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17『クリアの朝』
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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
17『クリアの朝』
気が付いたら朝になっている。
カーテン越しでも朝の日差しは暴力的だ。夕べの……明け方近くまでの感動をサラサラと蒸発させてしまう。
着替えを抱えて風呂場に直行。
風呂場の人工的な光りと温もりなら感動は余韻となって頭や体にわだかまってくれる。
風呂場の鏡が湯気で雲ってシットリと、あたしの裸を映す。
普段、自分に関しては裸の体はもちろん、顔だって見ない。
信じられないかもしれないけど、鏡の自分を見なくても顔を洗えるし歯も磨ける。三月に一度いく美容院でも鏡の自分は見ないんだ。
電車に乗っていて、不意にトンネルに入った時なんかに、ガラスが鏡のようになって、暴力的に自分の顔が迫ってくることがある。空気が圧縮されて――ドン――というエフェクトまで付いて、本当に不意打ちの攻撃。
反射的に目をつぶるか避けてしまう。
曇り鏡のあたしは、マシュマロみたいにソフトだ。
アンドロイドのアズサみたいだ。
アズサは数十分前にクリアした『君の名を』のキャラ。
二次元のアズサは、とてもピュアだ。でもってソフトだ。
ピュアは別として、ソフトなところは曇り鏡のあたしと重なる。
アズサは主人公を守るためにラスボスに立ち向かって自爆する。自爆の瞬間、任務に関するデータが防衛軍のCPに送られ、そのデータを基にバージョンアップされたアズサ、アズサは任務に伴う名前だから、AD1201というシリアル。それにリストアされる。
任務を離れ主人公を愛した心は任務外のことなので引き継がれることはない。
アズサは自分の愛と引き換えに主人公を守ったんだ。
リストアされたアズサは、プラタナスの通学路で主人公とすれ違うんだけど、救った世界は時間が巻き戻っていて、主人公もアズサを恋人だとは認識していない。他の学生たちといっしょにモブの一人としてすれ違って、カメラはどんどんロングになって、二人ともゴマ粒よりも小さくなって見えなくなってしまって、テーマ曲とともにエンドロール。
エンドロールの最後にスペシャルサンクス……百地美子。
今日は後期選抜募集の入試のために学校は休みだ。休みだから、ほとんど徹夜して『君の名を』をクリアした。
アズサ以外に攻略できるヒロインが三人いるけど、アズサのイメージというか余韻を大事にしたいので、このまま先輩に貸してあげようと思い立つ。
スマホを手に取るけど「ま、いっか」と呟いてリュックに仕舞う。
電話をしてもメールをしても、先輩はきっと気を遣う。
メモを添えて郵便受けに入れておくだけでいいや。念のため学校の茶封筒に入れて封をする。
肌寒いけど三月も中旬。
ドアを開けた瞬間、かすかな春を感じて、とっておきに着替える。
若草色のサロペットスカート。
切り返しが高くて脚が長く見える。スカートもたっぷりの生地で、普通に穿いても、なんだかパニエを付けたみたいにフワフワなのだ。
ちょっと少女趣味。来年は、もう着れないだろう。
今日だってゲームをクリアした高揚感があるから着れるんだ。
このスカートから見えるのは産毛が目立つ生足じゃだめなんで、スカートの色が入ったボーダーのニーハイにしている。
あたしだって女の子なんだ、ちょっとばかし嬉しくなった。
―― アズサの攻略は最後にした方がいいですよ ――
メモを付けて、先輩の家の郵便受けに投函する。
郵便受けの屋根の所をスリスリ、ゆっくり楽しんでくださいの気持ちを込める。
スカート閃かせてスピン、何年かぶりのスキップなんかが自然に出てくる。我ながら上機嫌だ。
角を曲がってビックリした。綿入れの半纏着た先輩が腕組みして歩いてくるではないか!
春めいた気持ちは吹っ飛んでしまったけど、スキップの勢いはそのままで先輩とすれ違う。
「………?」
先輩が気づく気配がした。フワフワのサロペット姿、それもスキップなんかしてるのが恥ずかしくて気づかないフリ。
「え、シグマか?」
スキップが停まってしまう。
「お、お、お、やっぱシグマじゃんか!」
ニコニコ笑顔の先輩に前に回り込まれてしまった(;'∀')!
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
ノリスケ 高校二年 雄一の数少ない友だち
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
17『クリアの朝』
気が付いたら朝になっている。
カーテン越しでも朝の日差しは暴力的だ。夕べの……明け方近くまでの感動をサラサラと蒸発させてしまう。
着替えを抱えて風呂場に直行。
風呂場の人工的な光りと温もりなら感動は余韻となって頭や体にわだかまってくれる。
風呂場の鏡が湯気で雲ってシットリと、あたしの裸を映す。
普段、自分に関しては裸の体はもちろん、顔だって見ない。
信じられないかもしれないけど、鏡の自分を見なくても顔を洗えるし歯も磨ける。三月に一度いく美容院でも鏡の自分は見ないんだ。
電車に乗っていて、不意にトンネルに入った時なんかに、ガラスが鏡のようになって、暴力的に自分の顔が迫ってくることがある。空気が圧縮されて――ドン――というエフェクトまで付いて、本当に不意打ちの攻撃。
反射的に目をつぶるか避けてしまう。
曇り鏡のあたしは、マシュマロみたいにソフトだ。
アンドロイドのアズサみたいだ。
アズサは数十分前にクリアした『君の名を』のキャラ。
二次元のアズサは、とてもピュアだ。でもってソフトだ。
ピュアは別として、ソフトなところは曇り鏡のあたしと重なる。
アズサは主人公を守るためにラスボスに立ち向かって自爆する。自爆の瞬間、任務に関するデータが防衛軍のCPに送られ、そのデータを基にバージョンアップされたアズサ、アズサは任務に伴う名前だから、AD1201というシリアル。それにリストアされる。
任務を離れ主人公を愛した心は任務外のことなので引き継がれることはない。
アズサは自分の愛と引き換えに主人公を守ったんだ。
リストアされたアズサは、プラタナスの通学路で主人公とすれ違うんだけど、救った世界は時間が巻き戻っていて、主人公もアズサを恋人だとは認識していない。他の学生たちといっしょにモブの一人としてすれ違って、カメラはどんどんロングになって、二人ともゴマ粒よりも小さくなって見えなくなってしまって、テーマ曲とともにエンドロール。
エンドロールの最後にスペシャルサンクス……百地美子。
今日は後期選抜募集の入試のために学校は休みだ。休みだから、ほとんど徹夜して『君の名を』をクリアした。
アズサ以外に攻略できるヒロインが三人いるけど、アズサのイメージというか余韻を大事にしたいので、このまま先輩に貸してあげようと思い立つ。
スマホを手に取るけど「ま、いっか」と呟いてリュックに仕舞う。
電話をしてもメールをしても、先輩はきっと気を遣う。
メモを添えて郵便受けに入れておくだけでいいや。念のため学校の茶封筒に入れて封をする。
肌寒いけど三月も中旬。
ドアを開けた瞬間、かすかな春を感じて、とっておきに着替える。
若草色のサロペットスカート。
切り返しが高くて脚が長く見える。スカートもたっぷりの生地で、普通に穿いても、なんだかパニエを付けたみたいにフワフワなのだ。
ちょっと少女趣味。来年は、もう着れないだろう。
今日だってゲームをクリアした高揚感があるから着れるんだ。
このスカートから見えるのは産毛が目立つ生足じゃだめなんで、スカートの色が入ったボーダーのニーハイにしている。
あたしだって女の子なんだ、ちょっとばかし嬉しくなった。
―― アズサの攻略は最後にした方がいいですよ ――
メモを付けて、先輩の家の郵便受けに投函する。
郵便受けの屋根の所をスリスリ、ゆっくり楽しんでくださいの気持ちを込める。
スカート閃かせてスピン、何年かぶりのスキップなんかが自然に出てくる。我ながら上機嫌だ。
角を曲がってビックリした。綿入れの半纏着た先輩が腕組みして歩いてくるではないか!
春めいた気持ちは吹っ飛んでしまったけど、スキップの勢いはそのままで先輩とすれ違う。
「………?」
先輩が気づく気配がした。フワフワのサロペット姿、それもスキップなんかしてるのが恥ずかしくて気づかないフリ。
「え、シグマか?」
スキップが停まってしまう。
「お、お、お、やっぱシグマじゃんか!」
ニコニコ笑顔の先輩に前に回り込まれてしまった(;'∀')!
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
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妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
ノリスケ 高校二年 雄一の数少ない友だち
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