7 / 32
7『先輩と川に入る』
しおりを挟む
ピボット高校アーカイ部
7『先輩と川に入る』
くの字に曲がる小川の手前まで来て、先輩は立ち止まった。
「ここを曲がった先、小川の向こう岸にお婆さんが現れる。そのお婆さんを観察するのが、今日の部活だ」
「あ、そうですか」
「念のため、靴と靴下は脱いでおいてくれ」
「え?」
「理由は聞くな、わたしも脱ぐから」
そう言うと、先輩は器用に立ったまま靴と靴下を脱ぐ。
たかが、靴と靴下なんだけど、ドキッとする。
片足ずつしか脱げないので、脱ぐたびに先輩の片足が上がって、太ももの1/3くらいが露わになるし、くるぶしから下の生足が露出するし。
「ズボンもたくし上げておいてくれ」
「ひょっとして、川に入ります?」
「可能性の問題だが、とっさに間に合うようにしておきたい。さ、行くぞ」
くの字の角を曲がって薮に身を潜めると、向こう岸にお婆さんが現れて盥の中の布めいたものを水に漬けはじめた。
お祖父ちゃんの影響で、あれこれ知識のあるボクは、お婆さんが染色の職人さんのように思えた。
今でも、地方に行けば染色の職人さんとかが、染めの段階で糊や、余計な染料を洗い流すために川を使うのを知っているからだ。お婆さんの出で立ちも裾の短い藍染の着物だったりするので、その線だと思った。
「ただの洗濯だ」
「え……ということは」
「黙って見ていろ」
「はい」
待つこと数分、先輩のシャンプーの香りなんかにクラクラし始めたとき、先輩が、小さく、でも鋭く言った。
「来たぞ!」
見ると、川上の方から大きめのスイカほどの桃がスイスイ流れてきた。
「桃は、スイスイではなくて、ドンブラコドンブラコだろ……」
「は、はあ……」
ドンブラコドンブラコというのは、川底に岩とかがあって、流れが複雑で揺れている感じなんだけど、桃は、性能のいいベルトコンベアの上を行くように、ほとんど揺れることがない。だからスイスイなんだけど、先輩には逆らわない方がいい。
穏やかに流れてきた桃は、ゆっくりと御婆さんの前に差し掛かってきた。
「ここからだ……」
お婆さんは、染め物職人のように洗濯に集中しているせいか、気付くことも無く、桃は、お婆さんの目の前を通り過ぎる。
チッ
舌打ち一つすると、先輩は女忍者のように川下の方に駆けていく。僕もそれに倣って川下へ。
くの字の角を戻ったところで、川に入る。
「少し深い」
先輩は、スカートの裾を摘まみ上げるとクルっと結び目を作って、丈を短くした。
太ももの、ほぼ全貌が見えて、思わず目を背ける。
「見かけよりも重いぞ」
「え?」
一瞬、先輩のお尻に目がいってトンチンカンになる。
「しっかり持て!」
「は、はい」
それと分かって、二人で桃を持ち上げて向こう岸にあがる。
「すぐに、上流に行くぞ」
「はい」
二人並ぶようにして桃を持ち上げ、お婆さんを避けつつ小走りで、百メートルほど上で川に入る。
「急げ、ゆっくりと!」
「は、は……あ!」
矛盾した指示にバランスを崩してしまう!
ジャプン
「「………………」」
努力の半分が水の泡。
二人とも、川の中に転んでしまって、もう、胸から下がビチャビチャ。
しかし、桃は無事に川の流れにのって流れていく。
「鋲、念には念をだ!」
「はい?」
急いで岸に上がると、お婆さんの後ろ側の土手に隠れる。
先輩は、野球ボールくらいの石を拾うと、迫ってきた桃の前方に投げた。
ドプン!
さすがに気づいたお婆さんは、洗濯の手を停めて、川の中に入ると「ヨッコラショ」と桃を持ち上げた。
「うまく行ったぁ!」
「ちょ、先輩!」
感激した先輩は、濡れたままの胸で抱き付いてきて、僕はオタオタするばかり。
お婆さんが無事に桃を持って帰るのを確認して、僕たちはゲートを潜って部室に戻って行った。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなかびょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなからこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
7『先輩と川に入る』
くの字に曲がる小川の手前まで来て、先輩は立ち止まった。
「ここを曲がった先、小川の向こう岸にお婆さんが現れる。そのお婆さんを観察するのが、今日の部活だ」
「あ、そうですか」
「念のため、靴と靴下は脱いでおいてくれ」
「え?」
「理由は聞くな、わたしも脱ぐから」
そう言うと、先輩は器用に立ったまま靴と靴下を脱ぐ。
たかが、靴と靴下なんだけど、ドキッとする。
片足ずつしか脱げないので、脱ぐたびに先輩の片足が上がって、太ももの1/3くらいが露わになるし、くるぶしから下の生足が露出するし。
「ズボンもたくし上げておいてくれ」
「ひょっとして、川に入ります?」
「可能性の問題だが、とっさに間に合うようにしておきたい。さ、行くぞ」
くの字の角を曲がって薮に身を潜めると、向こう岸にお婆さんが現れて盥の中の布めいたものを水に漬けはじめた。
お祖父ちゃんの影響で、あれこれ知識のあるボクは、お婆さんが染色の職人さんのように思えた。
今でも、地方に行けば染色の職人さんとかが、染めの段階で糊や、余計な染料を洗い流すために川を使うのを知っているからだ。お婆さんの出で立ちも裾の短い藍染の着物だったりするので、その線だと思った。
「ただの洗濯だ」
「え……ということは」
「黙って見ていろ」
「はい」
待つこと数分、先輩のシャンプーの香りなんかにクラクラし始めたとき、先輩が、小さく、でも鋭く言った。
「来たぞ!」
見ると、川上の方から大きめのスイカほどの桃がスイスイ流れてきた。
「桃は、スイスイではなくて、ドンブラコドンブラコだろ……」
「は、はあ……」
ドンブラコドンブラコというのは、川底に岩とかがあって、流れが複雑で揺れている感じなんだけど、桃は、性能のいいベルトコンベアの上を行くように、ほとんど揺れることがない。だからスイスイなんだけど、先輩には逆らわない方がいい。
穏やかに流れてきた桃は、ゆっくりと御婆さんの前に差し掛かってきた。
「ここからだ……」
お婆さんは、染め物職人のように洗濯に集中しているせいか、気付くことも無く、桃は、お婆さんの目の前を通り過ぎる。
チッ
舌打ち一つすると、先輩は女忍者のように川下の方に駆けていく。僕もそれに倣って川下へ。
くの字の角を戻ったところで、川に入る。
「少し深い」
先輩は、スカートの裾を摘まみ上げるとクルっと結び目を作って、丈を短くした。
太ももの、ほぼ全貌が見えて、思わず目を背ける。
「見かけよりも重いぞ」
「え?」
一瞬、先輩のお尻に目がいってトンチンカンになる。
「しっかり持て!」
「は、はい」
それと分かって、二人で桃を持ち上げて向こう岸にあがる。
「すぐに、上流に行くぞ」
「はい」
二人並ぶようにして桃を持ち上げ、お婆さんを避けつつ小走りで、百メートルほど上で川に入る。
「急げ、ゆっくりと!」
「は、は……あ!」
矛盾した指示にバランスを崩してしまう!
ジャプン
「「………………」」
努力の半分が水の泡。
二人とも、川の中に転んでしまって、もう、胸から下がビチャビチャ。
しかし、桃は無事に川の流れにのって流れていく。
「鋲、念には念をだ!」
「はい?」
急いで岸に上がると、お婆さんの後ろ側の土手に隠れる。
先輩は、野球ボールくらいの石を拾うと、迫ってきた桃の前方に投げた。
ドプン!
さすがに気づいたお婆さんは、洗濯の手を停めて、川の中に入ると「ヨッコラショ」と桃を持ち上げた。
「うまく行ったぁ!」
「ちょ、先輩!」
感激した先輩は、濡れたままの胸で抱き付いてきて、僕はオタオタするばかり。
お婆さんが無事に桃を持って帰るのを確認して、僕たちはゲートを潜って部室に戻って行った。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなかびょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなからこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる