22 / 100
22『今日は合格発表』
しおりを挟む
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
22『今日は合格発表』
これに落ちると定時制の二次募集しかない。
小菊が背水の陣と言っていい後期選抜を受けたのには理由があるが、振り返っても仕方がない。
とりあえずは、今日の合格発表だ。
都立神楽坂高校は偏差値54の中堅校だ、中学の内申が7もあれば、入試当日の試験でよっぽどのドジを踏まなきゃ合格する。
でも、愚妹の小菊は、そのドジをやってしまったらしい。
最後のテストで受験番号を書くのを忘れたというのだ。書いていなければ零点だ。
宝くじのことしか考えていなかったこともあるけど、かけてやる言葉が無かった。
「あり得ないと思うわよ」
小菊が角を曲がるのを確認して松ネエが言う。
一人で合格発表に行く小菊の後を付けているんだ。松ネエも心配して付いて来てくれている。
「試験中も机間巡視やってるし、答案を回収したあとも、その場で受験番号のチェックはやってるわよ」
「でもなあ……」
学校の先生たちの顔が思い浮かぶ、正直たよりない。
「入試ってのはね、監督を含め、どの作業もかならず二人以上でやるの。作業行程ずつにハンコ押すしね、まずミスは起こらないわ。たまに採点や集計の時にミスがあるけど、それもその分五回も六回も目を替えてチェックしてるから大丈夫よ」
「そうなんだ、松ネエくわしいね」
「ハハ、うちのお父さん高校の先生だもん」
そうだった、松ネエのお父さんは影の薄い人なんで忘れていた。
時計塔と花水木の間にトラロープが張ってある。
そこを超えると、合格発表のパネルが貼り出されるピロティーだからだ。
時間が来るまでピロティーには入れない。
小菊は最前列で待っている。リスが両手で胡桃を持つように受験票をかかえ、何度も見ては声に出さないで受験番号を確認している。
そうやっていなければ、自分の受験番号が消えて無くなってしまうとでもいうような感じだ。
何度も何度もやるので、口の形から受験番号が48番であることが知れる。
合格発表の二分前には、トラロープのところに、わが担任のヨッチャンと堂本が立った。
「間もなく発表ですが、けして駆けださないでください」
「合格者の方は、午後一時半から合格者説明会がありますので、保護者の方といっしょに体育館の方にお越しください」
二人で役割分担しながら事前の説明と注意をしている。
やがて、合格発表を告げるチャイムが鳴って、トラロープがスルスルと巻き取られた。
百人ほどの受験者と付き添いの保護者が、事前の注意にもかかわらず駆けだした。
渡り廊下に貼り出された合格発表掲示板の白布がハラリと取り払われ、合格者の受験番号が明らかになった。
ウワーとかオオーとかのどよめきが起こる。
中に、数名の子と保護者が立ちすくむ……二割近く出る不合格者だ。
「やったー!」
遠くからだけど、小菊の48番があることが分かる。思わず松ネエとガッツポーズ。
だが、小菊の姿が無い。
首をめぐらすと、トラロープが張ってあったところに一人立ちすくんでいる妹。
駆け寄って合格したのを教えてやりたかったが、後を着けてきたのは秘密だ。朝食の時も「絶対付いてこないでよね!」と眉を逆立てていた。俺たちも、そっと見守るだけにするつもりだった。
しかし、ここまでビビッているとはイラつくやつだ。
すると、人ごみの中からシグマが飛び出してきて小菊に合格を告げた。
「合格よ! 合格したのよ!」
「え、え、ほんと!?」
「ほら、こっちこっち!」
シグマは小菊の手を引っ張って確かめさせた。
「ウワーーーー#$!¥&%$#!!!!!!」
久方の小菊の歓声。いや、こんなに喜んでいる妹を見るのは初めてだ。
で、今だと思った。
「おめでとう小菊! 宝くじも一等賞だぞおおおおおおおお!!!!!」
小菊の目の前に、一等一億円当選の宝くじを広げてみせた。
「え……?」
妹の目が点になった。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校二年 雄一の数少ない友だち
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
22『今日は合格発表』
これに落ちると定時制の二次募集しかない。
小菊が背水の陣と言っていい後期選抜を受けたのには理由があるが、振り返っても仕方がない。
とりあえずは、今日の合格発表だ。
都立神楽坂高校は偏差値54の中堅校だ、中学の内申が7もあれば、入試当日の試験でよっぽどのドジを踏まなきゃ合格する。
でも、愚妹の小菊は、そのドジをやってしまったらしい。
最後のテストで受験番号を書くのを忘れたというのだ。書いていなければ零点だ。
宝くじのことしか考えていなかったこともあるけど、かけてやる言葉が無かった。
「あり得ないと思うわよ」
小菊が角を曲がるのを確認して松ネエが言う。
一人で合格発表に行く小菊の後を付けているんだ。松ネエも心配して付いて来てくれている。
「試験中も机間巡視やってるし、答案を回収したあとも、その場で受験番号のチェックはやってるわよ」
「でもなあ……」
学校の先生たちの顔が思い浮かぶ、正直たよりない。
「入試ってのはね、監督を含め、どの作業もかならず二人以上でやるの。作業行程ずつにハンコ押すしね、まずミスは起こらないわ。たまに採点や集計の時にミスがあるけど、それもその分五回も六回も目を替えてチェックしてるから大丈夫よ」
「そうなんだ、松ネエくわしいね」
「ハハ、うちのお父さん高校の先生だもん」
そうだった、松ネエのお父さんは影の薄い人なんで忘れていた。
時計塔と花水木の間にトラロープが張ってある。
そこを超えると、合格発表のパネルが貼り出されるピロティーだからだ。
時間が来るまでピロティーには入れない。
小菊は最前列で待っている。リスが両手で胡桃を持つように受験票をかかえ、何度も見ては声に出さないで受験番号を確認している。
そうやっていなければ、自分の受験番号が消えて無くなってしまうとでもいうような感じだ。
何度も何度もやるので、口の形から受験番号が48番であることが知れる。
合格発表の二分前には、トラロープのところに、わが担任のヨッチャンと堂本が立った。
「間もなく発表ですが、けして駆けださないでください」
「合格者の方は、午後一時半から合格者説明会がありますので、保護者の方といっしょに体育館の方にお越しください」
二人で役割分担しながら事前の説明と注意をしている。
やがて、合格発表を告げるチャイムが鳴って、トラロープがスルスルと巻き取られた。
百人ほどの受験者と付き添いの保護者が、事前の注意にもかかわらず駆けだした。
渡り廊下に貼り出された合格発表掲示板の白布がハラリと取り払われ、合格者の受験番号が明らかになった。
ウワーとかオオーとかのどよめきが起こる。
中に、数名の子と保護者が立ちすくむ……二割近く出る不合格者だ。
「やったー!」
遠くからだけど、小菊の48番があることが分かる。思わず松ネエとガッツポーズ。
だが、小菊の姿が無い。
首をめぐらすと、トラロープが張ってあったところに一人立ちすくんでいる妹。
駆け寄って合格したのを教えてやりたかったが、後を着けてきたのは秘密だ。朝食の時も「絶対付いてこないでよね!」と眉を逆立てていた。俺たちも、そっと見守るだけにするつもりだった。
しかし、ここまでビビッているとはイラつくやつだ。
すると、人ごみの中からシグマが飛び出してきて小菊に合格を告げた。
「合格よ! 合格したのよ!」
「え、え、ほんと!?」
「ほら、こっちこっち!」
シグマは小菊の手を引っ張って確かめさせた。
「ウワーーーー#$!¥&%$#!!!!!!」
久方の小菊の歓声。いや、こんなに喜んでいる妹を見るのは初めてだ。
で、今だと思った。
「おめでとう小菊! 宝くじも一等賞だぞおおおおおおおお!!!!!」
小菊の目の前に、一等一億円当選の宝くじを広げてみせた。
「え……?」
妹の目が点になった。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校二年 雄一の数少ない友だち
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
あーきてくっちゃ!
七々扇七緒
ライト文芸
『ゆるーく建築を知れる』📐北海道札幌市を舞台とした『ゆるふわ×建築』日常系のストーリーです🏠✨
北海道内でも人気が高く、多くの女子が入学を夢見る『才華女子高等学校』。多くのキラキラした学科がある中、志望調査で建築学科を志望した生徒はわずか3人?!
「10人以上志望者がいないと、その年度の建築学科は廃止になる」と宣告された、うらら達3人。
2年生から本格的な学科分けがあり、それまでにメンバーをあと7人増やさなければならない。うらら達は建築の楽しさを周りにも伝えるため、身近な建築の不思議や謎を調査する活動をすることに決めたのだった――。
🌸🌸🌸
人間にとって欠かせない衣食住、その中の『住』にあたる建築物は私たちにとって身近な存在です。でも、身近すぎて気づかないこと、知らないことって多いと思いませんか?
「なんで、こんな所に穴があるんだろう?」
「なんで、ここはヘコんでるんだろう?」
「なんで、この壁とあの壁は叩くと音が違うんだろう?」
「そもそも、建物ってどうやって作ってるんだろう!?」
建築には、全ての形に意味があります。
(意味ないことをしたらお金と手間がかかるからやらない)
一件難しく感じるかもしれませんが、
この小説では女子高生たちとゆる~く建築の豆知識をお伝えしながら、すこ~しでも良いので建築に興味を持ってくれたらうれしいな~
という気持ちで、建設業で働く私がの~んびり書いていく作品です。
ごゆっくりお楽しみくださいませ✨
☆注意☆
この作品に登場するイラストは、AIイラストを作成するアプリで作っています。
背景など作中と少し異なる表現があるかと思いますがご了承ください。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる