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36『門前のオオクニヌシ』

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誤訳怪訳日本の神話

36『門前のオオクニヌシ』  

 

  オオクニヌシがヤチホコノカミとして越の国(福井・富山・新潟)に向かったのはヌナカハヒメを口説き落とすためと古事記には書いてありますが、これはオオクニヌシに代表される出雲勢力が北上して、北陸地方に力を伸ばしたことを現しているのではないかと思います。

 大和朝廷の勢力は、その名の通り大和(奈良県)が本拠で、4世紀に勢力を広げて、5世紀には関東以南を支配下に置きます。

 当然、それぞれの地方には支配者が居たわけで、大和勢力は、硬軟様々な手法で地方政権と渡り合いました。

 その実相を明らかにするような能力はありませんので、得意の妄想で迫ったり脱線したりしたいと思います(^_^;)。

 越の国は古くから宝玉である翡翠(ひすい)の産地であります。薄緑の宝石で、古代には玉や勾玉に加工されて、単なる装身具だけではなく、呪術的な力を持った宝器とし扱われました。

 その翡翠の女神様がヌナカハヒメで、おそらくは越の国の主神、あるいは主神クラスの女神に違いなく、令和の今日でも糸魚川あたりの三か所にヌナカハヒメを祀った神社があります。

 
 オオクニヌシはヌナカハヒメの宮殿の前まで来ると、歌(和歌)を送って、姫のご機嫌をうかがいます。

「越の国に美しい姫がおられると聞いて、矢も楯もたまらずに、出雲からやってきました。美しい姫とはヌナカハヒメ、貴女の事です。どうか門を開いて、このヤチホコノカミに顔を見せてください!」

 意味としては、上のような和歌を門の外から姫に送ります。

 どんなニュアンスであったのかを訳す能力がありませんので、おおよその訳です(^_^;)。

 古代における恋愛は妻問婚が基本です。近年まで使われた言葉では『夜這い』でありましょうか。

 話は飛びますが、西郷隆盛が西南戦争で政府軍に夜襲をかけようと、深夜、鹿児島部隊を引き連れ、息を殺して敵陣地に向かいます。部隊の薩摩士族たちは、ものすごく緊張して息を潜めて進みます。

「まっで、ヨベのごたる」

 口語訳すると「まるで、夜這いに行くみたいだなあ」になりますが、鹿児島弁でないとおかしみが伝わりません(#^―^#)。

 西郷が呟くと、夜襲部隊のあちこちからクスクスと笑い声が起こります。

 この、ユーモアの感覚は独特のもので、西郷の魅力の一つなのですが、主題ではありません。

 鹿児島士族の若者には『夜這い』のイメージを浮かべるとクスクスになるのですね。

 真剣で、時めきながらも、どこか可笑しい男の姿であります。

 いまでは、夜這いという風俗はありません。遊学旅行で「おい、あそこから女子の風呂が覗けるぞ!」と情報を得て、男子こぞって覗きに行く感覚に近いと言えましょうか。

 ヌナカハヒメの門前に立った時のオオクニヌシは、むろん一人です。

 ヌナカハヒメは返事を寄こしません。一度の手紙や歌で反応するのは無作法なのですねえ。

 なんだか、女の方がガッツいている印象になります。

 何度か、オオクニヌシからの便りがあって、やっとヌナカハヒメは返事を出します。

 そういう駆け引きややり取りが合って、やっと男女の関係になります。

 

 昔は、よく手紙を書きました。

 あ、オオクニヌシのではなく、わたしの昔です。

 わたしの青春時代にも電話はありましたが、一家に一台の固定電話です。

 携帯電話ではないので、誰が出るか分かりません。

 彼女の父親などが出たら最悪です。

 本人が出たとしても、娘に男から電話がかかってきたというのは丸わかりになってしまいます(^_^;)。

 また、電話で発する言葉はリアルタイムですので取り返しがつきません。

 そこで、いきおい手紙になります。

 手紙は、考えながら書きますし、書き直しもできます。

 電話やメールやラインと違って、やり取りに間合いがあります。ラインと違って既読のシグナルもありません。

 昔……ばかり枕詞のように言って恐縮です。

 かつては、雑誌に文通コーナーというのがあって、文通相手の募集とかやっていました。

 そういう、文通コーナーや、友だちの紹介や、部活の付き合いなどから「手紙書いていいですか?」とか「文通してもらえますか?」から始まって、やっと手紙を書いて、相手に着くのに二日。

 相手が読んで返事を出すのに、早くても二日。

 特急で、手紙が着いたその日に返事を出すことやもらうこともありましたが、ちょっと軽い感じがしないでもありませんでした。オオクニヌシが最初の歌に返事が来ると、こういう感じがしたでしょうね。

 相手が手紙を出してポストに投函して、着くのに二日。

 文通と言うのは往診と返信で、最低一週間、普通は十日から一か月。

 ライン一本、短い返事なら数秒で戻って来るのとは隔世の感があります。

 ダークダックスだったかの『幼なじみ』という歌の中に、こんなのがあります。

『出すあてなしのラブレター 書いて何度も読み返し 貴女のイニシャルなんとなく 書いて破いて 捨てた~っけ(^^♪』

 脱線しました(;^_^A

 次回はオオクニヌシとヌナカハヒメのその後に戻りますm(^_^;)m。

 
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