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87『魔石の熱』

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くノ一その一今のうち

87『魔石の熱』そのいち 




 胸のあたりがジーーンと熱い。


 魔石が熱をもっているんだ。

 よくできたカイロが胸のツボに当って、全身が温まっているような感触。

 これまでも魔石が力を発揮してくれた時は、今と同様に熱を持ったものだけど、今回は今までにない熱さだ。

 夢中で駆け抜けたが、敵の車列は見込みの倍近く、通り抜けた分だけで一個旅団の規模がある。左右に展開し始めていた別動隊を含めれば師団規模だったかもしれない。
 お祖母ちゃんからもらった時は単なるお守り程度にしか思っていなかったけど、こいつはすごい力を持っている。

 これ以上魔石に頼っては、魔石をダメにしてしまう、ひょっとしたら魔石も自分も両方ダメにしてしまうかもしれない。

――見えている限り、一キロ四方に敵はいません。一時の方向十キロに草原の国の都が見えます――

 えいちゃんも慣れてきたようで、自分から糸を外して上空で警戒してくれている。
 
――長瀬に戻ったら一反木綿の役が来るかもね――

――いえいえ、いつか必ず三次元になってリアルの女優になるんです!――

――ごめんごめん、そろそろ下りてきて――

――はい――

 クルクル下りてきたえいちゃんは、目の高さでソヨソヨして動かない。

「え、どうかした?」

『ええ、もう少し小さくなれるような気がするんです』

「えいちゃんが?」

『はい、小さくなって魔石を包んだら気持ちがいいかなあって……』

「え、そうなの(n*´ω`*n)」

『あ、変な意味じゃないんですけどね(^_^;) そうしたら、魔石の断熱にもなるし、わたしもなんだか力がもらえそうな気がするんです。いいですか?』

「あ、うん」

『では!』

 シュルシュル

 小さくなって丸まったかと思うと、襟の隙間から飛び込んできて魔石を繭のようにくるんでしまった。

 剥き出しのカイロが保温袋に入ったみたいで、調子が良くなった。

『うん、とってもいい感じです』

「じゃ、いくよ!」

 草原を駆けながら思った。

 魔石は、わたしだけではなくえいちゃんにもいい影響を与えているのかもしれない。

 胸の高さほどに茂った草をかき分けて走る。

 社長たちといっしょに来た時は顔や手足に草の葉っぱや穂が当たって煩わしかったけど、今は、草が当たる感触がない。

 ひょっとしたら、薄いバリアーを張れる力が身に付いたのかもしれない。

 パージ

 小さく念じてみる。

 ピシピシピシ(>.<) ……痛い。

 慌てて――バリア――と念じる。とたんにピシピシが無くなる。

『なにやってるんですか!?』

「忍法バリア……的な?」

『ウフフ、調子いいみたいですね』

「えいちゃんこそ」

 いつの間にか声に出して会話している。

 ちょっと浮かれ過ぎた……思った瞬間、前方に敵の気配!

―― !? ――
――停まって――

 わたしの勘とえいちゃんの警告は同時だった。

 ザザ

 急停止して草の葉の間から様子を伺う。

 え?

 敵は大胆にも、草の中から姿を現している。
 
 一応の忍者服に身を包んではいるが、素で晒した顔は、朝のプラットホームに立てばいくらでも目につくサラリーマン風。

――これから先には行かせない――

 その懐かしい思念は、照明技師にして猿飛佐助の筆頭配下である多田さんだった!


☆彡 主な登場人物
風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
アデリヤ         高原の国第一王女
サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
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