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30[グリンヘルドの遭難船・3]
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宇宙戦艦三笠
30[グリンヘルドの遭難船・3] クレア
エネルギーを注いであげると、エルマは話を続けた。
「……グリンヘルドの人口は200億を超えて久しいのです」
その一言は衝撃的だった。グリンヘルドもシュトルハーヘンも地球型の惑星で、大きさも大陸の面積も地球とほぼ変わらないことが分かっている。
……とすれば、惑星としてのキャパは80億ほどが限界で、惑星全体として手を打たなければならないのは容易に想像がつく。
「そこまで文明が発達しているのに、どうして人口の抑制を考えなかったんだ」
修一艦長は当たり前な質問をした。
わたしがボイジャーとして宇宙に出たころの地球は、まだ60憶ほど。現在は80億を目前に、人口の抑制を考え始め、その成果も出始めている。
「その文明の発達が災いなんです。増えた人口は他の惑星に移住させればいい。なまじ文明が進んでいるので、古くから、そう考えられてきました」
「それで、地球に目を付けたんですか」
樟葉が冷静に聞いた。
「ええ、皮肉ですが、地球の『宇宙戦艦ヤマト』がヒントになってしまいました」
「ヤマトが?」
「あれを受信して、地球の存在を知ると同時に、グリンヘルドとシュトルハーヘンの連合軍なら、デスラーのようなミスはしないと確信しました。上手い具合に地球人はエコ利権から、地球温暖化を信じ、数十年後に迫った寒冷化に目が向いていません。放っておいても地球の人類は100年ももちません。ところが、わがグリンヘルドもシュトルハーヘンも、もはや人口爆発に耐えられないところまできてしまいました。だから前倒しで地球人類の滅亡に乗り出したんです。もう地球には数千人の工作員を送っています。地球温暖化を信じさせるために。わたしの役割は、地球移送のための航路を開くことでした」
「あの……エルマさんは、なんで、そんな機密事項を、あたしたちに教えてくれるんですか」
樟葉は冷静だ、エルマの話の核心をついてきた。
「わたしたちの考え方は間違っていると思うようになってきたのです。温暖化を妄信している地球も救いがたい馬鹿ですが、他の惑星の人類を滅ぼして移住しようとするのは、もっと馬鹿です、間違っています。わたしたちは、科学的に思考を共有できるところまで文明が発達しています。でも、その思考共有は惑星間戦争の戦闘時の軍人にしか許されません。そして、知ったんです。テキサスとの戦闘で……」
エルマの目が深い悲しみ色に変わった。
「いったい何を?」
「弟は、工作員として地球に送り込まれていました。温暖化のことだけに関わっていればいいはずなのに、あの子は関係のない戦争に参加して命を落としました。その情報が戦闘中の思考共有で伝わってきました。それまで、軍は弟の名でメールを送ってきていました。わたしが怪しまないために。その後暗黒星団の監視に回され、生命維持装置がもたなくなり、救難信号を発し続けましたが、グリンヘルドは無視しました」
「そこまで、グリンヘルドは無慈悲なのか……」
「グリンヘルドは、一本の大きな木なんです……そしてわたしは枯れかけた一枚の葉っぱ。枯れた葉は、そのまま散っていくのが定めです。木は、枯れ落ちていく葉っぱに愛情など持ちません。グリンヘルドの摂理です」
「そんなこと……」
「来るわ」
不器用なわたしは、残ったもう一隻のロボット船に目を向けた。
「さような……」
プシュ
エルマがお別れの言葉を言い切る前に、ロボット船は一条のビームになってエルマの体を蒸発させた。直後、ロボット船は消えてなくなり、エルマの痕跡はシートに残った人型の窪み。それも、三人が驚いている数秒間で戻ってしまった。
「なんてことだ……」
修一が呟いて、樟葉とトシは言葉も無かった。
わたしには分かった。あのロボット船は、最後の力を振り絞ってエルマを弔ってやったんだ。
きれいなままで残ったエルマをきれいなままで逝かせてやるために。
わたしもボイジャーとして、ずっと宇宙を漂っていたから、機能を停止して……いわば死んだまま宇宙を漂うのは怖かったもの。
でも、三人には話してやらない。時間をかけて、少しずつ分かっていけばいい。
わたしは、記録と分析は得意だけども、お話するのは苦手だしね。
「監視船への照準完了」
「出力は50で」
「あんな船一隻なら10で十分だぞ」
砲術長の天音が異を唱える。
「跡形も残したくないんだ」
「分かった、出力50……設定完了」
「テーッ!」
三笠の光子砲は、エルマの船を完全に消滅させた。
言わなくても、修一には通じるものがあったのかもしれない。
☆ 主な登場人物
修一 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉 横須賀国際高校二年 航海長
天音 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ 横須賀国際高校一年 機関長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
クレア ボイジャーのスピリット
ウレシコワ ブァリヤーグの船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
30[グリンヘルドの遭難船・3] クレア
エネルギーを注いであげると、エルマは話を続けた。
「……グリンヘルドの人口は200億を超えて久しいのです」
その一言は衝撃的だった。グリンヘルドもシュトルハーヘンも地球型の惑星で、大きさも大陸の面積も地球とほぼ変わらないことが分かっている。
……とすれば、惑星としてのキャパは80億ほどが限界で、惑星全体として手を打たなければならないのは容易に想像がつく。
「そこまで文明が発達しているのに、どうして人口の抑制を考えなかったんだ」
修一艦長は当たり前な質問をした。
わたしがボイジャーとして宇宙に出たころの地球は、まだ60憶ほど。現在は80億を目前に、人口の抑制を考え始め、その成果も出始めている。
「その文明の発達が災いなんです。増えた人口は他の惑星に移住させればいい。なまじ文明が進んでいるので、古くから、そう考えられてきました」
「それで、地球に目を付けたんですか」
樟葉が冷静に聞いた。
「ええ、皮肉ですが、地球の『宇宙戦艦ヤマト』がヒントになってしまいました」
「ヤマトが?」
「あれを受信して、地球の存在を知ると同時に、グリンヘルドとシュトルハーヘンの連合軍なら、デスラーのようなミスはしないと確信しました。上手い具合に地球人はエコ利権から、地球温暖化を信じ、数十年後に迫った寒冷化に目が向いていません。放っておいても地球の人類は100年ももちません。ところが、わがグリンヘルドもシュトルハーヘンも、もはや人口爆発に耐えられないところまできてしまいました。だから前倒しで地球人類の滅亡に乗り出したんです。もう地球には数千人の工作員を送っています。地球温暖化を信じさせるために。わたしの役割は、地球移送のための航路を開くことでした」
「あの……エルマさんは、なんで、そんな機密事項を、あたしたちに教えてくれるんですか」
樟葉は冷静だ、エルマの話の核心をついてきた。
「わたしたちの考え方は間違っていると思うようになってきたのです。温暖化を妄信している地球も救いがたい馬鹿ですが、他の惑星の人類を滅ぼして移住しようとするのは、もっと馬鹿です、間違っています。わたしたちは、科学的に思考を共有できるところまで文明が発達しています。でも、その思考共有は惑星間戦争の戦闘時の軍人にしか許されません。そして、知ったんです。テキサスとの戦闘で……」
エルマの目が深い悲しみ色に変わった。
「いったい何を?」
「弟は、工作員として地球に送り込まれていました。温暖化のことだけに関わっていればいいはずなのに、あの子は関係のない戦争に参加して命を落としました。その情報が戦闘中の思考共有で伝わってきました。それまで、軍は弟の名でメールを送ってきていました。わたしが怪しまないために。その後暗黒星団の監視に回され、生命維持装置がもたなくなり、救難信号を発し続けましたが、グリンヘルドは無視しました」
「そこまで、グリンヘルドは無慈悲なのか……」
「グリンヘルドは、一本の大きな木なんです……そしてわたしは枯れかけた一枚の葉っぱ。枯れた葉は、そのまま散っていくのが定めです。木は、枯れ落ちていく葉っぱに愛情など持ちません。グリンヘルドの摂理です」
「そんなこと……」
「来るわ」
不器用なわたしは、残ったもう一隻のロボット船に目を向けた。
「さような……」
プシュ
エルマがお別れの言葉を言い切る前に、ロボット船は一条のビームになってエルマの体を蒸発させた。直後、ロボット船は消えてなくなり、エルマの痕跡はシートに残った人型の窪み。それも、三人が驚いている数秒間で戻ってしまった。
「なんてことだ……」
修一が呟いて、樟葉とトシは言葉も無かった。
わたしには分かった。あのロボット船は、最後の力を振り絞ってエルマを弔ってやったんだ。
きれいなままで残ったエルマをきれいなままで逝かせてやるために。
わたしもボイジャーとして、ずっと宇宙を漂っていたから、機能を停止して……いわば死んだまま宇宙を漂うのは怖かったもの。
でも、三人には話してやらない。時間をかけて、少しずつ分かっていけばいい。
わたしは、記録と分析は得意だけども、お話するのは苦手だしね。
「監視船への照準完了」
「出力は50で」
「あんな船一隻なら10で十分だぞ」
砲術長の天音が異を唱える。
「跡形も残したくないんだ」
「分かった、出力50……設定完了」
「テーッ!」
三笠の光子砲は、エルマの船を完全に消滅させた。
言わなくても、修一には通じるものがあったのかもしれない。
☆ 主な登場人物
修一 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉 横須賀国際高校二年 航海長
天音 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ 横須賀国際高校一年 機関長
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