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23『フライングゲット!』
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち
23『フライングゲット!』
「なんでも、心の中にあるものは話してくれてええねんよ」
その人は、ラフなうすいグリーンのツーピースを着ていた。
首には細いチェーンの先に勾玉型の飾りのついたペンダントをアクセントのようにぶらさげ、マシュマロをレンジで軽くチンしたような職業的な優しさ丸出しの顔をして、栞に寄り添った。
府教委が、アリバイのように送ってきたカウンセラーである。
数分前に名前を聞いたが、興味のない栞は、すぐに忘れてしまった。
「ほんとうに、なんでもいいんですか?」
「ええ、かめへんよ」
「なんで、わたしにカウンセリングが必要なんですか?」
「そら、そういうとこよ。人と話をするのに対立的な話し方するでしょ。それは手島さんが、今まで、どんなに否定的な扱いを受けてきたかが、よう分かるの。いえいえ、別に否定的な話し方でもええねんよ。とにかく話してちょうだい」
「根本的な話をしてるんです。カウンセリングが必要なのは、学校……大阪そのものです。カウンセリングする相手を間違えてます」
「そやけど、手島さんは、今度の勇気ある行動に出るのに、えらい神経使こたでしょ。で、ちょっと話したら、気い楽になるんとちゃう?」
「あのね、先生。わたしは学校に戦いに来てるんです。戦闘中ですので、ダメージは覚悟の上です。それとも、わたしの戦争に参加していただけます?」
「あのね……」
「これ、学校で問題が起こった場合の府教委の対応マニュアルです」
栞は、A4の紙の束を置いた。
「管理職からの報告→事情聴取→指導主事の派遣→問題の解析・整理→保護者への説明と生徒への対応。これが過去の事象から読み取れる府教委の対応の大まかなマニュアルです。で、先生がやろうとなさっているのは、ここ。生徒への対応の中のカウンセリングに当たります。分かります?」
「はあ……」
「で、問題の解析・整理の段階で間違えているんです。個人としての生徒が、特定の教師から、暴行あるいはイジメを受けたのと同じ対応できているんです。わたしは本校のカリキュラム及び教育姿勢を問うているんです。その課程で、いささかの軋轢があるのは当然です。いいですか、大事なのは府教委のカテゴライジングなんです。教職員による生徒への暴行・イジメではないんです。むろん精神的な暴行と言っていい事象はありました。だから、父を代理人として告訴もしました。本命の問題は、あくまでカリキュラム、教育姿勢の問題なんです」
「そやけど、手島さん自身傷ついてるのは確かやろし……」
「あなたがやろうとしているのは、心臓が悪い大人を治すために、その子供の子守をしているようもんなんですよ。子守をしても親の心臓は治りません!」
「そやかて、手島さん……」
「先生は、硬直化したマニュアルに組み込まれた、意味のない歯車なんです。よく認識なさってください」
そういうと栞は、相談室を飛び出した。カウンセラーは、予定の六時まではこなしたので、記録を整理してさっさと帰ってしまった。
「先輩、怖い顔してますよ」
いつのまにか、さくやが横に並んでいる。
「ゲ、あなた、いつから居たのよ!?」
「校門出たとこから」
「演劇部は無いからね」
「ありますよ。先輩とさくや。顧問に入部願いも出してきましたし」
駅前近くに来ると、フライドチキンのスタッフがチラシを撒いていた。
「あの、それもらえます?」
「あ、どうぞ。高校生10%割引中!」
「それじゃないんです。胸に付けてらっしゃるチキンのワッペン」
「え、ああ、ええよ。そのかわり店にも来てね」
「はいはい、そこの津久茂屋という団子屋さんもよろしく。わたし、不定期でバイトやってるから」
「そうかいな、お互いよろしゅうに!」
「さくやちゃん、あんた体育のハーパン持ってる?」
「あ、じゃまくさいよって穿いたままです」
さくやがスカートを少しまくり上げると、学年色のハーパンの裾が見えた。
「ちょっと、こっち来てくれる」
「こんちは!」
「あら、栞ちゃん、今日はシフトには入ってへんけど」
恭子さんが笑顔で言った。
「ちょっと着替えたいんで、門の陰貸してください。花見のときの小道具も貸してください。あ、この子、クラブの後輩で石長さくや(いわなが さくや)です」
「こんにちは、さくやです。よろしゅうに」
「いや、カイラシイ子やね!」
「いい、タイミングが大事だからね」
「はい、演劇部最初の試練ですね!」
「いくよ!」
カウンセラーの先生は、バス組のようで、バス停で、バスを待っていた。向かいの団子屋の前に手島栞がいるのは分かっていたが、気づかないふりをしていた。
「カウンセラーの先生!!」
バスに乗り込んだとたん、バスのすぐ近くから栞と、もう一人の女生徒の無邪気な声がした。カウンセラーの先生は、職業的な笑顔になり、窓を開け、声の方角に手を振った。
とたんに、二人は後ろ向きになり、スカートをまくりハーパンをずらしてお尻を突き出した。むろん体育用のハーパンの下にラバーのお尻を付けていたのだが、一見するとホンモノに見える。そして、二人のお尻には大きなチキンのワッペンが貼ってあった。二人並べると「くたばれチキン」「カウンセラー!」と読めた。
バスの中は大笑いになった。バスが動き出すと、二人は『フライングゲット!』とハイタッチして喜んだ。
その日のSNSに、この画像が投稿されたのは言うまでもない……。
23『フライングゲット!』
「なんでも、心の中にあるものは話してくれてええねんよ」
その人は、ラフなうすいグリーンのツーピースを着ていた。
首には細いチェーンの先に勾玉型の飾りのついたペンダントをアクセントのようにぶらさげ、マシュマロをレンジで軽くチンしたような職業的な優しさ丸出しの顔をして、栞に寄り添った。
府教委が、アリバイのように送ってきたカウンセラーである。
数分前に名前を聞いたが、興味のない栞は、すぐに忘れてしまった。
「ほんとうに、なんでもいいんですか?」
「ええ、かめへんよ」
「なんで、わたしにカウンセリングが必要なんですか?」
「そら、そういうとこよ。人と話をするのに対立的な話し方するでしょ。それは手島さんが、今まで、どんなに否定的な扱いを受けてきたかが、よう分かるの。いえいえ、別に否定的な話し方でもええねんよ。とにかく話してちょうだい」
「根本的な話をしてるんです。カウンセリングが必要なのは、学校……大阪そのものです。カウンセリングする相手を間違えてます」
「そやけど、手島さんは、今度の勇気ある行動に出るのに、えらい神経使こたでしょ。で、ちょっと話したら、気い楽になるんとちゃう?」
「あのね、先生。わたしは学校に戦いに来てるんです。戦闘中ですので、ダメージは覚悟の上です。それとも、わたしの戦争に参加していただけます?」
「あのね……」
「これ、学校で問題が起こった場合の府教委の対応マニュアルです」
栞は、A4の紙の束を置いた。
「管理職からの報告→事情聴取→指導主事の派遣→問題の解析・整理→保護者への説明と生徒への対応。これが過去の事象から読み取れる府教委の対応の大まかなマニュアルです。で、先生がやろうとなさっているのは、ここ。生徒への対応の中のカウンセリングに当たります。分かります?」
「はあ……」
「で、問題の解析・整理の段階で間違えているんです。個人としての生徒が、特定の教師から、暴行あるいはイジメを受けたのと同じ対応できているんです。わたしは本校のカリキュラム及び教育姿勢を問うているんです。その課程で、いささかの軋轢があるのは当然です。いいですか、大事なのは府教委のカテゴライジングなんです。教職員による生徒への暴行・イジメではないんです。むろん精神的な暴行と言っていい事象はありました。だから、父を代理人として告訴もしました。本命の問題は、あくまでカリキュラム、教育姿勢の問題なんです」
「そやけど、手島さん自身傷ついてるのは確かやろし……」
「あなたがやろうとしているのは、心臓が悪い大人を治すために、その子供の子守をしているようもんなんですよ。子守をしても親の心臓は治りません!」
「そやかて、手島さん……」
「先生は、硬直化したマニュアルに組み込まれた、意味のない歯車なんです。よく認識なさってください」
そういうと栞は、相談室を飛び出した。カウンセラーは、予定の六時まではこなしたので、記録を整理してさっさと帰ってしまった。
「先輩、怖い顔してますよ」
いつのまにか、さくやが横に並んでいる。
「ゲ、あなた、いつから居たのよ!?」
「校門出たとこから」
「演劇部は無いからね」
「ありますよ。先輩とさくや。顧問に入部願いも出してきましたし」
駅前近くに来ると、フライドチキンのスタッフがチラシを撒いていた。
「あの、それもらえます?」
「あ、どうぞ。高校生10%割引中!」
「それじゃないんです。胸に付けてらっしゃるチキンのワッペン」
「え、ああ、ええよ。そのかわり店にも来てね」
「はいはい、そこの津久茂屋という団子屋さんもよろしく。わたし、不定期でバイトやってるから」
「そうかいな、お互いよろしゅうに!」
「さくやちゃん、あんた体育のハーパン持ってる?」
「あ、じゃまくさいよって穿いたままです」
さくやがスカートを少しまくり上げると、学年色のハーパンの裾が見えた。
「ちょっと、こっち来てくれる」
「こんちは!」
「あら、栞ちゃん、今日はシフトには入ってへんけど」
恭子さんが笑顔で言った。
「ちょっと着替えたいんで、門の陰貸してください。花見のときの小道具も貸してください。あ、この子、クラブの後輩で石長さくや(いわなが さくや)です」
「こんにちは、さくやです。よろしゅうに」
「いや、カイラシイ子やね!」
「いい、タイミングが大事だからね」
「はい、演劇部最初の試練ですね!」
「いくよ!」
カウンセラーの先生は、バス組のようで、バス停で、バスを待っていた。向かいの団子屋の前に手島栞がいるのは分かっていたが、気づかないふりをしていた。
「カウンセラーの先生!!」
バスに乗り込んだとたん、バスのすぐ近くから栞と、もう一人の女生徒の無邪気な声がした。カウンセラーの先生は、職業的な笑顔になり、窓を開け、声の方角に手を振った。
とたんに、二人は後ろ向きになり、スカートをまくりハーパンをずらしてお尻を突き出した。むろん体育用のハーパンの下にラバーのお尻を付けていたのだが、一見するとホンモノに見える。そして、二人のお尻には大きなチキンのワッペンが貼ってあった。二人並べると「くたばれチキン」「カウンセラー!」と読めた。
バスの中は大笑いになった。バスが動き出すと、二人は『フライングゲット!』とハイタッチして喜んだ。
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