100 / 100
100『何かあったんだ!』
しおりを挟む
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
100『何かあったんだ!』オメガ
マッジさんに来てもらえないかしら。
一通りマッジさんのいきさつを説明すると、木田さんは胸の前で小さく手を合わせた。
四月の下旬に、学校で『ミサイル着弾を想定した避難訓練』が行われ、木田さんは負傷してしまった。
その木田さんを助けたことで、木田さんのお祖父さんがお礼に来られた。
木田さんのお祖父さんは徳川家友と言う名前で、盾府徳川家の当主。
世が世ならば侯爵家、貴族院の議長でもやっていようかというようなエスタブリッシュメントだ。
木田さんは、その嫡孫、すなわち盾府徳川家のお姫様。未成年のうちは母方の姓を名乗っているが、ゆくゆくは盾府徳川家を相続するお姫様なんだそうだ。
そのお姫様が、誰も居ない生徒会室とはいえ、困った表情で手を合わせているんだ。正面から向き合わざるを得ない。
「父の代から勤めていてくれていたメイドが辞めてしまったの……」
学校に通う都合で、木田さんは別宅に住んでいる。
身の回りの世話は、住み込みと通いのメイドさんがやっているそうなのだが、住み込みのメイドさんが身体を壊して辞めてしまったのだ。
低血圧の木田さんは、遅刻せずに起きるのが精いっぱいで、自分の身の回りのことも不自由になってきているらしい。
「通いのメイドも居るのだから、なんとかなると思っていたんだけど、ちょっともう限界で……それで、こないだマッジさんがお弁当届けに来たじゃない。窓から一部始終を見て、こんなメイドさんに来てもらえればと、そう思ったの」
「分かった。マッジさんも来日早々勤め先のお宅が火事になって困っていたんだ、結論は話してみなきゃ分からないけど、双方にいい話なんじゃないかな」
「ほんと?」
「おそらく」
「嬉しい、相談してよかったあ!」
木田さんはバネ仕掛けみたいにジャンプして俺の手を握った。
フワッとシャンプーだかのいい匂いがして、クラクラした。
「だ、だいじょうぶ?」
「ドンマイドンマイ」
いそいで取り繕う。こういう時に、俺のω顔は人に安心を与える。
「まことにありがとうございました」
マッジさんが慇懃に頭を下げる。こういう動作にもリアルメイドの気品が漂う。
盾府徳川家本宅に挨拶に上がった帰りだ。
本宅は江戸時代の上屋敷で、終戦後手放したのをお祖父さんの事業拡大に伴って買い戻したものだ。
面積は半分になってしまったらしいが、それでも都心の小学校程はある。
「これなら、マッジさんが言ったように、マッジさん一人でも来れたね」
「いいえ、右も左も分からない東京です、付き添ってくださって助かりました」
謙遜なんだろうけど、マッジさんは行き届いた人だ。
マッジさーーん!
すでに遠くなった門の方から木田さんの声がした。
「おじい様もとても喜んでくださったわ! わたしったら舞い上がっちゃって、お話もできなくて、よかったら別宅の方見てもらえないかしら?」
「あ、それは、こちらこそ」
「じゃ、決まりね。妻鹿君も来てくれるでしょ?」
マッジさんが一瞬俺の顔を見る――乙女心です、いらしてください――と言っている。
こういうのは苦手なんだけど、マッジさんの思うことなら間違いはないだろうと思ってしまうから仕方がない。
「うん、行かせてもら……」
そこまで行った時にスマホが鳴った。画面はシグマからの着信を知らせていた。
「おう、俺だけど……」
気楽に出た電話だったが、シグマの声はこわばっていた。
『すみません、い、今から会えませんか……いえ、会って欲しいんです……神社で待ってます』
シグマの、こんな声は初めてだ。
どんなフラグかは分からないが、放置していい声じゃない。
「分かった、鳥居の前な、すぐに行く!」
何かあったんだ! 二人に挨拶もせずに駆けだした。
表通りに飛び出したところで、視野の片隅に大きな影が膨らんだ。
それが流行りのSUV(スポーツ用多目的車)だと気が付いた瞬間、俺の体は宙を飛んだ。
梅雨にしては青い空だ……そう思って、意識が切れてしまった。
※ オメガとシグマ第一期終わり 第二期に続きます
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿幸一 祖父
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
マッジ・ヘプバーン ミリーさんの知り合いの娘 天性のメイド資質
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
ビバさん(和田友子) 高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
100『何かあったんだ!』オメガ
マッジさんに来てもらえないかしら。
一通りマッジさんのいきさつを説明すると、木田さんは胸の前で小さく手を合わせた。
四月の下旬に、学校で『ミサイル着弾を想定した避難訓練』が行われ、木田さんは負傷してしまった。
その木田さんを助けたことで、木田さんのお祖父さんがお礼に来られた。
木田さんのお祖父さんは徳川家友と言う名前で、盾府徳川家の当主。
世が世ならば侯爵家、貴族院の議長でもやっていようかというようなエスタブリッシュメントだ。
木田さんは、その嫡孫、すなわち盾府徳川家のお姫様。未成年のうちは母方の姓を名乗っているが、ゆくゆくは盾府徳川家を相続するお姫様なんだそうだ。
そのお姫様が、誰も居ない生徒会室とはいえ、困った表情で手を合わせているんだ。正面から向き合わざるを得ない。
「父の代から勤めていてくれていたメイドが辞めてしまったの……」
学校に通う都合で、木田さんは別宅に住んでいる。
身の回りの世話は、住み込みと通いのメイドさんがやっているそうなのだが、住み込みのメイドさんが身体を壊して辞めてしまったのだ。
低血圧の木田さんは、遅刻せずに起きるのが精いっぱいで、自分の身の回りのことも不自由になってきているらしい。
「通いのメイドも居るのだから、なんとかなると思っていたんだけど、ちょっともう限界で……それで、こないだマッジさんがお弁当届けに来たじゃない。窓から一部始終を見て、こんなメイドさんに来てもらえればと、そう思ったの」
「分かった。マッジさんも来日早々勤め先のお宅が火事になって困っていたんだ、結論は話してみなきゃ分からないけど、双方にいい話なんじゃないかな」
「ほんと?」
「おそらく」
「嬉しい、相談してよかったあ!」
木田さんはバネ仕掛けみたいにジャンプして俺の手を握った。
フワッとシャンプーだかのいい匂いがして、クラクラした。
「だ、だいじょうぶ?」
「ドンマイドンマイ」
いそいで取り繕う。こういう時に、俺のω顔は人に安心を与える。
「まことにありがとうございました」
マッジさんが慇懃に頭を下げる。こういう動作にもリアルメイドの気品が漂う。
盾府徳川家本宅に挨拶に上がった帰りだ。
本宅は江戸時代の上屋敷で、終戦後手放したのをお祖父さんの事業拡大に伴って買い戻したものだ。
面積は半分になってしまったらしいが、それでも都心の小学校程はある。
「これなら、マッジさんが言ったように、マッジさん一人でも来れたね」
「いいえ、右も左も分からない東京です、付き添ってくださって助かりました」
謙遜なんだろうけど、マッジさんは行き届いた人だ。
マッジさーーん!
すでに遠くなった門の方から木田さんの声がした。
「おじい様もとても喜んでくださったわ! わたしったら舞い上がっちゃって、お話もできなくて、よかったら別宅の方見てもらえないかしら?」
「あ、それは、こちらこそ」
「じゃ、決まりね。妻鹿君も来てくれるでしょ?」
マッジさんが一瞬俺の顔を見る――乙女心です、いらしてください――と言っている。
こういうのは苦手なんだけど、マッジさんの思うことなら間違いはないだろうと思ってしまうから仕方がない。
「うん、行かせてもら……」
そこまで行った時にスマホが鳴った。画面はシグマからの着信を知らせていた。
「おう、俺だけど……」
気楽に出た電話だったが、シグマの声はこわばっていた。
『すみません、い、今から会えませんか……いえ、会って欲しいんです……神社で待ってます』
シグマの、こんな声は初めてだ。
どんなフラグかは分からないが、放置していい声じゃない。
「分かった、鳥居の前な、すぐに行く!」
何かあったんだ! 二人に挨拶もせずに駆けだした。
表通りに飛び出したところで、視野の片隅に大きな影が膨らんだ。
それが流行りのSUV(スポーツ用多目的車)だと気が付いた瞬間、俺の体は宙を飛んだ。
梅雨にしては青い空だ……そう思って、意識が切れてしまった。
※ オメガとシグマ第一期終わり 第二期に続きます
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿幸一 祖父
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
マッジ・ヘプバーン ミリーさんの知り合いの娘 天性のメイド資質
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
ビバさん(和田友子) 高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
あーきてくっちゃ!
七々扇七緒
ライト文芸
『ゆるーく建築を知れる』📐北海道札幌市を舞台とした『ゆるふわ×建築』日常系のストーリーです🏠✨
北海道内でも人気が高く、多くの女子が入学を夢見る『才華女子高等学校』。多くのキラキラした学科がある中、志望調査で建築学科を志望した生徒はわずか3人?!
「10人以上志望者がいないと、その年度の建築学科は廃止になる」と宣告された、うらら達3人。
2年生から本格的な学科分けがあり、それまでにメンバーをあと7人増やさなければならない。うらら達は建築の楽しさを周りにも伝えるため、身近な建築の不思議や謎を調査する活動をすることに決めたのだった――。
🌸🌸🌸
人間にとって欠かせない衣食住、その中の『住』にあたる建築物は私たちにとって身近な存在です。でも、身近すぎて気づかないこと、知らないことって多いと思いませんか?
「なんで、こんな所に穴があるんだろう?」
「なんで、ここはヘコんでるんだろう?」
「なんで、この壁とあの壁は叩くと音が違うんだろう?」
「そもそも、建物ってどうやって作ってるんだろう!?」
建築には、全ての形に意味があります。
(意味ないことをしたらお金と手間がかかるからやらない)
一件難しく感じるかもしれませんが、
この小説では女子高生たちとゆる~く建築の豆知識をお伝えしながら、すこ~しでも良いので建築に興味を持ってくれたらうれしいな~
という気持ちで、建設業で働く私がの~んびり書いていく作品です。
ごゆっくりお楽しみくださいませ✨
☆注意☆
この作品に登場するイラストは、AIイラストを作成するアプリで作っています。
背景など作中と少し異なる表現があるかと思いますがご了承ください。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる