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45『ソファーの呟き』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

45『ソファーの呟き』オメガ 





 他のにした方がよかったかなあ……


 日曜の朝、リビングに下りるとソファーが呟いたぞ!?
 
 うちのソファーは年代物で、たぶん、うちが置屋だったころからある代物だ。

 なんでも見番て、ここいらの置屋やら料理屋の総合事務所兼稽古場的なもんが隣接してて、その見番のだったとか。

 猫足の革張りで、妖怪じみた存在感がある。春めいた陽気に、とうとう化け物の本性を現したかと怖気を振るった。

 は~~~~~あ

 ついたため息は女の声をしている。俺は身構直して手近な得物を手に取った!

 グワーーーー!

 一声叫ぶと、ギシっとソファーは身震い。俺は得物をドラゴンに出くわした勇者みたいに構え直した!

 すると、ソファーに首が生えた!

 学校は他にもあったのにねえ……ん? なんでファブリーズなんか構えてんの?

「あ……小菊」

 ソファーが背中を向けていたので、小じんまりと横になっていた妹に気が付かなかったのだ。

「あ、夕べ焼肉だったじゃん、ちょっとな(^_^;)」

 プシュー プシュー 俺はCMのようにファブリーズを噴霧する。

「焼肉は一昨日だったんですけどー」

「あ、あ、そうだったな(^_^;)」

 バツが悪いので、そそくさとリビングを後にする。

 チ!

 背後で盛大な舌打ち。入学式の可愛らしさは微塵もない。

 でも……あいつ――学校はほかにもあったのに――って言ってたよな。

 やっぱ、入学式のこと気にしてんのかなあ……。



 式場での小菊は目立ちまくっていた。



 そりゃそうだ、男子列の端っこに一人座らされ、前にも後にも座っている者がいないので目立つったらありゃしない。

 そこへもってきて、隣の男子が気に入らないのか、小菊は座席一つ空けて座り直すもんだから、いっそうワケアリな目立ち方をしてしまった。

「あら、あの子……」「なんだか……」「ねえ……」「……見ない方がいいわよ」

 そんな声が保護者席から聞こえ出した。

 これは、やっぱ兄として、妹の心の声、いや、叫びに答えてやらなきゃ!


 よし!


 階段の二段目に掛けた足を戻してリビングに取って返した。

「やっぱ、学校でなんか言われたんだろ! 兄ちゃんが聞いてやっから、ドーンとこい!」

「は?」

「おまえ学校が辛いんだろ? やっぱ、なんか言われたんだろ?」

「え、なにトチ狂ってんのよ!」

「他の学校にしたら~とかため息ついてたじゃねーか!」

「あ~~~あれ?」

「心の叫びなんだろ、そのあとグワーーーーって吠えてたじゃねーか!」

「ああ……定期券持ってさ、電車通学とかよかったなーって。クラスのみんな電車通学なんだよね、徒歩通学ってあたしくらいのもんだしーーー」


 プシュー
 

 俺は二の句を継げず、ファブリーズ一吹きして部屋に戻ったのだった。

 でも、これって後を引くんだよなあ……。

 

☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
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