぱり複雑な気がしないでもない。
「え、これが、わたしなの?」
首を装着したロッテは、鏡に映った自分が不思議でたまらない感じだったけど、シゲシゲと映しているうちに、しだいにバラのように頬を染めていく。
「う、うれしい……」
百年後に、やっと自在に動く体を手に入れたロッテは「うれしい」と言っただけなんだけど、万感の思いが籠っていて、先輩でなくても感動した。
学校に連れて帰るわけにもいかず、ロッテはプッペで働くことになった。
店員の制服の胸には「ろって」と平仮名の名札が付けられた。
☆彡 主な登場人物
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