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12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』
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ピボット高校アーカイ部
12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』
ちょっと未来に行ってみよう。
そう言って、先輩は魔法陣を稼働させた。
シュビーーーン
魔法陣はいつもと違う、なんだかすりガラスを爪でひっかくような、嫌な音をさせる。
「本来は過去に向かう設定だからな、未来に行くのは抵抗が大きい……」
グガガギガガギィィィィィ……
すごく嫌な音をさせて魔法陣は停止した。
なぜか先輩は恍惚とした表情だ。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、すまん。嫌な音なんだが、てっぺんまで行って痺れる感じはクセに……なったらダメだぞ!」
「な、なりませんよ(-_-;)」
ドガ!
「ツッゥゥゥ!」
一歩踏み出そうとしたら、見えない壁に、したたか鼻をぶつけてしまう。
「やっぱりな……覗けるだけで、出ることはできないんだ」
言われてみれば、いつもの『また来て四角』が無い。
「こっちだ」
「ちょ、近すぎ……」
先輩が体の向きを変えると、体のあちこちが接触してしまう。
「無理して、ここまで来たからな、可動面積は電話ボックスほどしかないようだ。いくぞ……」
「先輩、お尻が……」
「尻は誰にでもあるもんだ、気にするな」
「…………」
着いた先は……ボクが卒業した小学校だ。
なんとか、先輩との間に五センチほどの隙間を空けて校門の前にたどり着く。
五年生の時に新築された校舎は、そのままなんだけど、ひどくくたびれている。
窓のいくつかには『さわってはいけません』と一年生でも分かる注意書きが貼ってある。
「このころの要市は、かなり貧乏なようだな」
一階の廊下を進んでいくと、先生らしい人とすれ違ったけど、咎められない。
「よっと」
先輩が横に脚を出すんだけど、後ろの先生の脚は引っかからない。
「見えないし、すり抜けてしまうようだな」
「引っかかったらどうするんですか!」
「だから二人目にした。倒れてもスキンシップになるだろ……この教室にしよう」
それは六年生の教室で、歴史の授業をやっている。
「ほう、やっぱり、全員前を向いてメダカの学校なんだ」
「授業って、こういうもんじゃないんですか?」
「平成から令和にかけては、いろいろ試されてな。教室の壁を取っ払ったり、机を自由に置かせたりしたもんだがな。やっぱり、これがいちばん落ち着くんだろう」
黒板は、とっくに電子黒板になって、児童の机には仮想インタフェイスが立ち上がって、黒板と同じ内容が映し出されている。
「おい、ちゃんとノートをとってるぞ!」
「ほんとだ!」
インタフェイスこそ仮想だけども、机に広げられているのはリアルノートだ。
子どもたちは、ボクの時代と変わらないシャーペンでノートに書いている。
「見ろ、あの子は鉛筆だぞ!」
「ほんとだ!」
見渡すと、鉛筆を使っている子が四人、中には、肥後守で削っているような子も居て、とても新鮮だ。
「校舎はボロだけど、なかなかいい感じですね」
「問題は黒板だ」
「え?」
黒板を見ると、ちょうど日本の古代を教えているところで『憲法十七条』と『冠位十二階』が書かれて、その横には見慣れた顔が写されている。
厩戸皇子(うまやどのみこ)
顔の下のは、そう書かれている。
「この人は、用命天皇の皇子で、朝廷の制度改革の中心になった人です。一説に寄るとお母さんの妃が宮中見回りの途中、馬小屋の前で産気づいて馬小屋で生まれたとか、十人の話をいっぺんに聞き分けたとかという伝説があります」
「キリストと同じだ……」
「ユダヤ教にも似た話が……」
「イスラムにも……」
子どもたちから囁き声が聞こえる。
「そうですね、いろんな説や教えが影響していると思われます。だいたい、天皇の皇子が馬小屋で生まれるはずはないし、AIでもなければ、十人の話をいっぺんに聞けるはずもありません」
そういうと、先生は厩戸皇子に大きなバッテンを上書きした。
子どもたちがケラケラと笑う。
「つまり、国にとって重要な改革だったので、こういう人物を仕立て上げたんですねえ。だから、大事なことは、そういう改革が行われたという事実の方です」
聖徳太子を否定しちまった……。
「じゃ、厩戸皇子という人はいなかったんですか?」
利発そうな女の子が聞いた。
「いい質問ですね。厩戸皇子という皇子は存在しました。でも、伝説で云われてるような偉い人ではなかったと思われます。ほら、令和の昔に仮想アイドルというのがありましたね。いまもあるけど、そういう仮想アイドルにも誕生秘話とか成育歴とか設定されるでしょ。そんな感じかな」
ああ……バーチャルアイドルと同じにしちゃった。
「やはりな……よし、修正作業は次の部活でやることにしよう」
「もう、未来に来ることはないんですよね」
「いや、でも、次はもっと快適に来られるように工夫しよう」
「は、はあ……」
帰りは、そのまま魔法陣に戻れたので、ま、いいか……(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなか びょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなか らこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
田中 勲(たなか いさお) 鋲の祖父
田中 博(たなか ひろし) 鋲の叔父 新聞社勤務
12『ちょっと無理して未来に飛ぶ』
ちょっと未来に行ってみよう。
そう言って、先輩は魔法陣を稼働させた。
シュビーーーン
魔法陣はいつもと違う、なんだかすりガラスを爪でひっかくような、嫌な音をさせる。
「本来は過去に向かう設定だからな、未来に行くのは抵抗が大きい……」
グガガギガガギィィィィィ……
すごく嫌な音をさせて魔法陣は停止した。
なぜか先輩は恍惚とした表情だ。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、すまん。嫌な音なんだが、てっぺんまで行って痺れる感じはクセに……なったらダメだぞ!」
「な、なりませんよ(-_-;)」
ドガ!
「ツッゥゥゥ!」
一歩踏み出そうとしたら、見えない壁に、したたか鼻をぶつけてしまう。
「やっぱりな……覗けるだけで、出ることはできないんだ」
言われてみれば、いつもの『また来て四角』が無い。
「こっちだ」
「ちょ、近すぎ……」
先輩が体の向きを変えると、体のあちこちが接触してしまう。
「無理して、ここまで来たからな、可動面積は電話ボックスほどしかないようだ。いくぞ……」
「先輩、お尻が……」
「尻は誰にでもあるもんだ、気にするな」
「…………」
着いた先は……ボクが卒業した小学校だ。
なんとか、先輩との間に五センチほどの隙間を空けて校門の前にたどり着く。
五年生の時に新築された校舎は、そのままなんだけど、ひどくくたびれている。
窓のいくつかには『さわってはいけません』と一年生でも分かる注意書きが貼ってある。
「このころの要市は、かなり貧乏なようだな」
一階の廊下を進んでいくと、先生らしい人とすれ違ったけど、咎められない。
「よっと」
先輩が横に脚を出すんだけど、後ろの先生の脚は引っかからない。
「見えないし、すり抜けてしまうようだな」
「引っかかったらどうするんですか!」
「だから二人目にした。倒れてもスキンシップになるだろ……この教室にしよう」
それは六年生の教室で、歴史の授業をやっている。
「ほう、やっぱり、全員前を向いてメダカの学校なんだ」
「授業って、こういうもんじゃないんですか?」
「平成から令和にかけては、いろいろ試されてな。教室の壁を取っ払ったり、机を自由に置かせたりしたもんだがな。やっぱり、これがいちばん落ち着くんだろう」
黒板は、とっくに電子黒板になって、児童の机には仮想インタフェイスが立ち上がって、黒板と同じ内容が映し出されている。
「おい、ちゃんとノートをとってるぞ!」
「ほんとだ!」
インタフェイスこそ仮想だけども、机に広げられているのはリアルノートだ。
子どもたちは、ボクの時代と変わらないシャーペンでノートに書いている。
「見ろ、あの子は鉛筆だぞ!」
「ほんとだ!」
見渡すと、鉛筆を使っている子が四人、中には、肥後守で削っているような子も居て、とても新鮮だ。
「校舎はボロだけど、なかなかいい感じですね」
「問題は黒板だ」
「え?」
黒板を見ると、ちょうど日本の古代を教えているところで『憲法十七条』と『冠位十二階』が書かれて、その横には見慣れた顔が写されている。
厩戸皇子(うまやどのみこ)
顔の下のは、そう書かれている。
「この人は、用命天皇の皇子で、朝廷の制度改革の中心になった人です。一説に寄るとお母さんの妃が宮中見回りの途中、馬小屋の前で産気づいて馬小屋で生まれたとか、十人の話をいっぺんに聞き分けたとかという伝説があります」
「キリストと同じだ……」
「ユダヤ教にも似た話が……」
「イスラムにも……」
子どもたちから囁き声が聞こえる。
「そうですね、いろんな説や教えが影響していると思われます。だいたい、天皇の皇子が馬小屋で生まれるはずはないし、AIでもなければ、十人の話をいっぺんに聞けるはずもありません」
そういうと、先生は厩戸皇子に大きなバッテンを上書きした。
子どもたちがケラケラと笑う。
「つまり、国にとって重要な改革だったので、こういう人物を仕立て上げたんですねえ。だから、大事なことは、そういう改革が行われたという事実の方です」
聖徳太子を否定しちまった……。
「じゃ、厩戸皇子という人はいなかったんですか?」
利発そうな女の子が聞いた。
「いい質問ですね。厩戸皇子という皇子は存在しました。でも、伝説で云われてるような偉い人ではなかったと思われます。ほら、令和の昔に仮想アイドルというのがありましたね。いまもあるけど、そういう仮想アイドルにも誕生秘話とか成育歴とか設定されるでしょ。そんな感じかな」
ああ……バーチャルアイドルと同じにしちゃった。
「やはりな……よし、修正作業は次の部活でやることにしよう」
「もう、未来に来ることはないんですよね」
「いや、でも、次はもっと快適に来られるように工夫しよう」
「は、はあ……」
帰りは、そのまま魔法陣に戻れたので、ま、いいか……(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなか びょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなか らこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
田中 勲(たなか いさお) 鋲の祖父
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