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097『騒めくお札たち』
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漆黒のブリュンヒルデQ
097『騒めくお札たち』
駅前通りはお札と、お札の欠片でいっぱいになった。
まともなお札は平気でいるけど、切られたお札の中にはウンウン唸っているものもいる。
「肖像のところで切られたのは死んでるみたいニャ」
ねね子が拾った一万円札は諭吉が痛そうに左腕を押えている。このお札は左の四半分が切れて無くなっていた。
「こちらんお札はけしんじょるようじゃ」
玉ちゃんが拾った五千円札は肖像のところで斜めに切られ、袈裟懸けに切られた樋口一葉が血反吐を吐いてこと切れている。
「これは、いったい……」
豪徳寺に武笠ひるでとして降臨して以来、数百数千の妖や怪異と遭遇したが、こういうのは初めてだ。
「お札だから、銀行と関係はないのかニャ?」
みそな銀行を指さすねね子。
「銀行には、特別あやしか空気は感じんど。大金庫ん中にけっこうなお金があっどん、みんな穏やかに眠っちょっごたっ」
「そうだニャ、銀行に怪しいお金があったら日本の経済は危ないのニャ」
「それもそうじゃ(^_^;)」
ねね子の洒落に、少しだけ空気が和む。
ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ
生き残ったのやら瀕死なのやら、お札たちが騒めき始めた。
死んだお札たちは、そのあおりを受けて舞い上がったかと思うと、真っ黒な切れ端になって、それも、すぐに粉々になって吹き消すように消えてしまった。
ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ
ざわめきが、さらに激しくなったかと思うと、お札たちは無数のカラスに身を変えていく。
「こいつら、カラスの化身だったのか!?」
スパスパ スパパパパ スパパパパ
小気味いい音がしたかと思うと、カラスたちはカマイタチのように見えない刃物で次々に切られ始めた。
「避難するぞ!」
「「う、うん」」
セイ!
三人別々にジャンプして、電柱や商店や駅の高架の上に居場所を移す。
やがて、半分ちょっとのカラスがやっつけられ、残り半分近くが逃げ散ったところで、抜き身を下げたお侍風が現れた。
「いやあ、すまん、余裕がのうてな。ちいと脅かしてしもうたな」
刀を収めると、お侍風はガシガシと頭を掻いた。
え、ザンギリ頭?
お侍ではなく、お侍風に見えたのは、ちょんまげではないからだ。
体つきも華奢で、大きな口がへの字に結ばれて、わんぱく坊主が、そのまま大人になって刀を振り回しているような感じだ。
「ああ、おめ、長州ん高杉晋作じゃなかと!?」
玉ちゃんの頬が緩んだ。
「え、おまえが、高杉晋作か?」
「ああ、そねーな名前じゃったこともあるかなあ……他にも、谷 潜蔵、谷 梅之助、備後屋助一郎、三谷和助、祝部太郎、宍戸刑馬、西浦松助やらがあるけぇ、好きに呼んでくれたらええ。お嬢ちゃんらは何者や?」
「荒田八幡宮ん玉依姫じゃ、会うたぁはいめっだじゃっどん、お参りけ来た薩摩ん者からはよう聞いちょった」
「おお、荒田八幡の神さまか」
「わたしは武笠ひるでだ」
本名を名乗ってもいいんだが、北欧神話は知らんだろうしな。
「ねね子ニャ、豪徳寺の招き猫ニャ(^▽^)/」
「なんか面白い組み合わせじゃ……それ!」
晋作は軽くジャンプすると、高架の上、わたしの横に並んだ。
「なんだ、高いところが好きなのか?」
「高好き晋作じゃけぇな」
「フ、ダジャレか」
それには応えず、なにやら算盤を取り出した。
「セイ」「ニャン」
興味を持った二人も、こちらにやってきた。
「侍が算盤をやるのか?」
「薩摩ん侍も算盤はやっちょった、西郷吉之助なんか、そけらん商売人よりも計算が早かったよ」
「それで、なんの計算をやっているのかニャン?」
「これまでに退治したカラスの数じゃ……今日の分を足さんにゃあなあ……さっきのが13734……そっちの辻に503……高架の上に27……」
「世田谷の衛生局からカラス退治とか頼まれたのかニャ?」
「そっちに308……こっちに72……ああ、まだまだじゃのぉ」
盤面にため息をつく晋作。我々もつい覗き込んでしまう。
「あ、ひょっとしてもしかしたらあれじゃらせんかなあ?」
さすがは神さま、玉ちゃんがなにか思い当たる。
「お、あっちに、まだ討ち漏らしのカラスが居る! せっかくじゃが、またな!」
算盤を懐にねじ込むと、晋作はジャンプしながら刀を抜いて虚空に消えた。
「……忙しい奴なのニャ」
「で、玉ちゃん、なにがもしかしたのだ?」
「あや、三千世界んカラスを打ち平らげようとしちょっど……」
「ああ……朝寝がしてみたいってやつニャ……」
「朝寝? 三千世界?」
ひとり首をひねるばかりのわたしであった……。
☆彡 主な登場人物
武笠ひるで(高校二年生) こっちの世界のブリュンヒルデ
福田芳子(高校一年生) ひるでの後輩 生徒会役員
福田るり子 福田芳子の妹
小栗結衣(高校二年生) ひるでの同輩 生徒会長
猫田ねね子 怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
門脇 啓介 引きこもりの幼なじみ
おきながさん 気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
スクネ老人 武内宿禰 気長足姫のじい
玉代(玉依姫) ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
お祖父ちゃん
お祖母ちゃん 武笠民子
レイア(ニンフ) ブリュンヒルデの侍女
主神オーディン ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
097『騒めくお札たち』
駅前通りはお札と、お札の欠片でいっぱいになった。
まともなお札は平気でいるけど、切られたお札の中にはウンウン唸っているものもいる。
「肖像のところで切られたのは死んでるみたいニャ」
ねね子が拾った一万円札は諭吉が痛そうに左腕を押えている。このお札は左の四半分が切れて無くなっていた。
「こちらんお札はけしんじょるようじゃ」
玉ちゃんが拾った五千円札は肖像のところで斜めに切られ、袈裟懸けに切られた樋口一葉が血反吐を吐いてこと切れている。
「これは、いったい……」
豪徳寺に武笠ひるでとして降臨して以来、数百数千の妖や怪異と遭遇したが、こういうのは初めてだ。
「お札だから、銀行と関係はないのかニャ?」
みそな銀行を指さすねね子。
「銀行には、特別あやしか空気は感じんど。大金庫ん中にけっこうなお金があっどん、みんな穏やかに眠っちょっごたっ」
「そうだニャ、銀行に怪しいお金があったら日本の経済は危ないのニャ」
「それもそうじゃ(^_^;)」
ねね子の洒落に、少しだけ空気が和む。
ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ
生き残ったのやら瀕死なのやら、お札たちが騒めき始めた。
死んだお札たちは、そのあおりを受けて舞い上がったかと思うと、真っ黒な切れ端になって、それも、すぐに粉々になって吹き消すように消えてしまった。
ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ
ざわめきが、さらに激しくなったかと思うと、お札たちは無数のカラスに身を変えていく。
「こいつら、カラスの化身だったのか!?」
スパスパ スパパパパ スパパパパ
小気味いい音がしたかと思うと、カラスたちはカマイタチのように見えない刃物で次々に切られ始めた。
「避難するぞ!」
「「う、うん」」
セイ!
三人別々にジャンプして、電柱や商店や駅の高架の上に居場所を移す。
やがて、半分ちょっとのカラスがやっつけられ、残り半分近くが逃げ散ったところで、抜き身を下げたお侍風が現れた。
「いやあ、すまん、余裕がのうてな。ちいと脅かしてしもうたな」
刀を収めると、お侍風はガシガシと頭を掻いた。
え、ザンギリ頭?
お侍ではなく、お侍風に見えたのは、ちょんまげではないからだ。
体つきも華奢で、大きな口がへの字に結ばれて、わんぱく坊主が、そのまま大人になって刀を振り回しているような感じだ。
「ああ、おめ、長州ん高杉晋作じゃなかと!?」
玉ちゃんの頬が緩んだ。
「え、おまえが、高杉晋作か?」
「ああ、そねーな名前じゃったこともあるかなあ……他にも、谷 潜蔵、谷 梅之助、備後屋助一郎、三谷和助、祝部太郎、宍戸刑馬、西浦松助やらがあるけぇ、好きに呼んでくれたらええ。お嬢ちゃんらは何者や?」
「荒田八幡宮ん玉依姫じゃ、会うたぁはいめっだじゃっどん、お参りけ来た薩摩ん者からはよう聞いちょった」
「おお、荒田八幡の神さまか」
「わたしは武笠ひるでだ」
本名を名乗ってもいいんだが、北欧神話は知らんだろうしな。
「ねね子ニャ、豪徳寺の招き猫ニャ(^▽^)/」
「なんか面白い組み合わせじゃ……それ!」
晋作は軽くジャンプすると、高架の上、わたしの横に並んだ。
「なんだ、高いところが好きなのか?」
「高好き晋作じゃけぇな」
「フ、ダジャレか」
それには応えず、なにやら算盤を取り出した。
「セイ」「ニャン」
興味を持った二人も、こちらにやってきた。
「侍が算盤をやるのか?」
「薩摩ん侍も算盤はやっちょった、西郷吉之助なんか、そけらん商売人よりも計算が早かったよ」
「それで、なんの計算をやっているのかニャン?」
「これまでに退治したカラスの数じゃ……今日の分を足さんにゃあなあ……さっきのが13734……そっちの辻に503……高架の上に27……」
「世田谷の衛生局からカラス退治とか頼まれたのかニャ?」
「そっちに308……こっちに72……ああ、まだまだじゃのぉ」
盤面にため息をつく晋作。我々もつい覗き込んでしまう。
「あ、ひょっとしてもしかしたらあれじゃらせんかなあ?」
さすがは神さま、玉ちゃんがなにか思い当たる。
「お、あっちに、まだ討ち漏らしのカラスが居る! せっかくじゃが、またな!」
算盤を懐にねじ込むと、晋作はジャンプしながら刀を抜いて虚空に消えた。
「……忙しい奴なのニャ」
「で、玉ちゃん、なにがもしかしたのだ?」
「あや、三千世界んカラスを打ち平らげようとしちょっど……」
「ああ……朝寝がしてみたいってやつニャ……」
「朝寝? 三千世界?」
ひとり首をひねるばかりのわたしであった……。
☆彡 主な登場人物
武笠ひるで(高校二年生) こっちの世界のブリュンヒルデ
福田芳子(高校一年生) ひるでの後輩 生徒会役員
福田るり子 福田芳子の妹
小栗結衣(高校二年生) ひるでの同輩 生徒会長
猫田ねね子 怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
門脇 啓介 引きこもりの幼なじみ
おきながさん 気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
スクネ老人 武内宿禰 気長足姫のじい
玉代(玉依姫) ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
お祖父ちゃん
お祖母ちゃん 武笠民子
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