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22[暗黒星雲 惑星ろんりねす・2]

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宇宙戦艦三笠

22[暗黒星団 惑星ろんりねす・2]   




 予想はしていたがスカイツリーは無かった。

 公衆電話がやたらに多く、当然歩きスマホをしている人もいない。ただ、今はほとんど見かけなくなった歩きたばこはそこここに。
 よく見ると、自販機の飲み物が110円。車のデザインとかは良く分からないけど、シートベルトも無いし、なんとなく古臭い感じがした。

「ファッション古い……」

 天音が後部座席で呟いた。

 俺もトシもファッションには疎かったが、渋谷や原宿を通ってもガングロ茶髪にルーズソックスとか腰パンとかは、さすがに古く感じる。日本によく似た外国に来た感じだった。


「いやあ、よく来られましたね。東京を代表して歓迎しますよ」


 鈴木という知事さんだそうで、この人のことはよくわからない。

―― 石原さんの二代前の都知事 ――

 クレアが、三笠のCPに照会してくれたようで、レシーバーにクレアの声がした。

 俺たちには、石原さんより前の知事は、ほとんど歴史上の人物だ。鈴木さんは、見かけはとっつきにくい重役タイプだったが、進んでいろんな話をしてくれた。

 東京に、もう一度オリンピックを誘致したいことを強調していた。24年後に実現しますよ……と言ってみたかったが、なにか過去に干渉するようではばかられた。

 都庁で昼食をごちそうになり、展望台から下界の新宿を見ていた樟葉が耳もとで囁いた。

「街を行く人たち、なんだか変……」

「なにが……」

「5分間隔ぐらいで、同じパターンが……ほら、あの修学旅行の一団、さっきも通ったんだけどね……ほら、あの子またこけた」

「そうなの?」

―― みんな、この星はバーチャルだよ! ――

 クレアが、興奮して言ってきた。

―― 昨日から、この星の主だったことメモリーにしてるんだけどね、人工的なことは信号から人の動きまで、昨日といっしょ。よくできたバーチャルの3DCGみたいなもんだよ…… ――

「ほんとだ、いま飛んでったジェエット機、10分前と機体番号までいっしょだ」

 俺は大胆な行動に出た。

 給仕にきてくれた女の人のスカートを派手にまくってみた!

 なんと、太ももから上は、荒いポリゴンのようにカクカクしていて、真っ黒だった。別に黒いカクカクパンツを穿いているわけじゃない。太ももから上が存在しないのだ。

 そして、その女の人は、何事もなく、そのまま用事を済ますと行ってしまった。

「普通、叫ぶとかするよな……」

 三笠のクルーの疑問は決定的になった。

 そして、あたりの風景が急速にあやふやになり、数秒後には消えてしまった。

 星は荒涼として、荒れた大地が広がっているばかりだった。驚きとやっぱりという気持ちが一度にやってきた。

 三笠のクルーの前に、白いワンピースの少女が現れた。



「ごめんなさい。やっぱり分かってしまったようね」



 セミロングの髪を緩い風になぶらせながら詫びる少女。

―― この子はバーチャルじゃないわ ――

「そう、でも人間というわけでもないの」

 え?

「あ、わたしもクレアさんの声聞こえてるから」

 レシーバーもして無いのにクレアの声が聞こえてる。

 不思議に警戒心はおこらなかった。かわいい子だし、なんだか申し訳なさそうな顔してるし。

「あなたは……」

「こうちゃん」

 ちょっと微笑ましい。自分の名前にちゃん付けだ。

「おねえちゃんがいるんだけど、今はくたびれて寝てるから、わたしひとりでお礼を言いに来たの。
わざわざ立ち寄ってくれてありがとう。そして、十分なおもてなしもできなくてごめんなさい」

「そ、そんなことないよ(;'∀')」

 トシがワタワタと手を振る。

 ほんの一瞬だけど、こうちゃんの表情が、いや、顔が変わったような気がした。

―― この星に唯一の生命反応。さっきまであったのは、全てバーチャルよ。あ、裏側にも微弱な生命反応があるわ ――

「それはおねえちゃんです。わたしとおねえちゃんは、この星の星霊なんです。自分で言うのもなんだけど、できのいい星で、がんばれば地球のように生命が生まれていたわ」

 そうだろ、水と大気と適当な気温がある。荒れた半球はともかく、生命どころか人類文明が存在していても不思議じゃない。

「おねえちゃんと二人、いつも地球を見ていて『あんなふうになれたらいいね』と思って……でも、時々大災害とか大戦争とか起こるのを見て、それは、とても怖くって……それで、時どき地球の真似っこして遊んでいたんです……」

 なんだか、臆病な高校生みたいで、ちょっと親近感だ。

「でも、わたしたちが想うほど、地球の人たちはわたしたちには関心が無くて、ずっと見ていてくれたのは中国の天文学者の人だけです」

 ああ、安告正のことだな。

「あ、ああ、ごめんなさい。なんか愚痴っぽくなっちゃって(^_^;)。とにかく、立ち寄ってくれてありがとうございます! また、お帰りの時でも、よかったらお立ち寄りください(≧∇≦)!」

 ポン

 いっしゅん真っ赤な顔になったかと思うと、可愛い煙を残して消えてしまった。


 三笠に戻ると、クレアがネコメイドたちを助手にして、せわしなく星の解析をやっていた。


「99.999999%地球と同じ……」

「違いを解析……」 

 ミケメがエンターキーを押そうとしたら、ミカさんが現れた。

「止しましょう、あんなに恥ずかしがり屋さんなんだから」

「ああ、それがいいと思う」

 俺が声を掛けると、みんなビックリしたように振り返った。どこまで熱中してるんだ(^_^;)

「あら、お帰りなさい」「「「「お帰りなさいませ!」」」」

「わたしたち、お夕飯の用意をいたします!」

 ピュー

 ネコメイドたちは逃げるように行ってしまう。

「さっき、お礼を言ってた時、こうちゃんの顔が一瞬だけ妹の顔になったような気がした」

「そうか……」「そうなんだ……」「…………」
 
 天音と樟葉がしみじみし、ウレシコワは黙って微笑んだ。

「あ、星の表側からメール!」

 クレアがメインモニターを切り替えると、お袋が高校生の頃に書いていたような丸文字が現れた。

―― ありがとうございました、今度はお目にかかれればと思います。あん(こうちゃんの姉)――

 名前の由来に思い当たり、みんなでクスクス笑って三笠は発進した。


 ミカさんは、星に『ろんりねす』と名付けてやった。



☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
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