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33[水の惑星アクアリンド・3]

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宇宙戦艦三笠

33[水の惑星アクアリンド・3] 修一  




 あくる日は視察と親善訪問でいっぱいのスケジュ-ルだった。

 アクアリンドのIT施設、生命科学研究所、老人介護施設、交通システム管理センター、軍の閲兵、そして、たまたま日が重なった三年に一度の高校総合文化祭の観覧と目白押しだった。

―― やっぱ、この星おかしい ――

 クレアの言葉が、直接頭に飛び込んできた。老人介護施設の訪問が終わろうとした時だった。

「この星の歓待ぶりは格別だね……」

 俺は、会話の流れとしては自然な一言を発した。

 次の瞬間、俺とクレアはデコイと入れ替わった。

 昨夜、クレアとバーチャル映像を監視カメラなどにかましながら決めた合言葉だった。クレアが用意した修一とクレアそっくりのデコイと瞬時に入れ替わっていた。瞬間各種のカメラに微弱なノイズが入るが、気が付く者はいないだろう。また気づいたとしても、ノイズを解析し、二人がやったことに気づくころには三笠は、この星を離れている。


「これはこれは珍しい。旅の修行僧のお方とは」

 アクアリンド大陸南端の密林の中に、それはあった。


 アクア神の唯一の神殿であるセントアクア聖殿である。僧官長のアリウスが両手を広げ、若い修行僧姿の修一とクレアを神殿に招き入れた。アリウスは、どうやら二人の正体と、訪れた目的を知っている様子である。

「夕べ、夢を見ましてな。北の方角から、若い修行僧二人が訪れると。これもアクア神の賜物でしょう」

「僧官長さまのお教えと、アクア神のお導きがいただきたく、大陸のあちらこちらを経めぐり、ようやくアクアの神殿にたどりつくことができました」

「いずこから来られた方であろうと、このアクア神のみ教えを拝する方は同志です。どうぞ聖殿に入られよ」

「我々のような修行浅い者が、聖殿などに入ってよろしいのですか?」

「聖殿でなければ、神の声は聞こえませんでな……」

 聖殿は神殿の奥にある八角形の台座で、その上にマリア像に似たアクア神の神像があった。

「入られよ」

「「失礼いたします」」


 僧官長にいざなわれ、俺たちは台座の中に入った。中央に八角形の大きなクリスタルが、様々な色に変わりながら輝いて、中央でゆっくりと旋回していた。

「これが、アクア神の御神体。上の神像は、人の目を欺く……と言ってはなんですが、分かりやすく人に見せるために作られた、祈りの象徴にすぎません。八十年に一度新しいものと交換いたします。本当の神のお姿はこのクリスタルです。地球のお方」

「やはり、ご存じだったんですね」

「この星で、八十年以上前の記憶を持っているのは、わたし一人です。わたしは、今年で二百八十歳になりますが、世間には八十歳で通しています。だれも怪しみません」

「それは……みんな八十年以上前の記憶がないからですね」

 クレアの言葉に僧官長は、かすかな笑みをたたえて沈黙してしまった。

 深遠な、すごみのある沈黙だった。



☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
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