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80『瑠璃波美美波璃瑠……どこで切るんだ?』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

80『瑠璃波美美波璃瑠……どこで切るんだ?』小菊   




 読んでいるとは思わなかった。

『くたばれ腐れ童貞!』は25日発売のトッパ6月号に載るので、関係者以外で読んでいる人はいないはず。

「言葉が生きているわ、ただのツンデレの裏がえし兄妹愛じゃなくて、若者のことなかれに対する憎しみが心地よかった。ほら『女のここ一番に素通りかましやがって、そこに直れ! 使う気のない道具なんかちょん切ってやる!』って、ハサミ持って家中追い掛け回すじゃない、その時の家の描写がさ、昔の置屋の雰囲気と兄貴のヘタレぶりとか、荒ぶる神みたくなった佳乃(主人公)とが重層的で、なんか、初めてVRで観たときみたいな迫力だったわ!」

「え、なんで知ってるんですか?」

「わたし、すごいと思ったら、なにがなんでも自分で確認しなきゃ気が済まないの。そんなわたしのペンネームは瑠璃波美美波璃瑠(るりはびびばりる)よ」

 ええ( ゚Д゚)!?

 その上から読んでも下から読んでもみたいなビビットペンネームは、突破新人賞の最終選考に残って最優秀を競い合った女子高生!

 書類のペンネームでしか知らなかったけど、まさか同じ神楽坂高校の生徒だとは思わなかった。

「でも、なんで発表前の作品を知ってるんですか?」

「それは言えない。そういうことも含めて、わたしの力だと思って」

「そう……(^_^;)」

「そんな二人が一緒になれば、きっとすごい化学変化が起きると思わない?」

「えと……あたし部活とかで群れる気ないんで」

「あら……そう」

 瑠璃波美美波璃瑠さんの瞳孔がさらに小さくなった。

 すると、瑠璃波美美波璃瑠さんは両手でほっぺたをペシペシ叩いた。

 叩くと、それにつれて瞳は大きくなって、ちょうど三回叩いたところでレギュラーな大きさになり、そのせいか、ひどく柔和な顔つきになった。

 正直ホッとした。

 あのまま瞳孔が縮んでいったら蛇みたくなって、いや、ほんとに蛇とかになって、呼び出された校舎裏で呑み込まれてしまうんじゃないかとビビった。

「じゃ、またね。わたしのことは瑠璃波美美波璃瑠でも和田友子でも好きな方で読んでちょうだい。ほんじゃ!」

 瑠璃波美美波璃瑠さんは宇宙戦艦ヤマトのクルーみたいな敬礼をして回れ右をした。

 回れ右の勢いが強すぎて、スカートが大きく翻り、脚の付け根近くまで見えてしまった。あまりきれいな脚なんで、ドキリとしてしまう。

「そだ、明日から中間テスト、がんばってね。一年の一学期は先生たち締めてくるから、気を抜くと欠点だらけになっちゃうからね」

「あの……」

「なに? ひょっとして気が変わった!?」

「いえ、そうじゃなくて、瑠璃波美美波璃瑠さんのお名前って、どこで切ったらいいんですか? やっぱ真ん中?」

「好きなようにぶった切ってちょうだい、書くことにかけては敵同士なんだから」

「あ、はい、いえ……」

 それだけ言い残すと、瑠璃波美美波璃瑠、いや和田友子さんは、昇降口を出ていく友だちに「いっしょに帰ろ(^▽^)」と声を掛けてふつうに行ってしまった。

 スマホでググると、瑠璃波美美が苗字で、波璃瑠が名前の、キラキラペンネームだと分かった。


 瑠璃波美美波璃瑠さんの言葉通り初めての中間テストはムズイ。


 数一の答案用紙、下1/3が空白のままに一昨日の瑠璃波美美波璃瑠さんとの出会いを思い出しているあたし。

 そだ、瑠璃波美美波璃瑠じゃ舌を噛みそうなのでビハ……ビバさんと呼ぼう。数一のテスト時間で考え付いたベストの答えなのだった。



☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿幸一           祖父
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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